上 下
19 / 205

第19話「初仕事決定!」

しおりを挟む
 俺にとって生まれて初めての取引は、ジュリアの助けもあって無事に済んだ。
 万屋の店主モーリスはジュリア同様、俺にも人懐こい笑顔を向けた。

「トールよ、さっき言ったようにウチは『買い取り』もやっているからな。宜しく頼むよ」

 買い取りか……

 ジュリアも彼の店の買い取りの仕事をやっていると言っていた。 
 そうか、こうやって彼の代わりに商品や素材の買い付けをしてくるのが仲買人ブローカーの仕事なんだな。
 仲買人の仕事に興味が出て来た俺はもう少し内容が知りたくなった。

「トール、そういう時はモーリスの希望と条件を聞くんだよ」 

「成る程! モーリスさんは何か特に希望はあるの?」

 俺も最初よりはモーリスと気安く話せるようになっていた。
 徐々にだけど……
 こうやって少しずつ、コミュ障も克服出来るのかしらん。

「ああ、店で売れそうな日用品は勿論だが、俺が使う錬金の材料とかも買って来て貰えると助かるな」

 錬金の材料って……ええと……
 ああ、色々あるよな。
 記憶が甦った俺は錬金術師に好まれる素材を片っ端からあげて行く。

「金属ならまず、金、銀、銅、鉄、鉛、錫、そして水銀ですか。他にも黄鉄鉱、孔雀石、トルコ石、石炭などたくさんありますね」

 俺が調子に乗って資料本の受け売りで話を合わせると、元?錬金術師であるモーリスは嬉しそうに笑う。
 ああ、ちょっと不安。
 偉そうに語る俺だって、資料本から受け売りの知識で心もとないから。
 だけど、普段は錬金術の話題を交わせる相手など居ないのであろう。
 そのせいか、モーリスは結構、嬉しそうだ。

「おお! お前やけに詳しいな。いや、そうなんだよ。さすがに高価な金とか銀が欲しいとは言わん。だからそれ以外の金属を調達して来てくれ。物に応じて報酬を払うぞ。俺の作った『金』でな、ふふふ」

 ああ、そうか。
 俺の前世の錬金術師達は、結局金を造る事は出来なかった。
 化学的な発見は多くしたけれど。
 しかしモーリスの口ぶりでは、この異世界の錬金術師は金を造る事が可能なんだ。
 俺は凄く驚いてしまった。
 だけど、ここでストップをかけたのがジュリアである。

「ちょっと待った! おっちゃん、言っとくけど勝手にトールと契約しないでよ。トールとあたしは一心同体なんだから」

 俺とジュリアが一心同体?
 嬉しいけど……文字通り重い言葉だ。
 段々俺って、君の尻の下に敷かれている気がして来たよ。

「分かった、分かった。それで、一体何が不満なんだ?」

「支払い条件さ。怪しげな元錬金術師のおっちゃんの作った『金』なんて危なっかしくてしょうがないよ。あたしは現金主義だから真っ当な金貨で購入して貰うか、どうしてもって時はトレードだね」

 ジュリアにきっぱりと言われたモーリスは頭を掻いた。

「ひで~な。俺ってそんなに信用無いのか?」

「当り前じゃない。あたし、人生に飽きたからって簡単に投げ出す人なんか嫌いだもの」

 ジュリアの容赦ない言葉が、モーリスに向かって投げつけられる。
 叔母さんが居たとはいえ、両親に死なれてぎりぎりの生活をして来た彼女にとってモーリスの悠々自適な生活は少しいらっと来たのであろう。

 この場もジュリアの機嫌もこれ以上悪くなるとさすがにまずい。
 とてもまずい。
 俺は微妙な雰囲気になる前に、別の話題を振る事にした。

「ジュ、ジュリア、今のトレードって何? 教えてくれないか?」

 モーリスを睨んでいたジュリアは、俺に声を掛けられてハッと我に返った様だ。

「あ、ああ、トール。ええとトレードっていうのは買い手と売り手が商品同士を交換して商売する事さ。手持ちの現金が無かったり、お互いに過剰な在庫を持っていたり、相手から自分の持ち物が望まれたり、状況はいろいろあるよ。折り合えば旨みもあるからぜひやるべきだね」

 ああ、トレードって……
 ようは物々交歓って事か、納得。
 ジュリアにもう少し聞いたら、商品がダブついていて、手持ちの現金が無い時は良くあるパターンだそうだ。

「じゃあ、おっちゃん。さっきあんたがトールと話した件はこれで良い?」

 買い付ける品は錬金術用の素材。
 納品のタイミングは、俺達の都合でOK。
 代金は通貨による現金支払いのみ。
 初回だけ全額前払いで、2回目以降は半金前払いで残金は現品と引き換え。
 
 ジュリアは『契約条件』を具体的にモーリスへ提示する。
 俺達側に圧倒的有利な契約内容に苦笑しながら頷いたモーリスは、契約を快く締結してくれた。
 今回は金貨10枚を俺へ託してくれる。
 これで効率よく材料を買って欲しいという事だな。

 これで俺とジュリアの初仕事が決まった。
 ちなみに買う素材の種類と量は俺に任せてくれるそうで、これも納期と共に破格の好条件である。
 まあ俺を信じて任せるというよりも、同じ村民であるジュリアに対して特別の計らいだろうけど。
 でも素直に喜ぼう。
 人との繋がりって、本当に大事だと思ったもの。
 
 初めて仕事をくれたモーリスに丁寧に礼を言って、ジュリアは俺の手を引っ張って店を出たのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

テイマー勇者~強制ハーレム世界で、俺はとことん抵抗します~

つづれ しういち
ファンタジー
 ある日異世界に落とされた日向継道(ひゅうが・つぐみち)は、合気道を習う高校生。目を覚ますと、目の前にはいやにご都合主義の世界が広がっていた。 「あなたは、勇者さまですわ」「私たちはあなたの奴隷」「どうか魔王を倒してください」  しかも期限は一年だという。  チートやハーレムの意味ぐらいは知っているが、それにしてもここははひどすぎる。とにかく色んな女たちが、無闇やたらに寄ってくるんだ。その上なぜか、俺には人を問答無用で自分の奴隷にする能力「テイム」があるのだという。そんなことがあっていいのか。断固、拒否させていただく!  一刻も早く魔王を倒して、リアルの世界へ戻らねば……! ※つづれしういちによる「アルファポリス」での連載です。無断転載はお断りします。 ※チートとハーレム好きな方にはお勧めしません。ブラウザバックをお願いします。 ※冒頭、いじめのシーンがあります。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時連載しています。

処理中です...