10 / 205
第10話「ジュリアとの夜」
しおりを挟む
俺は、ジュリアの『覚悟』を受け止める。
今夜、どうなるか分からないが……
寝たふりをやめて、勇気を振り絞る事を決めた。
「ジュリア……」
背中を向けていた俺は、ジュリアの名を呼ぶと彼女の方へと向きを変えた。
ジュリアは俺が寝ていると思っていたらしく、いきなり声を掛けられて目を丸くした。
「え!? トール……もしかして起きていたの?」
「ああ、ずっとな……お前が部屋に入って来た時から……」
暫しの沈黙……
そんな沈黙を振り払うかのように、ジュリアが意を決したのか話し始める。
「……ああああ、あたしさ……わわわ、悪いけど……ああ、あんたの事を特にすすす、好きってわけじゃないのよ」
あっ、そう……
でもジュリアの顔は真っ赤だし、盛大に噛んでいるぞ。
だからって、俺の事が必ず好きってわけではないのか……
俺は勝手に想像し葛藤、不機嫌そうに黙ってしまった。
そのムッとした空気を感じたのか、ジュリアは慌てて言う。
「ででで、でもさ、トールが命を助けてくれたのは恩に着ているよ。だ、誰もひとりぼっちのあたしを助けてくれる人なんか居なかったから……」
「ひとりぼっちって……ジュリアには叔母さんが居るじゃないか?」
何故か、ジュリアは俺の問いに答えなかった。
そして淡々と話し出す。
「……実は私、叔母さんに借金があるんだ……でもさ、今夜、あんたの『夜伽』をすれば30万アウルム貯まるんだよ。これを返せばあたしは自分の借金を帳消しに出来るの」
ジュリアの告白に、俺は少し驚いた。
あの叔母さんとジュリアはそのようにドライな関係なのかと
……厳しいな、だって肉親同士だろう?
疑問に思った俺は、もう少し詳しく話を聞いて見る事にした。
「ジュリア、もう少し話を聞かせてくれよ」
「うん……父さんと母さんが魔物に殺されて以来あたしは生活に困ってしまった……そんな私を引き取ってくれたのが母さんの妹であるジェマ叔母さんなんだ」
「…………」
「この村って親兄弟と言えども金銭には厳しくてね。結局3年間あたしの面倒を見る事に対して30万アウルム分この宿屋で働くって約束になったんだよ」
ジュリアは、俺に身の上話をしてくれた。
恵まれた環境で人生に悩んでいた俺なんか、及びもつかない苦労人だ。
「そうか……結構大変なんだな」
俺がそう言うとジュリアは「多分、あんたよりわね」と寂しそうに笑う。
「でもさ、あんたの事……好きじゃないけど、こんな事するの……誰でも良いってわけでもないんだ」
好きじゃないけど……ああ、予想していた言葉だよ。
でも、今の俺は何となく余裕がある。
だから上手く切り返す。
「光栄だね」
俺が淡々と言ったので、逆にジュリアは吃驚したようだ。
処女だと聞いた通り、俺同様にジュリアだって恋愛経験が豊富だとは思えない。
その証拠に慌てなくても良いのに、動揺して噛みながら言い訳している。
「う、嘘じゃないよ! トールってさ、あたしの命の恩人だし、ゴブやっつける時格好良かったし……だから抱かれても良いと思ったんだ」
ここで鬼畜な奴だったら、「うひゃひゃ、いただきまぁす」と言ってエッチしちゃえば良いのだろうが……俺は絶対に嫌だった。
でもさ、こんな時って、あのスパイラルの性格が影響するんじゃないの?
「いただきまぁす」と、言わないって事は結構あいつ、良い人?
そうだ……良い事を思いついた。
どうせ、その邪神様に貰ったお金だし……
「分かった……でもお前は抱けないよ」
「ええっ!? な、何故! 昼間、言ったように……あ、あ、あたしが、こ、好みじゃないから!?」
勢い込んで迫るジュリアに俺はゆっくりと首を横に振った。
「違う! 話してみて分かったけど……お前は可愛いよ」
「じゃあ! ど、どうして?」
「俺だって……魅力的なお前を抱きたい……男だから……でもさ、このままエッチしたら何かお前の弱味につけ込むみたいで嫌だもの」
「…………」
俺の言葉を黙って聞くジュリア。
何か、目が潤んでいる。
俺は、ジュリアに対して凄く優しくしてやりたくなった。
「よし! こうしないか? 俺が25,000アウルム貸すから叔母さんの借金を一気に返してしまえよ」
「え? ……でも!」
「貸した金はさ、俺とまた会えた時に返してくれたら良いよ、その代わり今夜は俺と添い寝してくれる? 俺も遠くから旅をして来て、ひとりぼっちだからさ。少し寂しいのさ」
「トールもひとりぼっち?」
「そうさ、この世界で親も誰も、身寄りなんて居ない……お前と一緒なんだよ」
俺は、自分の境遇がジュリアとほぼ同じだと気付いてしまう。
もう元の世界には帰れないし、俺自身が『消去扱い』になっている。
俺はこの異世界でたったひとり、生きて行くしかないのだから。
そんな俺の寂しさに親近感を覚えたのだろうか、ジュリアは俺を熱い目で見つめて来る。
「トール……正直に言うね……さっき……叔母さんにあんたの夜伽しろって言われてから……あたし変になってる……ドキドキして身体が熱いの」
「…………」
ジュリアは勇気を振り絞って、気持ちをオープンにしようとしている。
片や、俺も……理想のタイプだの何だの言っていても、関係なかった。
生まれて初めて経験する、男と女の恋の囁き合いにとってもドキドキしていたのであった。
今夜、どうなるか分からないが……
寝たふりをやめて、勇気を振り絞る事を決めた。
「ジュリア……」
背中を向けていた俺は、ジュリアの名を呼ぶと彼女の方へと向きを変えた。
ジュリアは俺が寝ていると思っていたらしく、いきなり声を掛けられて目を丸くした。
「え!? トール……もしかして起きていたの?」
「ああ、ずっとな……お前が部屋に入って来た時から……」
暫しの沈黙……
そんな沈黙を振り払うかのように、ジュリアが意を決したのか話し始める。
「……ああああ、あたしさ……わわわ、悪いけど……ああ、あんたの事を特にすすす、好きってわけじゃないのよ」
あっ、そう……
でもジュリアの顔は真っ赤だし、盛大に噛んでいるぞ。
だからって、俺の事が必ず好きってわけではないのか……
俺は勝手に想像し葛藤、不機嫌そうに黙ってしまった。
そのムッとした空気を感じたのか、ジュリアは慌てて言う。
「ででで、でもさ、トールが命を助けてくれたのは恩に着ているよ。だ、誰もひとりぼっちのあたしを助けてくれる人なんか居なかったから……」
「ひとりぼっちって……ジュリアには叔母さんが居るじゃないか?」
何故か、ジュリアは俺の問いに答えなかった。
そして淡々と話し出す。
「……実は私、叔母さんに借金があるんだ……でもさ、今夜、あんたの『夜伽』をすれば30万アウルム貯まるんだよ。これを返せばあたしは自分の借金を帳消しに出来るの」
ジュリアの告白に、俺は少し驚いた。
あの叔母さんとジュリアはそのようにドライな関係なのかと
……厳しいな、だって肉親同士だろう?
疑問に思った俺は、もう少し詳しく話を聞いて見る事にした。
「ジュリア、もう少し話を聞かせてくれよ」
「うん……父さんと母さんが魔物に殺されて以来あたしは生活に困ってしまった……そんな私を引き取ってくれたのが母さんの妹であるジェマ叔母さんなんだ」
「…………」
「この村って親兄弟と言えども金銭には厳しくてね。結局3年間あたしの面倒を見る事に対して30万アウルム分この宿屋で働くって約束になったんだよ」
ジュリアは、俺に身の上話をしてくれた。
恵まれた環境で人生に悩んでいた俺なんか、及びもつかない苦労人だ。
「そうか……結構大変なんだな」
俺がそう言うとジュリアは「多分、あんたよりわね」と寂しそうに笑う。
「でもさ、あんたの事……好きじゃないけど、こんな事するの……誰でも良いってわけでもないんだ」
好きじゃないけど……ああ、予想していた言葉だよ。
でも、今の俺は何となく余裕がある。
だから上手く切り返す。
「光栄だね」
俺が淡々と言ったので、逆にジュリアは吃驚したようだ。
処女だと聞いた通り、俺同様にジュリアだって恋愛経験が豊富だとは思えない。
その証拠に慌てなくても良いのに、動揺して噛みながら言い訳している。
「う、嘘じゃないよ! トールってさ、あたしの命の恩人だし、ゴブやっつける時格好良かったし……だから抱かれても良いと思ったんだ」
ここで鬼畜な奴だったら、「うひゃひゃ、いただきまぁす」と言ってエッチしちゃえば良いのだろうが……俺は絶対に嫌だった。
でもさ、こんな時って、あのスパイラルの性格が影響するんじゃないの?
「いただきまぁす」と、言わないって事は結構あいつ、良い人?
そうだ……良い事を思いついた。
どうせ、その邪神様に貰ったお金だし……
「分かった……でもお前は抱けないよ」
「ええっ!? な、何故! 昼間、言ったように……あ、あ、あたしが、こ、好みじゃないから!?」
勢い込んで迫るジュリアに俺はゆっくりと首を横に振った。
「違う! 話してみて分かったけど……お前は可愛いよ」
「じゃあ! ど、どうして?」
「俺だって……魅力的なお前を抱きたい……男だから……でもさ、このままエッチしたら何かお前の弱味につけ込むみたいで嫌だもの」
「…………」
俺の言葉を黙って聞くジュリア。
何か、目が潤んでいる。
俺は、ジュリアに対して凄く優しくしてやりたくなった。
「よし! こうしないか? 俺が25,000アウルム貸すから叔母さんの借金を一気に返してしまえよ」
「え? ……でも!」
「貸した金はさ、俺とまた会えた時に返してくれたら良いよ、その代わり今夜は俺と添い寝してくれる? 俺も遠くから旅をして来て、ひとりぼっちだからさ。少し寂しいのさ」
「トールもひとりぼっち?」
「そうさ、この世界で親も誰も、身寄りなんて居ない……お前と一緒なんだよ」
俺は、自分の境遇がジュリアとほぼ同じだと気付いてしまう。
もう元の世界には帰れないし、俺自身が『消去扱い』になっている。
俺はこの異世界でたったひとり、生きて行くしかないのだから。
そんな俺の寂しさに親近感を覚えたのだろうか、ジュリアは俺を熱い目で見つめて来る。
「トール……正直に言うね……さっき……叔母さんにあんたの夜伽しろって言われてから……あたし変になってる……ドキドキして身体が熱いの」
「…………」
ジュリアは勇気を振り絞って、気持ちをオープンにしようとしている。
片や、俺も……理想のタイプだの何だの言っていても、関係なかった。
生まれて初めて経験する、男と女の恋の囁き合いにとってもドキドキしていたのであった。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる