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第641話「扉を開けても問題なし、大丈夫である」

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食事について、魔導通話機でホテルの担当者と話すリオネル。

「うんうん」と、納得したように頷く。

「ああ、成る程、成る程。……分かりました、ちょっとこちらで考えます。では一旦失礼します。またご連絡しますね」

リオネルは、魔導通話機の受話器を静かに置いた。

すかさず、ヒルデガルドが問いかける。

「どうですか? リオネル様、こちらのホテルの食事については?」

「はい、このホテルのレストランについて、担当さんへ問い合わせたのですが、アクィラ王国の宮廷料理が一番の名物であり、初めて食べる人はコース料理を選択する事が多いそうです」

「な、成る程……アクィラ王国の宮廷料理ですか? 興味深いですね」

「はい、俺は初めてアクィラ王国フォルミーカへ旅をした際、途中の町でアクィラ王国の料理を食べました。豚肉、魚、じゃがいもを使った料理が多いらしいのですが、ミートボール、レバーソースがかかったチーズオムレツ、サーモンのムニエル、干しタラの煮込み、そしてポテトサラダなどを食べました」

「うわ! それ全部が美味しそうです! リオネル様に、ワレバッドで作って頂いたものもありますよね? このホテルでは食べられないのでしょうか?」

「用意してあるかもしれませんから、オーダーする際、メニューを確認しましょう。但し、俺が食べたものとレストラン名物の宮廷料理は、全く違うものかもしれませんけど」

「分かりました」

「そしてアクィラ王国ナンバーワンホテルという格式を考えたら、当然なんですけど、このレストランにはドレスコードがあるそうですよ」

「ドレスコードですか? 服装がらみの事ですよね?」

「はい、俺は一般的な知識のみしかなく、ヒルデガルドさんの方が、ご存じかもしれませんが、ドレスコードとは、時間帯や場所、場面などにふさわしいとされる服装の事です」

「成る程。何となく分かりますわ。ふさわしいとされる服装って、正装も含め、お店に適合した服装をするという事ですね?」

「です。冒険者ギルドのホテルは基本的に冒険者とその関係者が宿泊するというローカルルールがあり、そこまで固い雰囲気ではないのですが、このホテルは普通に超高級ホテルなので、正礼装モストフォーマルか、準礼装セミフォーマルでないとNGらしいです」

「そうなのですか?」

「はい、でもまあ礼装は、正礼装、準礼装、略礼装、アールヴ族と人間族、それぞれ全てのパターンを用意してありますから、どれかに着替えて行けば問題はありませんがね」

「うふふ、いつもながらパーフェクトです、さすがリオネル様。まさに備えあればうれいなし……ですね」

「です! ヒルデガルドさんは、アールヴ族の正礼装、人間族の正礼装……どちらで行けば良いと思いますか?」

「はい、あくまで私見ですが、このホテルで摂る最初の食事ですから、アールヴ族の代表として、正礼装で行き、その後は訪問先に合わせ、それこそドレスコードで、臨機応変に対応すれば宜しいと思います」

「はい、俺も全く同意見ですね」

「うふふ、本当に気が合いますね、私達……」

……こうして、リオネルとヒルデガルドはホテルのレストランへ行き、
今夜の食事を摂る事を決めたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アールヴ族の正礼装とは、独特なデザインの豪奢なローヴである。
ソウェルであるヒルデガルドは、公務の式典出席などの為に、
結構な数を所有していた。
そのいくつかをヒルデガルドに選んで貰い、収納の腕輪へ搬入し、
持参している。
当然、全てがオーダーメイド品だ。

リオネルの正礼装ローヴもヒルデガルドに見立てて貰ったものが数着ある。

ふたりで着用し、並んで立つ、または歩く際のバランスも重要だ。

リオネルとヒルデガルドは収納の腕輪からいくつか出されたローヴとその一式を、
あれが良い、これが良いとやりとりし、結局それぞれが、ひとつを選んだ。

早速着替え、リオネルは再びホテルの担当者へ連絡。
「支度をしたので、今夜はホテルのレストランで夕食を摂りたい」と伝える。

「30分、お待ち頂けますか? すぐに手配を致します」

担当者は、ためらいなく答えた。

ギルドマスターのマウリシオがロイヤルスイートルームをリザーヴした際、
食事を始めとして、他の手配をおろそかにしたとは考えにくい。

要望があれば、すぐ対応可能なように、レストランへ「話を通してある」はずだ。

そんなリオネルの予想はやはり当たった。

30分どころか、10分経たないうちに、魔導通話機のベルが鳴ったのである。

すかさず、受話器を取るリオネル。

「はい、ヒルデガルド様のお部屋です」

リオネルが応えると、

「お待たせ致しました! レストランのVIPルームの準備が整いました。すぐに私がお迎えに上がります」

担当者がきっぱりと言い切ったから。

その言葉を聞き、リオネルはOKし、尋ねる。

「了解しました。迎えにいらっしゃるのは担当者さんと護衛の方でしょうか?」

「そうです」

「分かりました。念の為ですが、伝えておきます。もしもそれ以外の方が居た場合、申し訳ありませんが、ヒルデガルド様の警備上、扉は開けませんので、ご容赦ください」

ホテルに入って、部屋でくつろいでいても、常に『索敵』のスキルはMAX状態。

リオネルは部屋に居ながら、ホテルにどのような来訪者があるのか、
常にチェックしていた。

さすがに身元や心の中までは探らないが、悪意を持つ人間がホテルに入ったり接近して来たら、すぐに対処すると決めている。

ヒルデガルドの警備は勿論、自身の安全を確保する為の用心は怠らない。
このロイヤルスイートルームのフロアが宿泊者、関係者以外は入る事が出来ないと重々承知しながら。

「わ、分かりました、リオネル様」

というやりとりの後、担当者は冒険者ギルドの護衛5名を引き連れ、
ロイヤルスイートルームの扉前へやって来た。

こんこんこんと、担当者がノックをする。

リオネルの索敵に『不審者』は居ない。

悪意を持つ者も居ない。

扉を開けても問題なし、大丈夫である。

「リオネルです。今、扉を開けます」

かちゃりと鍵が解除され、扉が開けられた。

「お、おお!?」
「こ、これは!?」

ホテルの担当者と護衛達が感嘆の声を発したのも無理はなかった。

彼らが目にしたのは、アールヴ族の豪奢なローヴで正礼装したリオネルと、
同じく正礼装し、綺麗にメイクしてリオネルにぴたっと寄り添う、
ヒルデガルドだったからである。
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