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第7話「私、許せません!」
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【相坂リンの告白④】
シスタージョルジェットは私の手を「くいっ」と引き、
「するり」と別の部屋へ入った。
とてもしなやかな身のこなし、まるで猫だ。
でも……
一体、何の相談だろうか?
全然心当たりがない。
さてさて、私が連れて行かれたのは物置を兼ねた狭い部屋である。
しばらく掃除をしていないのか、少々、ほこりっぽい。
見やれば、小さな木製の丸椅子がふたつ置かれている。
シスタージョルジェットから、座るように勧められた。
でも、次のお勤めまであまり時間がない。
簡単な用事なら即、済まそう。
だから早速、尋ねてみる。
「それで……相談とは何でしょう。シスタージョルジェット」
「はい、シスターフルール。私、絶対に許せない事があるのです」
「え? 絶対に許せない事……とは?」
許せない事?
いきなりそう言われても、全然意味が分からない。
前振りもないから話が全く見えない。
良く良くシスタージョルジェットを見やれば、眉間に深い皺を寄せている。
口にするだけで、腹立たしいといった趣きだ。
とりあえず……
彼女にもっと話を聞いてみるとしよう。
「あ、あの、シスタージョルジエット。もう少し具体的に説明してくださいます?」
「はい! シスターフルール。では、改めてご説明致します。我がヴァレンタイン王国を守護する、王都騎士隊の不埒な輩についてです」
「王都騎士隊の不埒な輩?」
成る程……
シスタージョルジェットは何か理由があって、騎士隊隊員の中に憤慨する対象が居るんだ。
だんだん状況が見えて来た。
でも相手は騎士じゃない。
一体、何をどうする、というのだろう?
と思っていたら、シスタージョルジェットより、突然の質問。
「はい! シスターフルールは最近、王都騎士隊にはびこる堕落の傾向をご存じでしょうか?」
堕落!?
ええっと、堕落って何?
まさか、悪魔?
って、ライトノベルの読み過ぎ?
「だ、堕落の傾向? い、いいえ、存じません」
と、答えたら……
シスタージョルジェットは、私をキッとにらむ。
それくらい知らないの?
常識でしょ!
という強い感情の波動が襲って来る。
うわぁ、何か、怒りの矛先が私へ来そうで……怖い。
とばっちりは勘弁。
「では、シスターフルール。我が創世神教会が説く、崇高たる騎士7つの精神ならばご存知ですよね?」
「ええっと、確か……忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕……でしょうか?」
「さすが、シスターフルール。その通りです。でも……そんな素晴らしい言葉の数々や考え方も、情けない現実の前では、もはや机上の空論です」
情けない現実?
机上の空論?
分かるような、分からないような……
これって不毛な会話というのだろうか?
こんな時は、停滞を打破しよう。
ズバッと直球勝負!
はっきりと相手へ自分の意思を伝えよう。
「……シスタージョルジェット。もう少しだけ詳しくご説明して頂けないですか、私には話が全く見えません」
と、今度は私から尋ねた。
すると、シスタージョルジェットはハッとした。
興奮がクールダウンし、少しは落ち着いたみたい。
「コホン! 申しわけありません。つい興奮しすぎて、凄く回りくどくなってしまいましたね。実は……」
「は、はい、実は?」
「以前、騎士隊の魔物討伐遠征に同行の際、その不埒な輩から私ジョルジェットはふたりきりで会おうと誘われてしまいました」
「ええっ? ふたりきりで会おうと誘われたって……それはもしかして、デートのお誘いじゃないんですか?」
そうそう!
騎士様からデートのお誘いじゃない。
やっぱり、シスタージョルジェットは可愛いから……もてるんだ。
しかし何故か、シスタージョルジェットは不快そうに顔をしかめ、首を横に振った。
「デート? 一応そうかもしれません」
「一応って、デートのお誘いに間違いありませんよ」
「でも! 私はきっぱりとお断りしました」
「断った? な、何故?」
「巷でその輩の評判が著しく悪いからです」
「評判が悪い?」
「はい、その輩……アラン・ベルクール騎士爵は騎士隊でも女癖の悪さで有名だそうです。付き合う女性全てへ声をかけ、挙句の果てに結婚をちらつかせているとか」
「そのアラン様が? 結婚を!? そ、そうなんですか?」
「はい! 確かです。事実、その件では何人もの女性が憔悴《しょうすい》しきった様子で、我が教会へざんげに訪れましたから」
えええっ!?
もしもそれが事実だとしたら……
酷い!
そのアランとかいう騎士さんは酷すぎる。
外道だし、性格悪すぎ!
つまり女性の敵!
シスタージョルジェットほどではないが、私もだんだん腹が立って来た。
「……アランという騎士は確かに酷い人ですね」
「でしょう? アランは人心を惑わし、騎士隊の評判を落とす。ひいては我がヴァレンタイン王国の評判も地に堕ちる。そのように不埒な輩はけして許せません」
「許せないって……シスタージョルジェット、一体どうするつもりですか?」
「はい! 一旦は断りましたが、アランからの誘いを受ける事に致しました」
「え? きっぱりとお断りしたのではないのですか?」
「はい! 私ひとりで……つまり1対1で会うのは、はっきりと断りました。だからお互いに人数を増やして会おうと、逆に私から提案致しました」
「はい~? 人数を増やして会う?」
「はい! という事で、今夜複数人数での飲み会を行います」
「え? 飲み会? それも今夜?」
「はい、今夜です! 私は勿論参加ですが、既にシスターシュザンヌ、シスターステファニーにも参加のご了解を頂いております」
「じゃ、じゃあ、全部で3人の参加なのですね。でもそれってシスタージョルジェット、……私には全く関係ない話なのでは?」
「いえ! 関係あります! シスターフルールにも大いに関係があるのです!」
「は?」
「は? ではありません。シスターフルール。貴女も既に参加メンバーへ入っているのですから」
「はい~!?」
な!?
そんな勝手な!
それも今夜!?
この人……何?
人の都合を全く聞かずに、無断で予定を決めちゃっているの?
「いいですか、シスターフルール。私達聖女4人で協力し合って、その不埒な騎士アランの悪事を白日の下にさらすのです」
「白日の下に?」
「はい! その通りです。社会的な破滅に追いやりましょう。私は勿論、アランに口説かれるでしょう。ですが、アランが私以外の貴女方3人へアプローチすれば、それが動かぬ証拠! 奴は鬼畜で外道確定です」
「…………」
「そんな害虫は私から枢機卿に申し上げ、枢機卿から王国軍統括のカルパンティエ公爵へ不埒な悪事を伝えて頂きます!」
「…………」
「という事で、午後5時! 中央広場の噴水前集合! という事で、シスターフルール、本日は何卒宜しくお願い致しますっ!」
駄目だ、断れない。
私は唖然とし、反論さえ出来ずに流されて行く。
この子は押しが強い。
否、強引過ぎる!
大きくため息をついた私を見て、シスタージョルジェットは笑顔でVサインを送って来たのである。
シスタージョルジェットは私の手を「くいっ」と引き、
「するり」と別の部屋へ入った。
とてもしなやかな身のこなし、まるで猫だ。
でも……
一体、何の相談だろうか?
全然心当たりがない。
さてさて、私が連れて行かれたのは物置を兼ねた狭い部屋である。
しばらく掃除をしていないのか、少々、ほこりっぽい。
見やれば、小さな木製の丸椅子がふたつ置かれている。
シスタージョルジェットから、座るように勧められた。
でも、次のお勤めまであまり時間がない。
簡単な用事なら即、済まそう。
だから早速、尋ねてみる。
「それで……相談とは何でしょう。シスタージョルジェット」
「はい、シスターフルール。私、絶対に許せない事があるのです」
「え? 絶対に許せない事……とは?」
許せない事?
いきなりそう言われても、全然意味が分からない。
前振りもないから話が全く見えない。
良く良くシスタージョルジェットを見やれば、眉間に深い皺を寄せている。
口にするだけで、腹立たしいといった趣きだ。
とりあえず……
彼女にもっと話を聞いてみるとしよう。
「あ、あの、シスタージョルジエット。もう少し具体的に説明してくださいます?」
「はい! シスターフルール。では、改めてご説明致します。我がヴァレンタイン王国を守護する、王都騎士隊の不埒な輩についてです」
「王都騎士隊の不埒な輩?」
成る程……
シスタージョルジェットは何か理由があって、騎士隊隊員の中に憤慨する対象が居るんだ。
だんだん状況が見えて来た。
でも相手は騎士じゃない。
一体、何をどうする、というのだろう?
と思っていたら、シスタージョルジェットより、突然の質問。
「はい! シスターフルールは最近、王都騎士隊にはびこる堕落の傾向をご存じでしょうか?」
堕落!?
ええっと、堕落って何?
まさか、悪魔?
って、ライトノベルの読み過ぎ?
「だ、堕落の傾向? い、いいえ、存じません」
と、答えたら……
シスタージョルジェットは、私をキッとにらむ。
それくらい知らないの?
常識でしょ!
という強い感情の波動が襲って来る。
うわぁ、何か、怒りの矛先が私へ来そうで……怖い。
とばっちりは勘弁。
「では、シスターフルール。我が創世神教会が説く、崇高たる騎士7つの精神ならばご存知ですよね?」
「ええっと、確か……忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕……でしょうか?」
「さすが、シスターフルール。その通りです。でも……そんな素晴らしい言葉の数々や考え方も、情けない現実の前では、もはや机上の空論です」
情けない現実?
机上の空論?
分かるような、分からないような……
これって不毛な会話というのだろうか?
こんな時は、停滞を打破しよう。
ズバッと直球勝負!
はっきりと相手へ自分の意思を伝えよう。
「……シスタージョルジェット。もう少しだけ詳しくご説明して頂けないですか、私には話が全く見えません」
と、今度は私から尋ねた。
すると、シスタージョルジェットはハッとした。
興奮がクールダウンし、少しは落ち着いたみたい。
「コホン! 申しわけありません。つい興奮しすぎて、凄く回りくどくなってしまいましたね。実は……」
「は、はい、実は?」
「以前、騎士隊の魔物討伐遠征に同行の際、その不埒な輩から私ジョルジェットはふたりきりで会おうと誘われてしまいました」
「ええっ? ふたりきりで会おうと誘われたって……それはもしかして、デートのお誘いじゃないんですか?」
そうそう!
騎士様からデートのお誘いじゃない。
やっぱり、シスタージョルジェットは可愛いから……もてるんだ。
しかし何故か、シスタージョルジェットは不快そうに顔をしかめ、首を横に振った。
「デート? 一応そうかもしれません」
「一応って、デートのお誘いに間違いありませんよ」
「でも! 私はきっぱりとお断りしました」
「断った? な、何故?」
「巷でその輩の評判が著しく悪いからです」
「評判が悪い?」
「はい、その輩……アラン・ベルクール騎士爵は騎士隊でも女癖の悪さで有名だそうです。付き合う女性全てへ声をかけ、挙句の果てに結婚をちらつかせているとか」
「そのアラン様が? 結婚を!? そ、そうなんですか?」
「はい! 確かです。事実、その件では何人もの女性が憔悴《しょうすい》しきった様子で、我が教会へざんげに訪れましたから」
えええっ!?
もしもそれが事実だとしたら……
酷い!
そのアランとかいう騎士さんは酷すぎる。
外道だし、性格悪すぎ!
つまり女性の敵!
シスタージョルジェットほどではないが、私もだんだん腹が立って来た。
「……アランという騎士は確かに酷い人ですね」
「でしょう? アランは人心を惑わし、騎士隊の評判を落とす。ひいては我がヴァレンタイン王国の評判も地に堕ちる。そのように不埒な輩はけして許せません」
「許せないって……シスタージョルジェット、一体どうするつもりですか?」
「はい! 一旦は断りましたが、アランからの誘いを受ける事に致しました」
「え? きっぱりとお断りしたのではないのですか?」
「はい! 私ひとりで……つまり1対1で会うのは、はっきりと断りました。だからお互いに人数を増やして会おうと、逆に私から提案致しました」
「はい~? 人数を増やして会う?」
「はい! という事で、今夜複数人数での飲み会を行います」
「え? 飲み会? それも今夜?」
「はい、今夜です! 私は勿論参加ですが、既にシスターシュザンヌ、シスターステファニーにも参加のご了解を頂いております」
「じゃ、じゃあ、全部で3人の参加なのですね。でもそれってシスタージョルジェット、……私には全く関係ない話なのでは?」
「いえ! 関係あります! シスターフルールにも大いに関係があるのです!」
「は?」
「は? ではありません。シスターフルール。貴女も既に参加メンバーへ入っているのですから」
「はい~!?」
な!?
そんな勝手な!
それも今夜!?
この人……何?
人の都合を全く聞かずに、無断で予定を決めちゃっているの?
「いいですか、シスターフルール。私達聖女4人で協力し合って、その不埒な騎士アランの悪事を白日の下にさらすのです」
「白日の下に?」
「はい! その通りです。社会的な破滅に追いやりましょう。私は勿論、アランに口説かれるでしょう。ですが、アランが私以外の貴女方3人へアプローチすれば、それが動かぬ証拠! 奴は鬼畜で外道確定です」
「…………」
「そんな害虫は私から枢機卿に申し上げ、枢機卿から王国軍統括のカルパンティエ公爵へ不埒な悪事を伝えて頂きます!」
「…………」
「という事で、午後5時! 中央広場の噴水前集合! という事で、シスターフルール、本日は何卒宜しくお願い致しますっ!」
駄目だ、断れない。
私は唖然とし、反論さえ出来ずに流されて行く。
この子は押しが強い。
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