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第666話「その代わり、ソヴァール王国へは、俺とヒルデガルドさんのふたりで一緒に行きましょう」

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リオネルは「はい」と挙手し、

「おふたりのお話を踏まえ、俺から提案があります。聞いて頂いて宜しいでしょうか?」

と、問いかけた。

そんなリオネルの言葉を聞き、イェレミアスとヒルデガルドは、

「おお、ぜひとも拝聴したいものです!」

「お願い致します! リオネル様! どうぞ、お聞きかせくださいませ!」

そう、提案を聞きたがった。

なのでリオネルは、話を続ける。

「はい、シンプルに行きます。人間族へ、アールヴ族の能力長所をどんどんアピールするのです」

「む? 人間族へアールヴ族の能力長所をどんどんアピール?」

「でも、リオネル様。それって鼻持ちならない、一方的なアールヴ族の自慢話になるのでは? 凄く嫌われると思いますよ」

「はい、ヒルデガルドさんの懸念はごもっともです。ですがアールヴ族の能力長所をどんどんアピールするのは方法論としては間違っていません」

「そうなのですか?」

と首を傾げるヒルデガルド。

うんうんと、納得したようにイェレミアスも頷く。

「私もヒルデガルドの懸念は当然だと考えます。プライドが高すぎ、人間族から距離を置かれた昔の自分を思い出してしまいますからなあ」

「はい、先ほども言いましたが、おふたりのご懸念は尤もなので、アピールに関しては表現と伝え方を熟考すべきです。誤解の無きよう、反感を買わぬよう、アールヴ族を理解して貰いましょうよ」

「確かにリオネル様のおっしゃる事は分かりますわ。宜しければ方法をお聞かせくださいませ」

「はい、詳しい内容は後で詰めるとして、アールヴ族をリスペクトして貰う為に、相互理解として、アールヴ族にも人間族をリスペクトして貰いましょう」

「アールヴ族にも人間族をリスペクトして貰う……」

「はい、人間族って結構やるじゃないか。だったら認めようって感じですね」

「成る程。リオネル様がおっしゃるのは、アールヴ族と人間族が互いに認め合うって事ですよね」

「はい、そうです」

「私ヒルデガルドは、認め合うどころか、リオネル様を心からお慕いし、ふか~く尊敬を致しておりますけど」

「ありがとうございます。俺もヒルデガルドさんは優しく聡明で前向きだし、容姿はとても端麗。術者としても素晴らしい才能を持っていると思います」

「うふふ、リオネル様に認めて頂いた上、そこまでお褒め頂き、嬉しいです。こういう事が相互理解って事ですね」

「はい。ヒルデガルドさんが俺を慕い尊敬してくれているのは、とても嬉しいですけど、念の為、具体的な理由を聞いても構いませんか?」

「はいっ! お答えします! だ~いすきなリオネル様の素晴らしいところはた~くさんあります!」

「た、たくさんですか?」

「はい! では行きます! 4大精霊に祝福され、失われた古代魔法も使いこなす底知れない魔法使いでいらっしゃる事、超イケメンで鍛え抜かれた素晴らしい身体能力をお持ちで武技にも秀でていらっしゃる事、世界一博識で、向学心にあふれる事」

「……ええっと」

「まだまだあります! ご性格も誠実で優しく相手を思いやれる、物静かで穏やか、決して裏切らず義理堅い。普段から深謀遠慮、慎重で用心深くとも、必要な時には即断即決、臨機応変に御対応出来る素晴らしい判断力、決断力もお持ちの事ですわ!」

「うわ! そこまで言います? 超イケメンとか、世界一博識とか、性格とか、他にもいろいろ全然違うと思いますし、何から何まで、俺をとんでもなく美化してほめすぎではありませんか?」

「いえいえ、美化などしておりませんし、ほめすぎてもおりません。まだまだ言い足りないですわ。リオネル様には、最優秀な長所が、数えきれないくらいおありなのですから。あの、もっともっと言いましょうか?」

「いえ……まあそれくらいにして、話を戻しますと、アールヴ族と人間族、それぞれの長所を認め合い、適材適所で共存共栄して行こうという考えです。で、肝心の方法ですが……」

リオネルは軽く息を吐くと、更に話を続けたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「千里の道も一歩より。アールヴ族と人間族が互いに理解し、長所を認め合う為には、俺以外の人間族にも慣れるのが第一歩です。習うより慣れよとも言いますし。特別地区で実務に就く公社職員、武官、事務官達には、人間族に充分慣れて貰いましょう」

イエーラへ来たリオネルはヒルデガルド、イェレミアスとやりとりをするとともに、官邸の事務官、武官と接し、彼ら彼女達は人間族に慣れて行った。

また様々な施策で都フェフ市内、そしてイエーラ中を巡ったリオネルは、
イエーラの政策顧問として名を売り、接した国民達に対し、
人間族のイメージを根本から、がらりと変えてしまったのだ。

今やイエーラにおいて、リオネルの実力は、
長たるソウェルに匹敵すると認識され、尊敬されつつ畏怖されてもいたのである。

「官邸の事務官、武官、公社職員、フェフの市民、そして施策の為に赴いた地域の方々は、俺という人間族に慣れ、偏見を持たずに接してくれるようになりました。しかし、アールヴ族が全員ソウェルレベルの魔法使いではないように、人間族も誰もが俺と同じ魔法使いではありません」

「本当にそうですよね!」
「うむ! 全くその通りだ!」

イエーラを出国し、人間族の世界を旅し、人間族の知己を得たふたりは、
リオネルの言葉に共感した。

「俺はイエーラで暮らし、様々なアールヴ族と接して思いましたが、アールヴ族も人間族も多士済々、各人が個性豊かで違う能力を持つキャラクターなのです」

「全く同感ですわ!」
「アールヴ族も人間族も、いろいろな者が居りますからな」

「はい、なのでまずはそういう認識を持って貰う為、公社職員、事務官、武官には俺以外の様々な人間族と接する事で見て聞いて慣れ、そして学んで欲しいと思います。こちらから人間族の国へ研修という形で赴く方法もあります。ですが、イエーラ自体はまだ鎖国政策を継続していますから今回は見送り、この特別地区において人間族と寝食を共にし、慣れ親しむ事で相互理解を深めます」

「話がだんだん見えて来ましたわ」
「この特別地区で人間族と接する練習をするという事ですな」

「ですです! 候補の人間族ですが、まずは優秀なスキルを持つ事は必須の条件です。実施期間はとりあえず1か月くらいとしましょうか。人数はまず4~5人程度。それから段階的に期間を延ばしたり、人数を増やしたりしましょう」

「もろもろ了解ですわ。それで、リオネル様。この特別地区で一緒に生活してくれるその人間族候補の方を具体的にどう手配しましょうか」
「一番最初ですからアールヴ族と上手く折り合える方が望ましいですな、リオネル様のような穏やかな方とかが望ましいです」

「……ええっと、候補に関しては俺に宛てがいくつかありますが、まだ引き受けてくれるかどうか、未確定ですし、相手がある事なので調整が必要です。これから準備と交渉へ入ります」

「リオネル様には宛てがおありですか?」
「うむ、確かに相手にも都合がありますから、準備と交渉は必要でしょうな」

「はい、お願いする人間族候補の方には、旅の負担を軽減する為に、転移魔法でイエーラまで来て貰う事になります。ですから、必ず秘密を守れる方なのと、普段の仕事を中断して来て貰うので、満足の行くギャランティを支払うのは勿論、場合によっては休業期間中の補償金も必要ですね」

「成る程!」
「確かに!」

「ちなみに候補のひとりめは、フォルミーカ在住、イェレミアスさんの親友であるボトヴィッド・エウレニウスさんです」

「え!? おじいさまのご親友の?」
「むむむ、あの偏屈者ですか!? 穏やかとは程遠い奴ですぞ」

イェレミアスもひねくれものと、ボトヴィッドから言われていた。
どっちもどっちである。

「まあまあまあ、準備が出来たらイェレミアスさんとフォルミーカへ赴き、ボトヴィッドさんへ交渉とお願いをしたいと思います」

リオネルがそう言うと、ヒルデガルドは大いに驚き、

「え!? リオネル様!! おじいさまといかれるのですか!? その間、私は? フォルミーカへは一緒に連れて行って頂けないのですか!?」

「いやいや、ソウェルとソウェル代行、ふたりが一度に不在になるわけにはいきません。ですから、俺とイェレミアスさんがフォルミーカから戻るまで、ヒルデガルドさんはフェフの官邸で留守番ですね」

「え~~!! 留守番!? そんなああ!!」

しかめっ面のヒルデガルドは、とても不満そうである。

そんなヒルデガルドへ、リオネルは提案。

「その代わり、ソヴァール王国へは、俺とヒルデガルドさんのふたりで一緒に行きましょう」

「え!? ソヴァール王国へ、リオネル様と私、ふたりで、ですか!?」

「はい!」

「分かりました! しっかりとフェフでお留守番を致しますわ!」

しかめっ面が完全に消え、
機嫌がすっかりと直ったヒルデガルドは、柔らかく微笑んだのである。
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