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第22話「ジュリアの秘密能力①」

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 俺は今、街道を歩いていた。
 背には、恋人ジュリアが負ぶさっている。

 結局、俺は背負子しょいこを収納の腕輪に仕舞ってから、ジュリアを背負って歩いているのだ。
 
 ジュリアは最初、その恰好が子供みたいで恥ずかしいと渋っていた。
 だが、少しでも早くジェトレ村に到着する為にはこの方が良いと説得した。
 すると俺の意見に対して、素直に従ったのである。
 
 暫し歩いてから、以前不思議に思った事を聞いてみた。

「ジュリア」

「ん?」

「お前、良くこんな危ない道を、ひとりっきりで行き来していたな」

 どう見たってジュリアは、無力な15歳の少女だ。
 動きは多少素早いが、戦う力も無くて抵抗するすべも碌に持ってはいない。
 中世西洋を例に取ると、当時街道を旅する行商人は確かに存在する。
 だが彼等の商売用の荷物は山賊などの恰好の餌食な為に、普通は屈強な護衛を雇って旅をするのが常識なのである。
 加えてこの世界は、人だけでなく怖ろしい魔物まで出没するから。
 
「だって、あたしには護衛を雇うお金なんか無いんだもの」

 ジュリアは醒めた顔で笑い、顔をしかめた。

「それに村の男は勿論だけど、村に来る冒険者や傭兵崩れだって、あたしを抱きたいって奴ばかりだったんだ。あんたには『好み』じゃないって言われたけど、これでも散々やらせろって口説かれたんだよ」

 ええっ!?
 「好みじゃない」って言ったの覚えてたの?
 何か結構、根に持っているみたいだ……
 ……ヤバイ。
 
 俺はジュリアに謝りながら、「大好きだ」と囁くと彼女の機嫌は幸いにして直る。
 そして改めて、ジュリアの置かれた境遇を考えてみた。

 そうか!
 まあ、考えれば当り前か……
 ぎりぎりの生活をしているし、金出して護衛なんか雇ったらジュリアの商売の規模では仲買人の利益など出るわけがない。
 そんな事してたら、商売やる度に大赤字だ。
 稼ぐという前提で、働く意味なんかない。
 
 それにしたって……
 やらせろ! って本能的な奴がそんなに多いんだ……
 だからジュリアは、「ムードを大事にして」って言ったのかしらん。
 うわぁ、だったら初めてのエッチの時、甘い言葉くらいかけてやれば良かった。
 
 恥ずかしいから、ラノベの甘イチャシーンは飛ばして読んでいたツケが来たんだよ、コレ。
 もっと、女の子の口説き方とか、アプローチのやり方とか練習しとけば良かった……
 ああ、俺の、バカ、バカ、バカぁ!
 
 そんな物思いにふけっていた俺に、今度はジュリアが囁く。

「実は、あたし勘が鋭いんだ」

「か、勘?」

「そう! やばそうな気配がしたらそこを避けるんだ。今迄何度もそれで命拾いして来たよ」

 トールと会った時は何故かそれが働かなくて危なかったけどとジュリアは苦笑した。
 さすがにそれはあの『邪神』の陰謀……いや、加護とは彼女には言えない。
 それよりジュリアの秘密能力だ。
 野生の草食動物でもたまに居るけど、いわゆる『危機回避能力』がとても高い動物とか……
 成る程!
 ジュリアはそれで今迄無事に旅が出来たんだな。

「ふ~ん、じゃあこれからも、ヤバそうだったら教えてくれよ」

「分かったよ。じゃあ早速、危な~いっ!」

「へ? あ、危ない? どこに危険がっ!」

「ああっ、ここにも私を凄くエッチな目で見て危なそうな人がひとり居る……名前はトールっていうの」

 ジュリアが悪戯っぽく笑う。

 はぁ!?
 危ないって……俺?
 凄くエッチって、俺の事かよ?
 よ~し!
 じゃあ、君の期待に応えてやろうじゃないか!

 俺はおぶった手で、ジュリアの小さなお尻を強く掴んだ。
 強くと言ったって、所詮優しくだけど。
 まあ甘噛み……みたいなものだ。

「ああっ、いやぁん」

 誰かがどこかで言っていた。
 女の子の「嫌だ」と「いやぁん」は同じ言い方でも大分違うと。
 更に、ここでフォローだ。

「俺、ジュリアみたいにお尻の小さな女の子って大好きなんだ」

 まるで昔聞いた歌のフレーズみたいだ。
 しかし、それを聞いたジュリアは意外そうな表情だ。

「本当? トールも大きなお尻の女の子が良いと思ってたから嬉しいよ」

「トールも、って他に誰かそんな馬鹿げた事を言う奴居るのかよ?」

「ダニーに散々言われたんだ、安産型じゃない小さなお尻の女は駄目だって」

 はぁ?
 ダニーって、一体誰?

「ほら、村を出る時あたし達を睨んでいたあいつさ」

 ああ、あのいじめっ子ね。
 そんな事まで言うなんてあいつ、ジュリアの事本当に好きだったんだなぁ。
 まあ反省しても、もう遅いけどね。
 ジュリアは、俺の彼女にしたから。

「俺は、全部ひっくるめてジュリアが好きなんだ」

 きっぱりと、言い放つ俺。
 以前の俺なら、絶対に言えなかった台詞《セリフ》が来た~! 
 でもこう言われて、相手が大嫌いじゃない限り嫌な女の子なんて居ない……と思うけど。
 さあて、ジュリアは?

「う、うん……あたしもトールの事が好き、大好き!」

 くうう、これだよ、これ。
 これが、『可愛い彼女』が居る幸せって奴なんだ。

 俺はジュリアを背負う手に僅かに力を入れながら、例の舗装されてない街道を歩いて行った。
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