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第10話「ジュリアとの夜」

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 俺は、ジュリアの『覚悟』を受け止める。
 今夜、どうなるか分からないが……
 寝たふりをやめて、勇気を振り絞る事を決めた。

「ジュリア……」

 背中を向けていた俺は、ジュリアの名を呼ぶと彼女の方へと向きを変えた。
 ジュリアは俺が寝ていると思っていたらしく、いきなり声を掛けられて目を丸くした。

「え!? トール……もしかして起きていたの?」

「ああ、ずっとな……お前が部屋に入って来た時から……」

 暫しの沈黙……
 そんな沈黙を振り払うかのように、ジュリアが意を決したのか話し始める。

「……ああああ、あたしさ……わわわ、悪いけど……ああ、あんたの事を特にすすす、好きってわけじゃないのよ」

 あっ、そう……
 でもジュリアの顔は真っ赤だし、盛大に噛んでいるぞ。
 だからって、俺の事が必ず好きってわけではないのか……

 俺は勝手に想像し葛藤、不機嫌そうに黙ってしまった。
 そのムッとした空気を感じたのか、ジュリアは慌てて言う。

「ででで、でもさ、トールが命を助けてくれたのは恩に着ているよ。だ、誰もひとりぼっちのあたしを助けてくれる人なんか居なかったから……」

「ひとりぼっちって……ジュリアには叔母さんが居るじゃないか?」

 何故か、ジュリアは俺の問いに答えなかった。
 そして淡々と話し出す。

「……実は私、叔母さんに借金があるんだ……でもさ、今夜、あんたの『夜伽』をすれば30万アウルム貯まるんだよ。これを返せばあたしは自分の借金を帳消しに出来るの」

 ジュリアの告白に、俺は少し驚いた。
 あの叔母さんとジュリアはそのようにドライな関係なのかと
 ……厳しいな、だって肉親同士だろう?
 疑問に思った俺は、もう少し詳しく話を聞いて見る事にした。

「ジュリア、もう少し話を聞かせてくれよ」

「うん……父さんと母さんが魔物に殺されて以来あたしは生活に困ってしまった……そんな私を引き取ってくれたのが母さんの妹であるジェマ叔母さんなんだ」

「…………」

「この村って親兄弟と言えども金銭には厳しくてね。結局3年間あたしの面倒を見る事に対して30万アウルム分この宿屋で働くって約束になったんだよ」

 ジュリアは、俺に身の上話をしてくれた。
 恵まれた環境で人生に悩んでいた俺なんか、及びもつかない苦労人だ。

「そうか……結構大変なんだな」

 俺がそう言うとジュリアは「多分、あんたよりわね」と寂しそうに笑う。

「でもさ、あんたの事……好きじゃないけど、こんな事するの……誰でも良いってわけでもないんだ」

 好きじゃないけど……ああ、予想していた言葉だよ。
 でも、今の俺は何となく余裕がある。
 だから上手く切り返す。

「光栄だね」

 俺が淡々と言ったので、逆にジュリアは吃驚したようだ。
 処女だと聞いた通り、俺同様にジュリアだって恋愛経験が豊富だとは思えない。
 その証拠に慌てなくても良いのに、動揺して噛みながら言い訳している。

「う、嘘じゃないよ! トールってさ、あたしの命の恩人だし、ゴブやっつける時格好良かったし……だから抱かれても良いと思ったんだ」

 ここで鬼畜な奴だったら、「うひゃひゃ、いただきまぁす」と言ってエッチしちゃえば良いのだろうが……俺は絶対に嫌だった。
 でもさ、こんな時って、あのスパイラルの性格が影響するんじゃないの?
 「いただきまぁす」と、言わないって事は結構あいつ、良い人?

 そうだ……良い事を思いついた。
 どうせ、その邪神様に貰ったお金だし……

「分かった……でもお前は抱けないよ」

「ええっ!? な、何故! 昼間、言ったように……あ、あ、あたしが、こ、好みじゃないから!?」

 勢い込んで迫るジュリアに俺はゆっくりと首を横に振った。

「違う! 話してみて分かったけど……お前は可愛いよ」

「じゃあ! ど、どうして?」

「俺だって……魅力的なお前を抱きたい……男だから……でもさ、このままエッチしたら何かお前の弱味につけ込むみたいで嫌だもの」

「…………」

 俺の言葉を黙って聞くジュリア。
 何か、目が潤んでいる。
 俺は、ジュリアに対して凄く優しくしてやりたくなった。

「よし! こうしないか? 俺が25,000アウルム貸すから叔母さんの借金を一気に返してしまえよ」

「え? ……でも!」

「貸した金はさ、俺とまた会えた時に返してくれたら良いよ、その代わり今夜は俺と添い寝してくれる? 俺も遠くから旅をして来て、ひとりぼっちだからさ。少し寂しいのさ」

「トールもひとりぼっち?」

「そうさ、この世界で親も誰も、身寄りなんて居ない……お前と一緒なんだよ」

 俺は、自分の境遇がジュリアとほぼ同じだと気付いてしまう。
 もう元の世界には帰れないし、俺自身が『消去扱い』になっている。
 俺はこの異世界でたったひとり、生きて行くしかないのだから。

 そんな俺の寂しさに親近感を覚えたのだろうか、ジュリアは俺を熱い目で見つめて来る。

「トール……正直に言うね……さっき……叔母さんにあんたの夜伽しろって言われてから……あたし変になってる……ドキドキして身体が熱いの」

「…………」

 ジュリアは勇気を振り絞って、気持ちをオープンにしようとしている。
 片や、俺も……理想のタイプだの何だの言っていても、関係なかった。

 生まれて初めて経験する、男と女の恋の囁き合いにとってもドキドキしていたのであった。
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