上 下
21 / 205

第21話「カミングアウト」

しおりを挟む
 俺とジュリアはタトラの村に入って来た時のように門番のラリーへ声を掛けた。
 ジェトレ村へ出発するので、村の正門を開けて貰う為である。

「おう、ジュリア! やっぱりこの男とくっついたか? 俺の見立て通りだな」

 ラリーは日がな一日外に居て顔も真っ黒に日焼けしているので、笑うと余計に歯の白さが目立つ。
 ジュリアが手を腰に置いて口を尖らせる。

「何よ、見立て通りって? トールを連れて来た時はそんな事、何も言っていなかったじゃない?」 

「ははは、俺がこいつは大事な客人だから家に連れて行けって言ったろう? それだよ、それ! 加えて、この男は格好良い2枚目だから面食いのお前好みだと思ったのさ」

 ラリーは、この勝気な少女が格好の暇つぶしの相手だと思ったのであろう。
 面食いとからかわれたジュリアがむきになると、余計に面白がった。

「もう! トールがカッコ良いって、確かにそうだけどさ。そんなの後から何とでも言えるじゃない。今更、彼を褒めても何も出ませんよ~だ」

 ん?
 ちょっと待て!
 2枚目って?
 カッコ良い?
 この俺がか?

 俺がいぶかしげな顔をして首を傾げているので何を考えているのか分かったのだろう。
 ジュリアがすかさず、自分の普段使っている手鏡を差し出した。
 俺は、その手鏡で何気なく自分の顔を見てみる。

 な、な、な、な!

 そこに映って居たのは黒髪で黒い瞳ではあるが、前世の俺とは全く違う。
 彫りの深い顔立ちのイケメンが、鏡の中で吃驚した表情で映っていたのだ。

 お、俺の元の顔は?
 ど、どこぉ!?

『うふふふ、そんなのとっくに捨てちゃったよぉ』

 いきなり『邪神様=スパイラル』の声が響く。
 それも悪戯っぽく含み笑いしているし……

 捨てたぁ!? そんなの酷いっ!
 いくら2枚目じゃないとはいえ、17年一緒だった愛着のある顔だぞ。

『え? 何が酷いの? あんな暗そうな貧乏顔をこんな格好良いイケメンに改造したから、この娘とも知り合えてばっちり童貞を捨てる事が出来たんじゃん。感謝してよ』

 スパイラルの声は相変わらず偉そうで、姿が見えなくても上から見下して発しているのがまる分かりだ。

 でもさぁ……
 少しくらい俺の意思を尊重してくれたって!

『単なる使徒である君の反論は一切受け付けないよ、じゃあね~ん』

 スパイラルは一方的に電話を切るのと同じ様に会話を終了させてしまう。
 更に彼との会話は当然他人には聞こえない。
 傍から見るとぼうっと立ち尽くしただけの俺へ、ジュリアとラリーが心配そうに声を掛けた。

「トールったら! 大丈夫?」

「おいおい、ジュリアに惚れられて舞い上がって、白昼夢でも見たのかい?」

「え、は、はいっ! だいじょうぶですう!」

 慌てて大声を出す俺を心配そうに見守るジュリア。

 そうだよ! 
 俺は生まれ変わったんだから前世の顔のままじゃおかしいだろう?

 俺は無理矢理自分にそう言い聞かせて納得させると、ラリーにぎくしゃくした動きで一礼し、ジュリアの手を引っ張ってタトラ村の正門を後にしたのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺とジュリアは村から出て村道を歩き、まず街道へ向っている。
 ジュリアはまだ俺の事が心配らしく複雑な表情を浮かべていた。

「トールったら、もしかしてナルシスト?」

 ジュリアがいきなり聞いて来た言葉に俺は耳を疑った。

 え?
 この世界にも『ナルシスト』なんて言葉があるの?

「うん、水面に映る自分の美しさに見とれて恋をしたナルキッソスという少年がそのまま餓死してお花になったっていう伝説があるんだ。まさかトールもそうなの?」

「ま、まさか!?」 

「そう? よかったぁ! でもトールって、ラリーが言う通り格好良いよ」

 そう言うとジュリアは僅かに頬を染めた。
 ジュリアが良いなら……

 そ、そう?
 じゃあ……ま、いっか!

 今更深く考えてもしょうがないだろう。

「じゃあ俺からも話があるんだよ、ジュリア」

 実はそろそろ能力や装備のカミングアウトをしようと、昨夜のうちにいろいろな言い訳を考えていたのである。
 まずは『収納の腕輪』のカミングアウトだ。 

「実はこの腕輪なんだけど……死んだ爺ちゃんから受け継いだ魔法の腕輪なんだ」

 俺は周囲を見渡して、誰も居ないのを確かめてから声を潜めてそう言った。
 最もらしい理由であるし、ジュリアに嘘をつくのは心苦しいが、まさかスパイラル神から貰ったとは言えない。

「ふふふ、本当? でもその腕輪、見た目は凄く地味だし、安そう。一体、どのような能力なの?」

 半分以上、俺の冗談だと思っているらしくジュリアは面白そうに聞いている。

「とりあえず約束してくれ。俺の持っている武器や道具の秘密を守るって」

 俺は念を押し、ジュリアが頷くのを確かめると背負子しょいこを地面に降ろした。

「え、荷物……どうするの? やっぱり私に背負って欲しいの?」

 実は出発する時、自分の荷物だから背負子を自ら背負うとジュリアが主張したのだ。
 それを俺が退けて荷物持ちを無理やり買って出た。
 なのに村を出たばかりのこの場所で荷物を降ろすとは……
 ジュリアにとって俺の行動は、とても不可思議に映ったのであろう。
 
 また荷物を持つというのは、女性にとっては自分に優しくしてくれる行為だ。
 愛してくれる喜びを感じていたジュリアの表情には逆に落胆の色が見えていたのである。

「頼むから、吃驚びっくりして大きな声を出さないでくれよ」

「わ、分かっているわよ」

 何度も念を押す俺の真剣な表情に、ジュリアは何かあると思ったらしい。
 落胆の色を急いで引っ込めると、唾をごくりと飲み込んだのである。
 俺は腕輪に念を込めながら「収納リシープト」と呟く。
 
 すると目の前の背負子が忽然と消えてしまったのだ。

「え、えええええっ!」

「ほらっ! ジュリア、し~っ」

 驚くジュリアに俺は静かにするようにひとさし指を唇に当てる。

「だ、だって! しょ、背負子が! 荷物はどこ?」

 俺が手品のように跡形も無く背負子を消してしまったのでジュリアの動揺は激しかった。

「大丈夫さ。見てろよ、ジュリア。取り出すテークアウト!」

 俺がすかさず背負子を取り出す為の言霊を唱えると、さっきあった場所にぱっと背負子が現れたのである。

「あうあうあう」

 ジュリアは余りのショックの為か酸欠の金魚のように口をぱくぱくして俺を見詰めている。

「結構、使えるだろ。この腕輪?」

 俺の言葉を聞いて無言で何度も頷くジュリアを、俺は改めて抱き締めたのであった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

処理中です...