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第29話「ナンパはさせねぇ!」
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俺は速攻で着替えると、すぐに共同浴場を出た。
「悪い! 待った?」
5分ほど約束の時間を過ぎたが、ジュリアは笑顔で待っていてくれた。
「でも」と……口篭るジュリア。
どうした?
何か、あった?
「うん……何人かの男の人に遊びに行こうって、声を掛けられちゃった」
はぁ!?
何ですと!
少し目を離した隙にナンパの嵐とは、どこまで油断が出来ないんだ?
「彼氏と来ています! って言ったのにあそこからまだ見ているし」
俺がジュリアに言われて何気に見ると20歳くらいだろうか、遊び人風の男が俺達を訝しげに見ていたのだ。
男は一見華奢な俺を見て、組し易しと思ったのだろう。
つかつかと近付いて来て、馬鹿にしたような目付きで俺を睨んだのである。
「おら! てめえにはこの女は勿体無い、黙って失せな」
はぁ?
こいつは今、何を言っているんだ?
俺にとっては、このようなシーンに全く現実感が無かった。
恋人を連れていて、絡まれるなど全くの想定外だったからだ。
傍から見て、俺はぼうっと立ち尽くしていたらしい。
「てめぇ……何、腑抜《ふぬ》けになっているんだよ。じゃあ女は連れて行くぜ」
「あ、い、嫌ぁ!」
俺は、ジュリアの声で我に返る。
彼女の声は俺にさっき出した可愛い「いやあん」とは言葉が似て異なるものだ。
その瞬間、俺の中でどす黒い暴力的な感情が吹き上がる。
「おい、待てよ……」
俺の口から出た声は、意外にも全く抑揚の無い低い声であった。
その為、悲鳴をあげるジュリアを無理矢理連れて行こうとする男の耳には届かなかったらしい。
俺の中で、いきなり何かが爆発する。
後ろから左手を伸ばした俺は男の左肩を掴み、力任せに握り潰す。
手の中で、あっさりと骨が砕ける嫌な感触が伝わって来る。
「ぎゃああああああ! いてぇ! いてぇよぉ!」
男は激痛からたまらずジュリアを離し、地面に倒れ込んだ。
潰された肩を押えて呻き声をあげる男。
「立てよ……おら、殺してやるから」
俺は、相変わらず抑揚の無い声で言う。
自分でも何故か不思議なほど、躊躇いや容赦が無い。
涙を流しながら苦痛に耐える男は、信じられないものでも見るように俺を見る。
優男《やさおとこ》に見える俺が、そんな行動に出るとは夢にも思わなかったに違いない。
「た、助けてくれぇ……」
その時、咄嗟に機転を利かせたジュリアが男に言う。
「あんたがいけないのよ。あたしの彼氏は強いって何度も言ったのに舐めてかかるから。だからさ、見逃してあげるから、肩の怪我は偶然に転んだ事にするんだよ。そうじゃないと……」
ここでジュリアは「キッ」と男を睨む。
「本当に殺されるよ、この人に!」
男はジュリアの言葉を聞いて苦痛に顔を歪めながら、がくがくと頷いた。
その時である。
「こらぁ! 喧嘩をしているのはお前等か!」
誰かが俺達のやりとりを見て、衛兵を呼んだらしい。
「逃げるよ!」
ジュリアはすかさず俺の手を取ると、その場に男を残して走り出したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
走って約15分……
真っ直ぐに宿に帰らないで、中央広場とその周辺を回って走った俺達。
相変わらずスパイラルから貰った俺の身体は、その程度の運動では息も切れない。
しかしジュリアは……普通の女の子だ。
さすがに、息が切れている。
「はぁはぁ……トール、あんたって、結構無茶するよね」
ジュリアが、驚いた顔で俺を見つめている。
「助けてくれたのは嬉しいけど、やりすぎかも。あいつ、骨……いっているよね。あれだとこの国では過剰防衛になっちゃうんだ。もし相手が剣でも抜いていれば正当防衛が適用されて全然大丈夫だけど」
俺はまだ戦闘モードから抜け切れていなかったが、ジュリアの言葉と繋いだ手の温かさで徐々に正気へと返る事が出来た。
そうか……
この世界でも『過剰防衛』ってのがあって、それを避ける為には相手に剣を抜かせるなりして理由付けをすれば良いんだな。
このような場合は相手が相手だけに、後難を怖れて男は余計な事は喋らないとジュリアは言う。
「あれだけ脅して言い含めておいたから、多分下手な事は言わないよ、あいつ」
ジュリアは、俺に「ぴたっ」と身体を寄せて来た。
「でもトールって本気出したらやっぱり強いんだ。これからもあたしを守ってね」
午後6時ちょい過ぎに絆亭に戻って来た俺達……
あのナンパ男のお陰で中央広場を走り回り、また汗をかいてしまったがやむを得ないだろう。
真っ直ぐではなく少し時間をかけて宿に戻ったのは、自分達の所在を隠す為と尾行等がついていないか確認する為らしい。
これらも、ジュリアの実生活に基づいた教訓なのである。
ちなみに宿への帰還は、伝えた時間より1時間を過ぎると女将のドーラさんが衛兵隊に通報するという。
やっぱり異世界でも、本のみ読んで得た知識だけでは駄目なんだなぁ……
実践は大事なり。
今日は、とっても勉強になりました。
俺はドーラさんに笑顔で帰還の挨拶をする際、しみじみと感じていたのであった。
「悪い! 待った?」
5分ほど約束の時間を過ぎたが、ジュリアは笑顔で待っていてくれた。
「でも」と……口篭るジュリア。
どうした?
何か、あった?
「うん……何人かの男の人に遊びに行こうって、声を掛けられちゃった」
はぁ!?
何ですと!
少し目を離した隙にナンパの嵐とは、どこまで油断が出来ないんだ?
「彼氏と来ています! って言ったのにあそこからまだ見ているし」
俺がジュリアに言われて何気に見ると20歳くらいだろうか、遊び人風の男が俺達を訝しげに見ていたのだ。
男は一見華奢な俺を見て、組し易しと思ったのだろう。
つかつかと近付いて来て、馬鹿にしたような目付きで俺を睨んだのである。
「おら! てめえにはこの女は勿体無い、黙って失せな」
はぁ?
こいつは今、何を言っているんだ?
俺にとっては、このようなシーンに全く現実感が無かった。
恋人を連れていて、絡まれるなど全くの想定外だったからだ。
傍から見て、俺はぼうっと立ち尽くしていたらしい。
「てめぇ……何、腑抜《ふぬ》けになっているんだよ。じゃあ女は連れて行くぜ」
「あ、い、嫌ぁ!」
俺は、ジュリアの声で我に返る。
彼女の声は俺にさっき出した可愛い「いやあん」とは言葉が似て異なるものだ。
その瞬間、俺の中でどす黒い暴力的な感情が吹き上がる。
「おい、待てよ……」
俺の口から出た声は、意外にも全く抑揚の無い低い声であった。
その為、悲鳴をあげるジュリアを無理矢理連れて行こうとする男の耳には届かなかったらしい。
俺の中で、いきなり何かが爆発する。
後ろから左手を伸ばした俺は男の左肩を掴み、力任せに握り潰す。
手の中で、あっさりと骨が砕ける嫌な感触が伝わって来る。
「ぎゃああああああ! いてぇ! いてぇよぉ!」
男は激痛からたまらずジュリアを離し、地面に倒れ込んだ。
潰された肩を押えて呻き声をあげる男。
「立てよ……おら、殺してやるから」
俺は、相変わらず抑揚の無い声で言う。
自分でも何故か不思議なほど、躊躇いや容赦が無い。
涙を流しながら苦痛に耐える男は、信じられないものでも見るように俺を見る。
優男《やさおとこ》に見える俺が、そんな行動に出るとは夢にも思わなかったに違いない。
「た、助けてくれぇ……」
その時、咄嗟に機転を利かせたジュリアが男に言う。
「あんたがいけないのよ。あたしの彼氏は強いって何度も言ったのに舐めてかかるから。だからさ、見逃してあげるから、肩の怪我は偶然に転んだ事にするんだよ。そうじゃないと……」
ここでジュリアは「キッ」と男を睨む。
「本当に殺されるよ、この人に!」
男はジュリアの言葉を聞いて苦痛に顔を歪めながら、がくがくと頷いた。
その時である。
「こらぁ! 喧嘩をしているのはお前等か!」
誰かが俺達のやりとりを見て、衛兵を呼んだらしい。
「逃げるよ!」
ジュリアはすかさず俺の手を取ると、その場に男を残して走り出したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
走って約15分……
真っ直ぐに宿に帰らないで、中央広場とその周辺を回って走った俺達。
相変わらずスパイラルから貰った俺の身体は、その程度の運動では息も切れない。
しかしジュリアは……普通の女の子だ。
さすがに、息が切れている。
「はぁはぁ……トール、あんたって、結構無茶するよね」
ジュリアが、驚いた顔で俺を見つめている。
「助けてくれたのは嬉しいけど、やりすぎかも。あいつ、骨……いっているよね。あれだとこの国では過剰防衛になっちゃうんだ。もし相手が剣でも抜いていれば正当防衛が適用されて全然大丈夫だけど」
俺はまだ戦闘モードから抜け切れていなかったが、ジュリアの言葉と繋いだ手の温かさで徐々に正気へと返る事が出来た。
そうか……
この世界でも『過剰防衛』ってのがあって、それを避ける為には相手に剣を抜かせるなりして理由付けをすれば良いんだな。
このような場合は相手が相手だけに、後難を怖れて男は余計な事は喋らないとジュリアは言う。
「あれだけ脅して言い含めておいたから、多分下手な事は言わないよ、あいつ」
ジュリアは、俺に「ぴたっ」と身体を寄せて来た。
「でもトールって本気出したらやっぱり強いんだ。これからもあたしを守ってね」
午後6時ちょい過ぎに絆亭に戻って来た俺達……
あのナンパ男のお陰で中央広場を走り回り、また汗をかいてしまったがやむを得ないだろう。
真っ直ぐではなく少し時間をかけて宿に戻ったのは、自分達の所在を隠す為と尾行等がついていないか確認する為らしい。
これらも、ジュリアの実生活に基づいた教訓なのである。
ちなみに宿への帰還は、伝えた時間より1時間を過ぎると女将のドーラさんが衛兵隊に通報するという。
やっぱり異世界でも、本のみ読んで得た知識だけでは駄目なんだなぁ……
実践は大事なり。
今日は、とっても勉強になりました。
俺はドーラさんに笑顔で帰還の挨拶をする際、しみじみと感じていたのであった。
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