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第662話「双方の言葉、態度は真剣そのものである」

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上位女神たるミネルヴァから商業の教えを受けたリオネル達であったが……

リオネル、ヒルデガルド、イェレミアスは、
イエーラ全体の復興、発展をはかる『イエーラ富国作戦』に携わる身として、
商業のみに注力しているわけにもいかない。

イエーラの国民を飢えさせない為、食糧大幅増産を目指す農業のフォローを始め、
やらなければならない仕事は山ほどあるのだ。

そのあたりの事情もお願いする際、ティエラからミネルヴァには話し、
しっかりと理解して貰っている。

それゆえリオネル、ヒルデガルド、イェレミアスは、商業を学びながら、
中座をし、他の政務にも奔走した。

例えば、リオネルが行った仕事のひとつ、フェフからの主要街道の舗装化だが、
施工した結果、想定したより遥かに多く人々の往来が増えた。

車輪へのダメージが少ない石畳の為に、馬車、荷車の通行もスムーズとなり、
人々はこれは便利だと輸送量が著しく増大。
当然、人だけではなく、
フェフへ持ち込まれる商品の流入も数倍以上となったのである。

また拡張改修、露店が新設されたフェフの市場の効果もあり、
新しもの見たさとともに購入意欲も刺激され、売り上げもどんどん増えたのだ。

こうして売上げがどんどん増えれば、
商品を供給する生産者側のモチベーションも著しく上がる。

全ての産業に影響を及ぼす国内街道の整備の必要性は、政務の優先順位としては上位に属すると、ヒルデガルドとイェレミアスも大いに納得した。

という事で、リオネルは以前ゴーレムを使役し造った、
都フェフから延びる街道の拡張&石畳化――舗装化を、
イエーラ国内の他の街道においても実施する事にしたのである。

幸いというか、リオネルは、あらかじめ2次計画以降の予定も立てていたので、
すぐ実施する事になった。

工事対象の道路も決定していたし、先の経験もあったから深夜の施工はスムーズ。

ヒルデガルドがお約束の立ち合い確認を求めたが、さすがにこれは却下された。

リオネルへ『お任せ』にして貰い、彼女は普段の激務を癒す為、
お気に入りのベッドを使い、官邸でゆっくりと就寝する。

という事で、リオネルは疲れ知らずのゴーレム軍団を使い、
あっという間に前回の5倍以上の道路を拡張、石畳化――舗装化した。

これでフェフへの交通量は勿論、イエーラ国内各地の交通量も更に増えるだろうし、
増産が見込まれる農作物の輸送も活発化するに違いない。

そんなこんなで、道路の整備が終わったので……次は農業のフォローへ。

「今度こそは同行を!」とせがまれたリオネルは、
ヒルデガルドとともに転移魔法で各地を回る。

そして必要な箇所にはゴーレムで土木工事、農作業を行い、
ティエラ直伝、地の祝福とアドバイスを与え、農民達を大いに励ました。

農業のフォローが終わった後は、ふたりでフェフの公社直営店3店を視察。
事務官、公社幹部から報告を受けた上、
交易における輸入用、輸出用の商品を検討を。

それぞれを検討した後は、輸入用商品の関税に付随した仕入れ価格設定&販売価格を決め、輸出用の商品は生産体制の確保、生産目標数等々の計画を立てたのである。

結果、輸入用の商品は、イエーラ国内で生産が難しい加工品食料、
そして日用品が主となりそうだ。
また輸出用の商品は農作物で、
やはりイエーラ名産たるハーブが主となりそうであった。

リーベルタースの各商会で打合せした際、リオネルとヒルデガルドは、
輸入を想定したアクィラ王国の商品事情についてリサーチしていたから、
この打合せはとてもスムーズに運んだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……打合せ終了後、リオネルから新たな提案が為された。

「ミネルヴァ様からご教授して頂き、商会運営、交渉の段取り、もろもろは理解したと思いますが、言うは易く行うは難しです。スムーズに実践する為、専用マニュアルを作成し、そのマニュアルを使いながら、本番さながらの取引実務の研修を特別地区で行いましょう。俺がアクィラ王国の……いえ、人間族の商会役をやりますので」

そんなリオネルの言葉を聞き、ヒルデガルドとイェレミアスが言葉を返す。

「リオネル様。専用マニュアルを作成し、本番さながらの取引実務の研修を?」

「ほう! リオネル様が人間族の商会役をおやりになるのですか?」

「はい、使用する専用マニュアルは事務官さん達に協力して頂き、対商会実務の教科書として初心者でも理解しやすいように作成しましょう。仕様は冒険者ギルドの講座テキストを基にすれば良いと思います」

「成る程ですね!」

「うむ、ミネルヴァ様からお受けした講義の際使用した、ギルドの商人入門テキストは、確かに分かりやすかったですからな」

「はい! それに冒険者ギルドの講座テキストは、様々な内容のものが多岐にわたっていますし、ワレバッドで種類も冊数も充分に確保してあります。だから商業だけでなく、イエーラで行う他の事業や教育にも応用がききます。不足となってもすぐ取り寄せられますし、なんなら自分が転移魔法を使い、取りに行っても構いません」

リオネルの言葉を聞き、笑顔のヒルデガルドが言う。

「うふふ、おじいさま、私も実際にワレバッドで講座を受講しましたが、やりたい事が迷ってしまうほどたくさん増えました」

「おお、そうか、そうか、ヒルデガルド。私も同感だ。楽しく学べ、選択肢が多くあれば、アールヴ族の向学心が著しく上がりそうだな」

「ですね! このテキストは、イエーラの基礎学習、応用学習、職業訓練に上手く使えるのではないでしょうか」

「うむ! 現在のイエーラは私的な寺子屋が多いから、各種学校の整備が必要だな!」

そんなふたりの会話を受け、リオネルがクロージング。

「はい! では早速、事務官さん達に協力して貰い、マニュアル作成に取り掛かりましょう」

そこから、すぐ指示が出され……約1週間をかけ、テキストは完成した。

更に1週間、マニュアルをじっくり読み込み、質疑応答が交わされ……
取引実務の研修がスタートする事に。

会場は、新設なった特別地区の公社商館にて。
この2週間の間に、研修を行う公社商館には打合せ用の応接室設備、
カウンターが整えられ、仕事用の机、椅子、ロッカーなども搬入されている。

フェフの官邸で準備をした公社職員達は準備が整うと、
リオネルの転移魔法で全員が特別地区へ移動。

あっという間に特別地区へ到着。
研修会場の公社商館へ入ると……各員が配置につき、
試行錯誤しながら、研修を行う事に。

まずは人間族商会役のリオネルが、
イエーラ産のハーブを買い付けに来たという設定である。
ヒルデガルドはリオネルの傍に居て、商会と公社のやりとりを学ぶという立ち位置だ。

商館を訪ね、あいさつをしたリオネルとヒルデガルドは、
公社職員達とあいさつを交わし、早速打合せに入る。

「初めまして! 私はアクィラ王国ロートレック商会のリオネル・ロートレックと申します。イエーラ産のハーブを買い付けに参りました。何卒宜しくお願い致します」

「これはこれは! リオネル・ロートレック様! ようこそ我がイエーラへ!」

「リオネル様。こちらがハーブのサンプルです。このサンプルを確認して頂きながら、商品説明を致します」

「おお、ありがとうございます。……これは相当上質のハーブですね!」

所詮疑似の交渉といえど、これは本番を見据えてのもの。

双方の言葉、態度は真剣そのものである。

「イエーラとしましては、生産者の苦労とコストを考え、販売価格はこれくらいを考えているのですが……」

「う~ん。それは少し厳しい金額ですね。その価格だと、こちらの目指す利益には届かない」

「成る程、では、こうしましょうか?」

……初めて体験する人間族との交渉に、
公社職員達は最初緊張しながらも、商談や駆け引きの面白さに段々、熱が入り、
とても夢中になったのである。
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