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第685話「ええ! 腕比べして、はっきりと実力差を見せつけて、イェレミアスのように、アリスティドを感服させなさい! 二度と、四の五の言わせな

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フォルミーカ迷宮深層、地下111階層において、
イェレミアスのリクエストに応え、宝箱の探索を開始したリオネル達クラン一行。

いつものように、リオネルが張り巡らせた索敵により……
転移した小ホールより300m離れた地点に、
合成獣マンティコア5体の気配をキャッチした。

即座に討伐を決め、出来うる限り気配を消し、リオネル達はそっと接近する事に。

『うむ! 我も気配読みで分かるぞ! リオネルの言う通り、敵はマンティコア5体だ!』

そう言いつつ、先頭に立ったアリスティドも、
シーフ職スキル『隠形』『忍び足』を習得しているらしく、
自身の気配を隠し、足早に進んでいる。

そしてリオネルも、最早お約束で『隠形』『忍び足』を駆使し、
素早く走りながらも、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進んで行く。

その背後では、ふたり分の気配消し魔法を行使したティエラが、
イェレミアスを守りながら進んでいた。

さてさて、先述はしているが、再び補足しよう。

これから戦う魔獣マンティコアは、
人間の顔、獅子の胴体、サソリの尾を持つ合成獣である。
『人喰い』という名の由来の通り、人間の肉を好み、襲う捕食者だ。
抜きん出た身体能力を持ち、特に跳躍力は優秀である。

リオネルはこのフォルミーカ迷宮は勿論だが、
以前、ソヴァール王国英雄の迷宮でも戦った事がある。

索敵によれば、今回、現れたマンティコアのレベルは55。
体長は約12m。
普通に考えれば、結構な強敵だ。

しかし、ここは英霊アリスティドへ任せる事となっている。

そんなこんなで、リオネル達はあっという間に、後、100m余りの位置まで接近。
ちなみに、マンティコアどもはまだ『敵』の接近に気付いていない。

ここでリオネルが背後から呼びかける。
勿論、会話は心と心のやりとり、念話である。

『アリスティド様』

『むう、何だ、リオネル』

『はい、アリスティド様がマンティコアを攻撃する際、宜しければ、俺が魔法かスキルで援護しますが』

『いや! 我に援護は要らな……』

と言いかけたアリスティドだが、背後より、
先ほどたしなめたティエラのジト目が、ひしひしと静かに放たれる。

有無を言わさない、『殺気』に近いものだ。

アリスティドよ、現在お前はクランの一員、リーダー、リオネルの指示を守り、
チームプレーに徹しろと。

転移魔法の師匠であり、
霊的な存在では遥かに遥かに格上のティエラに対し、
アリスティドは全く頭が上がらない。

という事で、大慌てしたアリスティドから、消していた気配が漏れ出す。

『も、もといっ!! い、要らなくない!! 要るっっ!! え、援護を頼むぞっ!!』

その瞬間、マンティコアどもが気配を察知し、ぴくっと反応、
こちらへ向かって来る動きを見せた。

しかしアリスティドは犯した「ミス」に全く気付いていない。

このような時、慌てたら、まずい。

戦いなれたリオネルは何事もなかったかのように、感情を乱さず、淡々と告げる。

『……そうですか、ちなみに援護はお任せで、宜しいでしょうか?』

『む? 援護がお任せだと?』

『はい、俺の裁量でアリスティド様への援護を行います。逆にNGな魔法やスキルをおっしゃって頂いてもOKです』

公開念話でそんなやりとりをするリオネルとアリスティドへ、
じ~っと視線を飛ばすティエラ。

『う、うむ! こ、細かい事は良いっ! ティ、ティエラ様へお約束した通り! お、お前に一切を任せるっ!』

『了解です、任されました。マンティコアどもは俺達に気付いたようですし、先ほど使っていないスキルを行使します』

『む? では威圧と大地の束縛以外を行使するというのかっ!』

『はい、では行きます』

淡々と言葉を戻した後、目を閉じたリオネルは、
こちらに気付き、動き出したマンティコアへ対し、
精神を集中、神速でスキルを発動したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルがスキルを行使した瞬間、こちらへ向かってくるマンティコアどもの動きが著しく鈍く、スローモーとなった。

『気配読み』で、マンティコアどもを討つべくロックオンしていたアリスティドは、
大いに驚き、リオネルの方へ振りむく。

『むう! リオネル! 奴らの動きが急に鈍ったぞ! 何のスキルを使った!? この魔力は大地の束縛ではないな! 威圧か?』

『いいえ、大地の束縛でも威圧でもありません。特異スキル『シャットダウン』です』

『な、何!? 特異スキル『シャットダウン』だと!?』

『はい、迷宮なので遮蔽物が多く、気になりましたが、索敵の反応に合わせ、魔力を放ちました。上手く効果を発揮したようです』

『わ、われは、シャ、シャットダウンなど知らぬ! い、一体、ど、どんなスキルなのだ!』

『はい、シャットダウンは魔力で対象を活動停止させるスキルです。マンティコアの動きが徐々に緩慢となって、最後は崩れ落ちるように活動停止に、つまり行動不能となります』

『むうう、……あまり威圧と変わらぬなあ』

『いえ、変わりますよ、シャットダウンは敵の精神状態を変えず、そのまま行動不能にします。恐怖でメンタルへダメージを与え、身体機能を奪う威圧の方が即効性もありますし』

『……むう、まあ理屈は良い! さっさとマンティコアどもを倒して来よう!』

『はい、お願い致します。お手数をおかけしますが、倒して宝箱が出現したら、念話でご連絡ください』

『わ、分かった!』

『念の為、加勢が必要なら、こちらもご連絡くださいね』

『いや! 加勢など要ら……あ、ああ! 分かった!』

アリスティドは前方へ向き直ると、ダッシュし、迷宮の奥へと消えて行く。

そんなアリスティドを見送り、腕組みをしたティエラがため息を吐く。

『はあ、もう、仕方がないわね、アリスティドは。異界からリオの戦いぶりも見ていたでしょうに、ソヴァール王国開祖のプライドが邪魔して、素直にリオの実力を認める事が出来ないのだから』

……クラン間共有の公開念話ではなく、
敢えてリオネルとイェレミアスだけへ個人念話を使ったのは、
アリスティドに聞かれない為だろう。

『…………………………………………』
『…………………………………………』

対して、リオネルとイェレミアスは無言のノーコメント。

リオネルは、さすがに故国の開祖を批判は出来ない。
イェレミアスにしても付き合いの浅いアリスティドをどうこう言えない。

無反応のふたりに構わず、ティエラは、にやりと笑う。

『今後の為には、そろそろ、はっきりさせた方が良いわね、……リオ!』

『何でしょうか?』

『次のバトルでは、貴方がアリスティドと、がっつり戦いっこ、しなさい!』

『え!? 俺がアリスティド様と、がっつり、た、戦いっこ……ですか?』

『そう! リオがアリスティドと、腕比べするのよ!』

『戦いっこで、腕比べっすか?』

『うんっ! といっても、さしのタイマンとかではなく、ふたりでそれぞれ、魔法とスキルなしで、魔物と戦うの。戦いぶりを評価して、優劣を競うのよ。審判は私とイェレミアスでね』

『成る程。そういう事ですか。でもおふたりが審判って、俺ひいきの不公平だって、アリスティド様からクレームがつかないですか?』

『良いの、良いの、アリスティドのクレームぐらい、スルーするから。それに本来この勝負に審判なんて要らない。リオとアリスティドの実力差なんて、誰の目にも明らか。審判は便宜上、置くだけよ』

『そうですか』

『ええ! 腕比べして、はっきりと実力差を見せつけて、以前イェレミアスへ行ったように、アリスティドを感服させなさい! 二度と、四の五の言わせないようにするのよ! と、いう事で、イェレミアスも分かっているわね?』

『は、はい! 承知致しました! ティエラ様!』

……そんな会話をしているうちに、アリスティドは戦闘へ入ったようである。

ただ戦闘とは言っても、リオネルの特異スキル『シャットダウン』でマンティコアどもは、行動不能となっており、戦えず無抵抗状態。

ドラゴン討伐、宝箱回収、それぞれを優先する課題クリアに伴い、
敵を行動不能とし、一方的に無双するのは、リスクを軽減させる戦い方。

なので、安全第一でベストな戦法だと、リオネルは判断したが、
抗う敵を力でねじ伏せ、屈服させるのがバトルスタイルのアリスティドには、
ストレスが溜まる戦いのようである。

そんなクランメンバーの不満を解消し、気持ち良く戦って貰うのも、
リーダーの責務。

そしてリオネルの実力を、
はっきりアリスティドへ見せた方が良いというティエラの考えにも賛成。

……という事を瞬時に考えたリオネルは、ティエラの提案を受ける事に決めた。

『ティエラ様のおっしゃる事は理解しました。アリスティド様と戦いっこを、腕比べをしますね』

『宜しい!』

と、会話が終わった時……丁度、戦いは終わったらしい。

『お~い! リオネル! 今、マンティコアども5体を倒した! 宝箱も出現したぞ!』

と、アリスティドから念話連絡が入ったのである。
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