上 下
50 / 205

第50話「運命のアドバイス」

しおりを挟む
 ダックヴァルの店を出て、俺達が向かったのは……
 
 ブリジット・フルールという妙齢の女性が営む宝石店ジュエリーストアである。
 ジュリアがさっき言っていた、フルールさんの店とはここ。
 
 主に扱っているのは、ヴァレンタイン王国の商業ギルド経由で売られた真っ当な正規ルートの宝石ジェム
 迷宮などから持ち込まれた、いわゆるヤバイものではない。

 ジュリアが、何故ここへ俺達を連れて来たか?
 理由は、ふたつある。

 ひとつはダックヴァルに会わせたのと同じく顔見世、ふたつめは真っ当な宝石の小売価格を覚えて欲しい事。
 俺が邪神様に改造して身体は幸い頭も良く、記憶力など抜群。
 適当に改造したのに意外。
 凄く自慢しただけの事はある。

 だが膂力りょりょくと魔力のバランスが悪いとも言っていた。
 今更だが、よおく分かった。
 俺は一応戦えるが、魔法に関してはしょぼい生活魔法しか使えない。
 
 これで神の使徒なんて、ちゃんちゃらおかしい。
 誰かに知られたら、そう言われるのは確実。
 
 でもそれは使徒という高レベルでの話。
 世間では超人や天才ではなくとも、秀才で充分幸せになれる。
 この頭が前世でもしあったら、偏差値も凄い有名大学へ楽勝で行けただろうから……
 顔は別として改造された俺が前世へ戻れていたらと思う。
 あの世界に生きていた俺は、はっきり言ってほぼ詰んでいたから。
 結果的に、邪神様に強制された異世界転生は成功だと思わざるとえない。

 邪神様が自分のお蔭だと勝ち誇るのはしゃくだが、このイケメン顔とこのスーパーチートな身体のお陰でふたりの超絶美少女をゲット。
 お金も、バッチリ儲けられそうなのだからもっと感謝……いや自らの信仰心を上げなくては。
 
 その代償……すなわち使徒として、俺はこの世界での信仰心を上げる為にきっちり働かなくてはいけない。
 でないと、あの邪神様の性格上、絶対に神罰が下ってしまう。
 
 さて、ジュリアはフルールさんへ俺とイザベラの講師役を頼んだ。
 
 フルールさんの話は多岐に渡った。
 数多在る宝石の特長を聞き、小売価格の相場を覚えて行く。
 内容は結構、マニアック。
 だが、こんな事……今の俺にとっては、もう楽勝だ。

 ついでにモーリスから買ったガーネット……アルマンダイガーネットというのだそうだが、ついでに売却する。
 ここでもダックヴァルが言っていた嘘発見器、もとい魔法水晶で盗品じゃないかを判断するという。
 魔法水晶の検査の結果……当然、俺達はシロ。
 柘榴石ガーネットはふたつで金貨1枚という値段で売れ、僅かだが利益も得たのである。
 しかし肝心のオリハルコンに関して、フルールさんは何も知らなかった。
 ちょっと残念だが仕方がない。

 フルールさんの店を出て次に向かったのはこのジェトレでも比較的大きい店。
 キングスレーという商会だ。
 
 ここは基本的に小売というより、大口の取引をメインに行う店らしい。
 前世で言えば、総合商社という所だろう。
 責任者は、支社長のアメデラ・フォンティという奴。
 30歳くらいの、にこやかだがやり手らしい男だ。

 何でも、商会トップの会頭であるチャールズ・キングスレーから、このジェトレ村で支店を開き、軌道に乗せるよう命じられたという。
 成功するまで、故郷のバートランドには帰れないらしい。
 他人事ながら大変だと思う。
 心から同情する。

 ところで、この商会へ訪問の目的もやはり顔見世……人脈つくり。

 アメデラにもやはりマルコという兄が居て、キングスレー商会の番頭格だそうだ。
 彼にもダックヴァル同様、もしバートランドに行くのであれば訪ねてくれと言われてしまう。
 だがアメデラも、オリハルコンに関しては一般的な事しか知らず、所有者の情報も持っていなかった。
 そんなこんなで、オークションの時間も迫って来た。

 結局、俺達は3軒の店を回って商業ギルドへ戻ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 商業ギルド、午後3時……

 時間がもうない。
 まず、俺達はオークション出品の申し込みをする。
 ダックヴァルから仕入れた魔道具を、オークションでの競売にかける為だ。
 結局、上代の65%で買い取ろうというダックヴァルの申し出はあったが、オークションでの経験を積むのが大事。
 加えて、あわよくば上代以上の売却を狙うのが目的なのである。

 ここで急に!
 俺に対して例の『勘』が働きかけた。
 邪神様の声ではない。
 これも改造された能力なのか?
  
 その勘とは……
 賢者の石と反魂香を絶対に売るな……という俺への警告だった。
 いや、これは警告ではなくアドバイスだな……

 今後、このふたつのアイテムが運命を左右するキーアイテムとなるのか?
 詳しい事は分からない。
 俺は素直にアドバイスに従う事に決めた。

 おお!
 そういえば「売るな」で思い出したぞ。
 ダックヴァルからの忠告って奴だ。

 賢者の石と反魂香、そして……
 俺は急ぎ、ジュリアとイザベラへ、オークションの出品中止を申し入れたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

巻き込まれ転移者の異世界ライフ。○○人の女を囲って幸せに生きる ~ざまぁで終わらせるわけないだろ~

みかん畑
ファンタジー
異世界転移に巻き込まれた男が底辺から成り上がり、調子に乗った挙句ドSな性癖を開花して女を囲いまくる話です。主人公は力をつけてから好き放題します。中盤以降は性描写モリモリな作品です。 5/14 追記:内容を分かりやすくする為に旧題からタイトル変えてます。タイトルと一緒に途中で話の方向性が変わったりとかはないです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

処理中です...