上 下
666 / 689

第666話「その代わり、ソヴァール王国へは、俺とヒルデガルドさんのふたりで一緒に行きましょう」

しおりを挟む
リオネルは「はい」と挙手し、

「おふたりのお話を踏まえ、俺から提案があります。聞いて頂いて宜しいでしょうか?」

と、問いかけた。

そんなリオネルの言葉を聞き、イェレミアスとヒルデガルドは、

「おお、ぜひとも拝聴したいものです!」

「お願い致します! リオネル様! どうぞ、お聞きかせくださいませ!」

そう、提案を聞きたがった。

なのでリオネルは、話を続ける。

「はい、シンプルに行きます。人間族へ、アールヴ族の能力長所をどんどんアピールするのです」

「む? 人間族へアールヴ族の能力長所をどんどんアピール?」

「でも、リオネル様。それって鼻持ちならない、一方的なアールヴ族の自慢話になるのでは? 凄く嫌われると思いますよ」

「はい、ヒルデガルドさんの懸念はごもっともです。ですがアールヴ族の能力長所をどんどんアピールするのは方法論としては間違っていません」

「そうなのですか?」

と首を傾げるヒルデガルド。

うんうんと、納得したようにイェレミアスも頷く。

「私もヒルデガルドの懸念は当然だと考えます。プライドが高すぎ、人間族から距離を置かれた昔の自分を思い出してしまいますからなあ」

「はい、先ほども言いましたが、おふたりのご懸念は尤もなので、アピールに関しては表現と伝え方を熟考すべきです。誤解の無きよう、反感を買わぬよう、アールヴ族を理解して貰いましょうよ」

「確かにリオネル様のおっしゃる事は分かりますわ。宜しければ方法をお聞かせくださいませ」

「はい、詳しい内容は後で詰めるとして、アールヴ族をリスペクトして貰う為に、相互理解として、アールヴ族にも人間族をリスペクトして貰いましょう」

「アールヴ族にも人間族をリスペクトして貰う……」

「はい、人間族って結構やるじゃないか。だったら認めようって感じですね」

「成る程。リオネル様がおっしゃるのは、アールヴ族と人間族が互いに認め合うって事ですよね」

「はい、そうです」

「私ヒルデガルドは、認め合うどころか、リオネル様を心からお慕いし、ふか~く尊敬を致しておりますけど」

「ありがとうございます。俺もヒルデガルドさんは優しく聡明で前向きだし、容姿はとても端麗。術者としても素晴らしい才能を持っていると思います」

「うふふ、リオネル様に認めて頂いた上、そこまでお褒め頂き、嬉しいです。こういう事が相互理解って事ですね」

「はい。ヒルデガルドさんが俺を慕い尊敬してくれているのは、とても嬉しいですけど、念の為、具体的な理由を聞いても構いませんか?」

「はいっ! お答えします! だ~いすきなリオネル様の素晴らしいところはた~くさんあります!」

「た、たくさんですか?」

「はい! では行きます! 4大精霊に祝福され、失われた古代魔法も使いこなす底知れない魔法使いでいらっしゃる事、超イケメンで鍛え抜かれた素晴らしい身体能力をお持ちで武技にも秀でていらっしゃる事、世界一博識で、向学心にあふれる事」

「……ええっと」

「まだまだあります! ご性格も誠実で優しく相手を思いやれる、物静かで穏やか、決して裏切らず義理堅い。普段から深謀遠慮、慎重で用心深くとも、必要な時には即断即決、臨機応変に御対応出来る素晴らしい判断力、決断力もお持ちの事ですわ!」

「うわ! そこまで言います? 超イケメンとか、世界一博識とか、性格とか、他にもいろいろ全然違うと思いますし、何から何まで、俺をとんでもなく美化してほめすぎではありませんか?」

「いえいえ、美化などしておりませんし、ほめすぎてもおりません。まだまだ言い足りないですわ。リオネル様には、最優秀な長所が、数えきれないくらいおありなのですから。あの、もっともっと言いましょうか?」

「いえ……まあそれくらいにして、話を戻しますと、アールヴ族と人間族、それぞれの長所を認め合い、適材適所で共存共栄して行こうという考えです。で、肝心の方法ですが……」

リオネルは軽く息を吐くと、更に話を続けたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「千里の道も一歩より。アールヴ族と人間族が互いに理解し、長所を認め合う為には、俺以外の人間族にも慣れるのが第一歩です。習うより慣れよとも言いますし。特別地区で実務に就く公社職員、武官、事務官達には、人間族に充分慣れて貰いましょう」

イエーラへ来たリオネルはヒルデガルド、イェレミアスとやりとりをするとともに、官邸の事務官、武官と接し、彼ら彼女達は人間族に慣れて行った。

また様々な施策で都フェフ市内、そしてイエーラ中を巡ったリオネルは、
イエーラの政策顧問として名を売り、接した国民達に対し、
人間族のイメージを根本から、がらりと変えてしまったのだ。

今やイエーラにおいて、リオネルの実力は、
長たるソウェルに匹敵すると認識され、尊敬されつつ畏怖されてもいたのである。

「官邸の事務官、武官、公社職員、フェフの市民、そして施策の為に赴いた地域の方々は、俺という人間族に慣れ、偏見を持たずに接してくれるようになりました。しかし、アールヴ族が全員ソウェルレベルの魔法使いではないように、人間族も誰もが俺と同じ魔法使いではありません」

「本当にそうですよね!」
「うむ! 全くその通りだ!」

イエーラを出国し、人間族の世界を旅し、人間族の知己を得たふたりは、
リオネルの言葉に共感した。

「俺はイエーラで暮らし、様々なアールヴ族と接して思いましたが、アールヴ族も人間族も多士済々、各人が個性豊かで違う能力を持つキャラクターなのです」

「全く同感ですわ!」
「アールヴ族も人間族も、いろいろな者が居りますからな」

「はい、なのでまずはそういう認識を持って貰う為、公社職員、事務官、武官には俺以外の様々な人間族と接する事で見て聞いて慣れ、そして学んで欲しいと思います。こちらから人間族の国へ研修という形で赴く方法もあります。ですが、イエーラ自体はまだ鎖国政策を継続していますから今回は見送り、この特別地区において人間族と寝食を共にし、慣れ親しむ事で相互理解を深めます」

「話がだんだん見えて来ましたわ」
「この特別地区で人間族と接する練習をするという事ですな」

「ですです! 候補の人間族ですが、まずは優秀なスキルを持つ事は必須の条件です。実施期間はとりあえず1か月くらいとしましょうか。人数はまず4~5人程度。それから段階的に期間を延ばしたり、人数を増やしたりしましょう」

「もろもろ了解ですわ。それで、リオネル様。この特別地区で一緒に生活してくれるその人間族候補の方を具体的にどう手配しましょうか」
「一番最初ですからアールヴ族と上手く折り合える方が望ましいですな、リオネル様のような穏やかな方とかが望ましいです」

「……ええっと、候補に関しては俺に宛てがいくつかありますが、まだ引き受けてくれるかどうか、未確定ですし、相手がある事なので調整が必要です。これから準備と交渉へ入ります」

「リオネル様には宛てがおありですか?」
「うむ、確かに相手にも都合がありますから、準備と交渉は必要でしょうな」

「はい、お願いする人間族候補の方には、旅の負担を軽減する為に、転移魔法でイエーラまで来て貰う事になります。ですから、必ず秘密を守れる方なのと、普段の仕事を中断して来て貰うので、満足の行くギャランティを支払うのは勿論、場合によっては休業期間中の補償金も必要ですね」

「成る程!」
「確かに!」

「ちなみに候補のひとりめは、フォルミーカ在住、イェレミアスさんの親友であるボトヴィッド・エウレニウスさんです」

「え!? おじいさまのご親友の?」
「むむむ、あの偏屈者ですか!? 穏やかとは程遠い奴ですぞ」

イェレミアスもひねくれものと、ボトヴィッドから言われていた。
どっちもどっちである。

「まあまあまあ、準備が出来たらイェレミアスさんとフォルミーカへ赴き、ボトヴィッドさんへ交渉とお願いをしたいと思います」

リオネルがそう言うと、ヒルデガルドは大いに驚き、

「え!? リオネル様!! おじいさまといかれるのですか!? その間、私は? フォルミーカへは一緒に連れて行って頂けないのですか!?」

「いやいや、ソウェルとソウェル代行、ふたりが一度に不在になるわけにはいきません。ですから、俺とイェレミアスさんがフォルミーカから戻るまで、ヒルデガルドさんはフェフの官邸で留守番ですね」

「え~~!! 留守番!? そんなああ!!」

しかめっ面のヒルデガルドは、とても不満そうである。

そんなヒルデガルドへ、リオネルは提案。

「その代わり、ソヴァール王国へは、俺とヒルデガルドさんのふたりで一緒に行きましょう」

「え!? ソヴァール王国へ、リオネル様と私、ふたりで、ですか!?」

「はい!」

「分かりました! しっかりとフェフでお留守番を致しますわ!」

しかめっ面が完全に消え、
機嫌がすっかりと直ったヒルデガルドは、柔らかく微笑んだのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...