上 下
670 / 680

第670話「イエーラが一部開国し、ウチの国と交易を始めるってそういう事か」

しおりを挟む
「ちゃ~っす! ご無沙汰してまあす!」

「お久し振りですな!」

ごくごく軽いノリで、宿屋・山猫亭を訪れたリオネルとイェレミアスであったが……
カウンターへ座っていた店主のダニエラ・ビルトとブレンダの母娘は、
びっくり仰天。

「えええええ!!?? リオネルさん!!?? ど、どうしてええ!!??」
「りゅ、竜退治の英雄が!!?? ド、ドラゴンスレイヤーが!!??」

……イエーラへ赴くと言い残し、フォルミーカを旅立ったリオネルが、
アールヴ族の長、ソウェルたる絶世の美女ヒルデガルドとともに、
長きにわたりアクィラ王国を悩ませていたドラゴンどもをあっさり倒した。

国中に広まった英雄譚を聞き、ダニエラとブレンダは大いに驚いてしまった。

その功績で、リオネルとヒルデガルドは、
国王ヨルゲンと宰相ベルンハルドから直接お褒めの言葉を頂き、
開かれた王宮晩餐会において、貴族達へ『英雄』として紹介されたという。
もしかしたら、勲章も授与されるのではないかというもっぱらの噂。

ランクSながら自分達と同じ『平民』冒険者であったリオネルだが、
こうなっては、完全に『違う世界』へ行ってしまった。
もう、しがない宿屋の娘である自分とかかわる事はないのだろうなと、
ほのかな想いを持っていたブレンダは、ひどくがっかりしていたのだ。

それが今、以前と変わらぬフレンドリーさで、彼女の目の前に現れた!!
驚くのも無理はない。

「またしばらくお世話になりたいのですが」

「部屋はふたつ空いておりますかな?」

そんなリオネルとイェレミアスの問いかけに対し、

「は、はい!」
「あ、空いてます!」

ダニエラとブレンダは何とか返事をした。
ラッキーな事にちょうど、部屋は空いている。

「では、都合2部屋、1週間の滞在でお願いします」
「宿泊費は全額前払い致しますぞ」

「わ、分かりました! あ、ありがとうございます!」
「す、すぐ! お、お部屋の準備を致します!」

という事で、部屋に案内され、ひと息ついたリオネルとイェレミアス。

これで滞在場所は確保。
ボトヴィッドへの交渉、フォルミーカの観光、買い物、
そして迷宮探索などを行える。

……久々の再会という事もあり、
ブレンダはリオネルと話したい雰囲気であったが、今は仕事中。
他の客を放っておくわけにはいかないし、仕事も山積みである。
リオネルとイェレミアスも、ボトヴィッドへ会いに行かねばならない。

「外出から戻って来たら、他の客達の夕食後、4人で遅い夕食をともに、その時にゆっくり話しましょう」という約束をし、
支度をしたリオネルとイェレミアスは魔道具店クピディタースへ向かったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

魔道具店クピディタースは、『営業中』という札を出していた。
店主のボトヴィッドは、相棒であるゴーレムのアートスと、店に出ているはずだ。

事前にリオネルの索敵で分かっていたが、店内へ入ると、客は居なかった。

よし!とばかりに、リオネルとイェレミアスは、声を張り上げる。

「失礼します! ボトヴィッドさん、こんにちわあ!」

「おい、ボトヴィッド。わざわざ顔を出してやったぞ」

アートスは、会った事のあるふたりの声と顔をしっかりと認識したらしく、

「いらっしゃいませ、魔道具店クピディタースへようこそ、リオネル様、そしてイェレミアス様」

すらすらと客向けの歓迎の言葉を告げた。
感情の波がない無機質生命体であるせいか、淡々としている。

しかしボトヴィッドは、そうはいかない。

「うお!? おいおいおい!! お前ら、久しぶりじゃね~かよ!!」

と大いに驚き、勢いよく立ち上がった。

「ご無沙汰していました、お久しぶりです、俺とイェレミアスさんは、しばらくフォルミーカへ滞在します」

「うむ、リオネル様のおっしゃる通り、その間、いろいろ用足しをする。ボトヴィッド、お前にも話があるのだ」

と、更にリオネルとイェレミアスが言えば、

「ああ、そうかい。……おい、アートス、これを表に下げてから、出入り口を閉め、鍵をかけて来い」

と、ボトヴィッドは『休憩中』と書かれた札をアートスへ渡した。

「かしこまりました、ご主人様」

どうやら、ボトヴィッドは外部からの接触をシャットアウトし、
店内で話すつもりらしい。

リオネルが壁にかかった魔導時計を見れば、午前11時を回っている。

話が長引けば、お昼どころか、すぐ夕方になってしまうだろう。

ボトヴィッドを誘い、どこかで一緒にと考えていたから、
リオネルとイェレミアスはまだ昼食を摂ってはいない。

こういう展開ならと、リオネルは気を利かせ、

「ちょっと待ってください。そういう事なら、このお店でお昼でも食べながら、皆で話しませんか」

と提案。更に、

「俺がテイクアウトの弁当と飲み物を買って来ます。買い物はひとりで間に合いますから、待っていてくださいね」

と言い切り、

「リオネル様、買い物ならば、私が行きます!」

と言うイェレミアスを手で制し、

「ちなみに食べ物、飲み物で、何か好きなもの、苦手なものはありますか?」

とも聞き、情報収集した上で、一旦店外へ出て、近くのいくつかの商店へ行き、
速攻で数種類の弁当と料理、飲み物を購入――すぐクピディタースへ戻った。

リオネルが戻ると、アートスはボトヴィッドの指示通り、休憩中の札を下げ、出入り口を閉めて施錠。

そしてリオネルは店内にある商談用のテーブルへテーブルクロスを広げ、
昼食のセッティングにかかる。

収納の腕輪には、冒険の際、使用するキャンプ用品だけでなく、
普段飲食をする為の道具各種も数多入っている。
リオネルは好みの品物を見つけたら、こまめにどんどん買い足していたのだ。

手慣れた感じで、リオネルは並べた皿へ弁当の中身と料理を盛り付けて、
グラスへ飲み物を注いで行く。

あっという間に、テーブル上は小宴会の趣きとなる。

自分達だけ、昼食というのは申し訳ないので、
忠実なアートスには、念の為、破邪霊鎧を掛け直し、魔力も注入し、リフレッシュ。

ボトヴィッドとイェレミアスから礼を言われ、これで支度は完了。

「準備OKです。とりあえず再会を祝して乾杯しましょうか」

「うむ、そうですな、リオネル様!」

「乾杯しよう!」

カチン!カチン!カチン!

陶器製のグラスが合わされ、再会のお祝いが為された。

誇り高いアールヴ族のイェレミアスが、若輩で異種族のリオネルを『様』と尊称で呼び、敬語を使っている事に対し、違和感を覚えたボトヴィッド。

「どうして?」とふたりへ問いただしたが、
「リオネル様が、イエーラへ多大に貢献し、とても感謝しているから」
とイェレミアスから返され、不本意ながら何とか納得した。

当然だが、ボトヴィッドもリオネルとヒルデガルドによる英雄譚――ドラゴン討伐を知っており、まず話題に出して来る。

「リオネル、お前は単身フォルミーカ迷宮へ潜り、一番底まで行き、かすり傷ひとつなく、帰還したくらいだ。とんでもなくものすげえ奴だと思ってはいた」

「そうですか」

「ああ、だが、長年ウチの国で暴れていたあの凶悪なドラゴンどもをあんなにあっさり倒すとは思わなかったよ」

「はい、ドラゴン討伐は事前調査をした上で、充分な準備をして臨みました。幸い運もありましたし、上手く行って良かったと思います」

「ははははは、相変わらず驕らずに謙虚だ。普通は俺は英雄でございと、偉そうにふんぞり返るもんだがな。ちなみにドラゴン討伐に同行したのはこいつの孫娘だって?」

「ですね。お名前はヒルデガルドさんです」

「ほうほう、そのヒルデガルドって子は絶世の美女って噂なんだが、どうせこいつの孫娘なら、じじ譲りで頑固なわがまま娘だったろ?」

「いえいえ、ヒルデガルドさんが美しいのは勿論ですが、誠実で優しくて聡明な方ですよ。術者としての実力もあり、完璧です」

ここで口をはさんだのが、イェレミアスである。

「うむうむ! 私の孫娘はな、確かに少しだけわがままだが、ほぼ、リオネル様のおっしゃる通りだぞ、ボトヴィッド」

「ふん! そうか? どうせじじのひいき目だろ?」

昼食を摂りながら、そんな会話が続いたが……
次にリオネルがイェレミアスと契約したイエーラ富国作戦について、ざっくり話すと、ボトヴィッドは、ひどく面白がった。

「おお、いろいろとやっているんだな!」

と感嘆し、

「イエーラが一部開国し、ウチの国と交易を始めるって、そういう事か」

と納得した。

さあ!
ここからが本題である。

「でだ、その件に際し、協力して欲しい事があるのだ、ボトヴィッド」

イェレミアスはそう言うと、柔らかく微笑んだのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿
ファンタジー
『異世界転移』 それは男子高校生の誰しもが夢見た事だろう この物語は神様によって半ば強制的に異世界転移させられた男がせっかくなので異世界ライフを満喫する話です ★印は途中や最後に挿絵あり

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一
ファンタジー
俺の名は御剣那由多(みつるぎなゆた)。 16歳。 ある日目覚めたらそこは異世界で、しかも召喚した奴らは俺のクラスが勇者じゃないからとハズレ扱いしてきた。 しかも元の世界に戻す事無く、小銭だけ渡して異世界に適当に放棄されるしまつ。 まったくふざけた話である。 まあだが別にいいさ。 何故なら―― 俺は超学習能力が高い天才だから。 異世界だろうが何だろうが、この才能で適応して生き延びてやる。 そして自分の力で元の世界に帰ってやろうじゃないか。 これはハズレ召喚だと思われた御剣那由多が、持ち前の才能を生かして異世界で無双する物語。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...