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第15話「活動開始」

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 俺はこの世界の神の使徒。
 忠実な神の下僕。
 だから、しかるべき加護があって良い筈。

 それなのに、手抜きしやがって邪神様め!
 今の俺は素人が少しマシになった程度。
 改造して頑丈な身体と凄く速く動ける能力をくれただけ……それに見合う体術や剣技も使えない。
 勝手に師匠を見つけて、修行しろってどういう事?

 適当で中途半端な改造だから、魔法も碌に使えない。
 ぴゅっと吹き出す水芸に、ポッと火が付くライターじゃあ、敵と満足に戦えないもの。
 この程度な俺に対して、「神の使徒として世界の信仰心を上げろ」とか命令。
 ポンと放り出すって、ひで~。

 その上、全然と言っていいくらい、この世界の事を教えてくれなかった。
 だから、俺はこの世界の常識を何も知らないし、右も左も分からない。
 
 なので、これから使徒として『活動』する為には絶対にこの世界の情報収集が必要だ。
 情報源はというと……まずはジュリアから。

 30分後――
 じっくり話して分かった事だが、ジュリアは俺が思ったよりずっと博学。
 この国の大きな街の事は余り知らないらしいが、このタトラ村と周辺の地域の事は熟知している。
 
 やはり、俺は安全策を取る事にした。
 暫く遠くには行かない。
 危険は絶対に冒さない。

 よくよく考えたら手抜きの改造をされた『最強』ではない俺が、慎重さを欠けば即ゲームオーバーじゃないか。
 でも情報収集が出来たのは、助かった。
 もしかしたら博学なジュリアと巡り会わせてくれたのは、邪神様の加護かもしれない。
 一応、感謝して『信仰心』って奴を少~しだけ上げておこう。

 『何、言ってるの! もっともっと僕に感謝して欲しいな、童貞を捨てさせてやったじゃん』

 え?
 一瞬……変な声が聞こえたような気がしたが……
 まあ、良い。
 聞こえなかった事にしておこう。

 それよりも、ジュリアとの打合せが大事だ。

「手持ちの金が出来たから、まずは隣村のジェトレまで一緒に行って貰うよ」

「ジェトレ村?」

「ああ、このタトラ村の隣村……でも、この村よりは全然大きい村。街といっても良いくらいの規模なんだよ」

「ふ~ん」

「大きい『市』も立つし、『オークション』も行われる。近くには古代王国の遺跡もあって冒険者のクランがそこから持ち帰ったお宝を捌《さば》いているのさ。あたし達はそのお宝をいくつか買って転売して利益を出して戻る……これをクリアするのが最初の課題だね」

 へぇ!
 冒険者の宝を買い取って転売?
 それで利益を出す?
 ジュリアはそうやってお金を貯めていたんだ。
 凄いなぁ、ジュリア。

 冒険者が居るし、探索可能な遺跡もある。
 興味が出て来た俺は、ジェトレ村までの距離を聞いてみた。

「そのジェトレって村まではどれくらいかかるのかい?」

「うん、あたしの足で約5時間ってところだね。この村をお昼前に出れば、少なくとも夜になる前にはジェトレ村に着くよ。4、5日程度あっちで商売して儲けを出してから、タトラ村に帰って来るってのはどう?」

 そうやって何往復かすれば、俺も商売にも慣れるだろうとジュリアは言う。
 結局、ジュリアが心配したから、俺は冒険者及びトレジャーハンターへの道をほぼ諦めている。
 少々、残念だが……
 俺を心配そうに見つめた、ジュリアの優しさに報いたい。 

「ああ、良いよ。でも何日か泊りって事は……夜は……ムフフ」

 俺の含み笑いを聞いたジュリアは、昨夜の事を思い出したらしく顔を真っ赤にした。

「ば、馬鹿! トールのエッチ!」

 だが、ジュリアは今度は俯かない。
 しっかりと俺を見て、にっこりと嬉しそうに笑ったのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 更に30分後……

 俺とジュリアは、タトラ村の中を手を繋いで歩いている。

「仲買人でも冒険者でも最後に助けてくれるのは人脈さ」

 人脈って?
 人付き合い?

 引っ込み思案で、コミュ障気味の俺にとっては一番苦手な部分だ。

「それって……ジュリアに一切任せちゃ駄目か?」

「何、言っているの? 駄目に決まっているじゃない! 人との密なやりとりがどんな職業でも基本だよ」

 一刀両断の如く、ジュリアにびしっと言われてしまう……
 やはり俺も、どんどん人と繋がっていかなきゃ駄目なのか。

「じゃあ、とりあえずはこの村で練習だね、行こう!」

 ジュリアが連れて行こうとしているのは、村で唯一の商店だ。
 店の入り口の上に、ボロい木製看板が掲げられていた。
 
 えっと、何て書いてあるんだ?
 おお、文字が読める!
 看板には下手な字で『モーリスの店』と書いてあるぞ。

 この店は万屋よろずやだという。
 すなわち食料品を始めとして日曜雑貨まで扱っていて、今でいうコンビニみたいな店である。
 店内に居た中年男の店主は、ジュリアを見て笑顔を見せた。
 
「おう、ジュリアちゃんか!」 
 
「おっちゃん、こんちわ!」

 ジュリアは店主へ気さくに声を掛ける。
 同じ村人同士で顔馴染みなのは勿論、大空亭の手伝い以外に仲買人をやっているジュリアの商売柄、普段から付き合いをしているのであろう。

「今日は何の用だい? ……おおっと、その男は?」

 店主が俺をいぶかしげに見るので、ジュリアは慌てて紹介する。

「彼はトール、あ、あ、あたしの……か、彼氏だよ」

 噛みながら俺の事を紹介するジュリアの姿を見て、俺は改めて彼女と恋仲になった事を実感する。

 そうか!
 俺も名乗らなきゃな。

「ええと、トール・ユーキです」

「何、彼氏!」

 挨拶もせず、驚いた店主。
 何やら凄いリアクションだけど、そんなに反応する場面なの?

 店主に対して、ジュリアは恥ずかしそうに肯定してる。

「う! そそそ、そうなの……」

「名前は、そうか、トールって言うのか! 俺はここの店主のモーリスだ、宜しくな。それにしても吃驚びっくりだ! あの大の男嫌いのジュリアちゃんがとうとう彼氏を作ったか? こりゃ目出度い……よおし、大サービスだ」

 おお、何か、俺が彼氏になった事で良い方向に行きそうだ。
 改造手術の時に、運のパラメータでもいじって貰ったのだろうか?
 でも男嫌いって……やっぱりジュリアはそういうイメージ?
 
 ジュリアは……ちょっと不満そうに口を尖らせてた。

「男嫌いって……ただ理想の男に出会えてなかっただけだよ」

「まあまあ、良いじゃないか。ちょっと待っててくれよ」

 笑顔のモーリスは一瞬店の奥に引っ込むと、何かを持って来て店のカウンターに並べた。
 並べられた商品は3つである。

「この3つのうちひとつだけ5,000アウルムで売ってやろう。それぞれ最低でも8,000アウルムはする商品ばかりだが、価値にはバラツキがある。当然一番高い商品を買った方が得だぜ」

 提案を聞いてみると、モーリスも一風変わった男。
 商人として、俺達を試して物を売ろうとしているのだ。
 これが、俺の商人訓練というか、初テストか?

「ほら、トール。良い機会だから選んでみてよ」

 ジュリアが促す中、俺はモーリスの提示する商品を見極めにかかったのであった。
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