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第672話「こういう時、黙って見ているリオネルではない」
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「ああ、本当にびっくりしたぜ」
転移魔法を自身で実際に体験し、ふうと息を吐いたボトヴィッド。
脱力したようなボトヴィッドを、リオネルがいたわりつつ、尋ねる。
「大丈夫ですか、ボトヴィッドさん。転移魔法で初めて跳んだ時は、気分が悪くなる人が結構、居ますけど」
「いやいや、大丈夫だ。何ともねえよ」
「そうですか。なら転移魔法での旅行に問題はありませんね」
「あ、ああ……そ、そ、そうだな……」
発する言葉がとぎれとぎれとなるボトヴィッド。
失われた古代魔法のひとつ、転移魔法を見て体験したショックは、
まだ消えていないようだ。
対してリオネルは、話を続ける。
「ボトヴィッドさん」
「あ、ああ……」
「ちなみに、俺が使う転移魔法ですが、現時点での移動有効距離が1回の行使につき1,500㎞超です」
「せ、1,500㎞!!??」
「はい、まだまだ修行中なので、1回の発動ではフォルミーカからイエーラまで行けません。しかし4回も発動すれば、余裕で行けます。目的地への安全確認や制御修正等の微調整を要しますが、到達時間はトータル30分もかかりません」
「わ、分かった。す、すげ~な! しかし転移魔法とはさすがにたまげた。完全に予想外だ。確かにこれが世間に知られたら大騒ぎだな。秘密厳守にしてくれってのもよ~く分かるぜ」
「はい、重々お願いします。ただイエーラ国内では結構オープンに使っているので、開国したら、俺が転移魔法習得者であるのは、いずれ知れ渡ってしまうでしょうね」
「そ、そうか!」
「ですが、そうなるのは多分もう少し先です。とりあえず絶対に秘密は守ってくださいね」
「ああ、約束する。遥か彼方にあるイエーラへ、楽ちんで旅行出来るチャンスをふいにしたくねえからな」
何とか話がまとまりそうな気配なので、イェレミアスが口をはさむ。
「おお、ボトヴィッド。では引き受けてくれるのだな?」
「ああ、イェレミアス。お前が依頼する仕事の詳細を聞かず、簡単に引き受けるのは自分でも大馬鹿だと思う。だが、生来の好奇心は止められねえ。いろいろと面白くなりそうだからな」
「はははは、面白くなりそうか。では、リオネル様と私で、お前に頼む仕事の内容を改めて説明しよう」
……という事で、リオネルとイェレミアスは今回の依頼内容を詳しく話す。
いつ……準備が出来次第。近日中に迎えに来る。労働期間は1か月以上。
どこで……アクィラ王国国境沿いの、イエーラ特別地区。
何を……アールヴ族が人間族に慣れる練習に協力する。
という説明が改めてリオネルとイェレミアスから為された。
そして肝心の「どうする」だが……ここからはリオネルが説明する。
「ボトヴィッドさんにやって頂く事は、ここフォルミーカでの仕事と変わりません」
「な、何!? 変わらないだと!?」
「はい、特別地区に住居付き店舗を用意していますので、魔道具店クピディタース、イエーラ期間限定店を営業してください」
「おいおい、そんなんで良いのか?」
「はい、いつも通りにガンガン仕事をしてください。販売商品は俺の空間魔法で収納し、転移魔法で運びます。そして報酬はこの店の休業補償込みで1か月につき手取り金貨400枚で、売り上げはそのままご自身の収入にして構いません。家賃は無償、食費などの生活費は別途お支払いします」
「う、うお!!?? て、手取りで1か月で金貨400枚!!??」
「はい、休業補償込みですから」
「おいおい! 加えて売り上げはそのまま俺が貰え、家賃は無償、食費などの生活費は別途か。何から何まで至れり尽くせりだな。それと休業補償って、この店はそんなに売り上げはねえ! ばらつきはあるが月平均にしてせいぜい金貨300枚から400枚、最高でも800枚がここ10年で1回だけ、儲けの粗利はその2割弱ってとこだぞ」
「成る程。では報酬の手取り金貨400枚は妥当です。それにいきなりかつ無理にお願いし、遠方へいらして頂くのですから」
「う、うむ」
「まずは1ヶ月間の契約でお願いします。期間延長の可能性もありますが、その時に契約の更新と契約内容に関しては、再びご相談しましょう。ちなみにアートス君も一緒に連れて行って頂いて構いませんので」
提示されたリオネルとイェレミアスの条件は既に書面にされていた。
ボトヴィッドは快諾し、笑顔でその契約書にサインしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
更にじっくりと細かい部分を話し合い、3週間後に迎えに行く事になり……
その間に引っ越しの準備を済ませておくというボトヴィッド。
ゴーレムのアートスが居るので、荷造り等も大丈夫のようだ。
魔道具店クピディタースを出て帰る道すがら、
リオネルとイェレミアスは念話で会話を交わす。
事前に注意喚起し、共有していた事もあり、
交わす会話の中で、リオネルは柔らかい言い方で、少したしなめ、
人間族に対する言動には注意するよう、イェレミアスへ反省を促した。
一歩間違えば、交渉決裂どころか、
長年培ったボトヴィッドとの友情にひびが入っていたかもしれないから。
イェレミアスもさすがに冗談が過ぎたと、反省しきりであったが、
これも人間族と上手く折り合う訓練の一環であると切り替える。
結局は午後5時過ぎに、宿泊先の山猫亭へ戻ったリオネルとイェレミアス。
外出から戻って来たら、他の客達の夕食後、遅い夕食をともにという約束を、
ダニエラ、ブレンダ母娘と交わしている。
なので、待つ間、明日以降のスケジュール打合せを、リオネルの部屋で行なう事に。
ボトヴィッドとの交渉が上手く行き、予想以上に早く契約が締結したので、
フォルミーカ迷宮へ潜る事で意見は一致した。
リオネルは、修行を兼ねた労働力確保のゴーレム捕獲と資金稼ぎのドラゴン討伐。
一方、イェレミアスは後ろ髪を引かれる思いで置いて来た、
古代都市の状況確認という目的がある。
ふたりの目的は別々であるが、協力し合いながら探索するという考えも一致した。
古代都市の状況はリオネルも気になるところなので、問題は全くないし、
労働力確保と資金稼ぎは、イエーラ富国作戦を支える為に必要だからだ。
リオネルとイェレミアスは百戦錬磨の冒険者なのだが、
安全第一という慎重主義だから、綿密な打ち合わせを行う。
探索メンバーの編成だが……
ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟をヒルデガルドの護衛役として残して来たので、
代役はサラマンダーに擬態したファイアドレイク、
ミニマムドラゴンに擬態したフロストドレイク、
そして大鷲に擬態したジズに担って貰う事に。
この3体をケースバイケースで使い分けるのだ。
いざとなればアスプ、ゴーレムの軍団も繰り出せるから、
魔獣兄弟は居らずとも、最強レベルのクランである。
いざとなれば、迷宮の魔物をテイムし、新たな従士として加えても良いと、
リオネルは考えていた。
探索ルートは浅い層は転移魔法でオミットし、ゴーレムを捕獲した後、
ドラゴンを討伐、最後に古代都市へ向かう事に決めた。
また万が一、リオネルとイェレミアスの姿を迷宮内で目撃されたら、ややこしいので、入場も正規の入り口から入る事にする。
……そんなこんなで、午後9時前となり、一般客の夕食が済んだので、
頃合いとみたリオネルとイェレミアスは山猫亭の食堂へ。
一般客の夕食の片づけは終わっていて、
ダニエラ、ブレンダ母娘が料理を載せた皿を並べ、
飲み物の入ったデカンタ、グラスを置いていた。
こういう時、黙って見ているリオネルではない。
「お疲れ様です、ダニエラさん、ブレンダさん、手伝います」
そんなリオネルにつられ、
「おお、私も手伝いますぞ」
と、4人は一緒に夕食の準備を行ったのである。
転移魔法を自身で実際に体験し、ふうと息を吐いたボトヴィッド。
脱力したようなボトヴィッドを、リオネルがいたわりつつ、尋ねる。
「大丈夫ですか、ボトヴィッドさん。転移魔法で初めて跳んだ時は、気分が悪くなる人が結構、居ますけど」
「いやいや、大丈夫だ。何ともねえよ」
「そうですか。なら転移魔法での旅行に問題はありませんね」
「あ、ああ……そ、そ、そうだな……」
発する言葉がとぎれとぎれとなるボトヴィッド。
失われた古代魔法のひとつ、転移魔法を見て体験したショックは、
まだ消えていないようだ。
対してリオネルは、話を続ける。
「ボトヴィッドさん」
「あ、ああ……」
「ちなみに、俺が使う転移魔法ですが、現時点での移動有効距離が1回の行使につき1,500㎞超です」
「せ、1,500㎞!!??」
「はい、まだまだ修行中なので、1回の発動ではフォルミーカからイエーラまで行けません。しかし4回も発動すれば、余裕で行けます。目的地への安全確認や制御修正等の微調整を要しますが、到達時間はトータル30分もかかりません」
「わ、分かった。す、すげ~な! しかし転移魔法とはさすがにたまげた。完全に予想外だ。確かにこれが世間に知られたら大騒ぎだな。秘密厳守にしてくれってのもよ~く分かるぜ」
「はい、重々お願いします。ただイエーラ国内では結構オープンに使っているので、開国したら、俺が転移魔法習得者であるのは、いずれ知れ渡ってしまうでしょうね」
「そ、そうか!」
「ですが、そうなるのは多分もう少し先です。とりあえず絶対に秘密は守ってくださいね」
「ああ、約束する。遥か彼方にあるイエーラへ、楽ちんで旅行出来るチャンスをふいにしたくねえからな」
何とか話がまとまりそうな気配なので、イェレミアスが口をはさむ。
「おお、ボトヴィッド。では引き受けてくれるのだな?」
「ああ、イェレミアス。お前が依頼する仕事の詳細を聞かず、簡単に引き受けるのは自分でも大馬鹿だと思う。だが、生来の好奇心は止められねえ。いろいろと面白くなりそうだからな」
「はははは、面白くなりそうか。では、リオネル様と私で、お前に頼む仕事の内容を改めて説明しよう」
……という事で、リオネルとイェレミアスは今回の依頼内容を詳しく話す。
いつ……準備が出来次第。近日中に迎えに来る。労働期間は1か月以上。
どこで……アクィラ王国国境沿いの、イエーラ特別地区。
何を……アールヴ族が人間族に慣れる練習に協力する。
という説明が改めてリオネルとイェレミアスから為された。
そして肝心の「どうする」だが……ここからはリオネルが説明する。
「ボトヴィッドさんにやって頂く事は、ここフォルミーカでの仕事と変わりません」
「な、何!? 変わらないだと!?」
「はい、特別地区に住居付き店舗を用意していますので、魔道具店クピディタース、イエーラ期間限定店を営業してください」
「おいおい、そんなんで良いのか?」
「はい、いつも通りにガンガン仕事をしてください。販売商品は俺の空間魔法で収納し、転移魔法で運びます。そして報酬はこの店の休業補償込みで1か月につき手取り金貨400枚で、売り上げはそのままご自身の収入にして構いません。家賃は無償、食費などの生活費は別途お支払いします」
「う、うお!!?? て、手取りで1か月で金貨400枚!!??」
「はい、休業補償込みですから」
「おいおい! 加えて売り上げはそのまま俺が貰え、家賃は無償、食費などの生活費は別途か。何から何まで至れり尽くせりだな。それと休業補償って、この店はそんなに売り上げはねえ! ばらつきはあるが月平均にしてせいぜい金貨300枚から400枚、最高でも800枚がここ10年で1回だけ、儲けの粗利はその2割弱ってとこだぞ」
「成る程。では報酬の手取り金貨400枚は妥当です。それにいきなりかつ無理にお願いし、遠方へいらして頂くのですから」
「う、うむ」
「まずは1ヶ月間の契約でお願いします。期間延長の可能性もありますが、その時に契約の更新と契約内容に関しては、再びご相談しましょう。ちなみにアートス君も一緒に連れて行って頂いて構いませんので」
提示されたリオネルとイェレミアスの条件は既に書面にされていた。
ボトヴィッドは快諾し、笑顔でその契約書にサインしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
更にじっくりと細かい部分を話し合い、3週間後に迎えに行く事になり……
その間に引っ越しの準備を済ませておくというボトヴィッド。
ゴーレムのアートスが居るので、荷造り等も大丈夫のようだ。
魔道具店クピディタースを出て帰る道すがら、
リオネルとイェレミアスは念話で会話を交わす。
事前に注意喚起し、共有していた事もあり、
交わす会話の中で、リオネルは柔らかい言い方で、少したしなめ、
人間族に対する言動には注意するよう、イェレミアスへ反省を促した。
一歩間違えば、交渉決裂どころか、
長年培ったボトヴィッドとの友情にひびが入っていたかもしれないから。
イェレミアスもさすがに冗談が過ぎたと、反省しきりであったが、
これも人間族と上手く折り合う訓練の一環であると切り替える。
結局は午後5時過ぎに、宿泊先の山猫亭へ戻ったリオネルとイェレミアス。
外出から戻って来たら、他の客達の夕食後、遅い夕食をともにという約束を、
ダニエラ、ブレンダ母娘と交わしている。
なので、待つ間、明日以降のスケジュール打合せを、リオネルの部屋で行なう事に。
ボトヴィッドとの交渉が上手く行き、予想以上に早く契約が締結したので、
フォルミーカ迷宮へ潜る事で意見は一致した。
リオネルは、修行を兼ねた労働力確保のゴーレム捕獲と資金稼ぎのドラゴン討伐。
一方、イェレミアスは後ろ髪を引かれる思いで置いて来た、
古代都市の状況確認という目的がある。
ふたりの目的は別々であるが、協力し合いながら探索するという考えも一致した。
古代都市の状況はリオネルも気になるところなので、問題は全くないし、
労働力確保と資金稼ぎは、イエーラ富国作戦を支える為に必要だからだ。
リオネルとイェレミアスは百戦錬磨の冒険者なのだが、
安全第一という慎重主義だから、綿密な打ち合わせを行う。
探索メンバーの編成だが……
ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟をヒルデガルドの護衛役として残して来たので、
代役はサラマンダーに擬態したファイアドレイク、
ミニマムドラゴンに擬態したフロストドレイク、
そして大鷲に擬態したジズに担って貰う事に。
この3体をケースバイケースで使い分けるのだ。
いざとなればアスプ、ゴーレムの軍団も繰り出せるから、
魔獣兄弟は居らずとも、最強レベルのクランである。
いざとなれば、迷宮の魔物をテイムし、新たな従士として加えても良いと、
リオネルは考えていた。
探索ルートは浅い層は転移魔法でオミットし、ゴーレムを捕獲した後、
ドラゴンを討伐、最後に古代都市へ向かう事に決めた。
また万が一、リオネルとイェレミアスの姿を迷宮内で目撃されたら、ややこしいので、入場も正規の入り口から入る事にする。
……そんなこんなで、午後9時前となり、一般客の夕食が済んだので、
頃合いとみたリオネルとイェレミアスは山猫亭の食堂へ。
一般客の夕食の片づけは終わっていて、
ダニエラ、ブレンダ母娘が料理を載せた皿を並べ、
飲み物の入ったデカンタ、グラスを置いていた。
こういう時、黙って見ているリオネルではない。
「お疲れ様です、ダニエラさん、ブレンダさん、手伝います」
そんなリオネルにつられ、
「おお、私も手伝いますぞ」
と、4人は一緒に夕食の準備を行ったのである。
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