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第639話「これは……宰相閣下に報告する事項がとんでもなく多くなりそうだ」

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「はい、お答えしますね。俺が呼ぶのは冥界の魔獣ケルベロス、オルトロスの兄弟。そして巨大グリフォンの3体です」

「え!? えええええっ!!??」

またも「しれっ」と言うリオネルの言葉を聞き、マウリシオは驚愕している。

当然、ケルベロス、オルトロスが冥界に棲む強靭な伝説の魔獣である事は知っている。

「ケ、ケルベロス!? オルトロス!? 更に巨大グリフォン!? 凄い魔物ばかりではないですか!」

「ええ、頼もしい従士達です」

「おお、こともなげにおっしゃる! さ、更に! な、何と! リオネル殿は、一度に3体も召喚するのですか?」

そしてマウリシオは、魔獣兄弟だけではなく、巨大グリフォンという上位魔獣を、
常識外とも言える3体召喚という話に驚愕したのだ。

対して、ひょうひょうとした感じでリオネルは話を続ける。

「はい、魔獣兄弟は陸戦タイプで、火炎無効の特性を持っています。だから、地上でヒルデガルド様の守護と俺の援護を命じ、巨大グリフォンには、ワイバーンどもを任せようと思います」

「うむむむむ……」

「必要とあればそれ以上の従士を呼びます」

「え!? そ、それ以上呼ぶ!?」

「はい、一度に10体くらいまでは召喚可能だと思います。そして攻撃方法ですが、ヒルデガルド様の風属性の攻撃魔法でワイバーンを撹乱しけん制しつつ、ドラゴンとワイバーンを分断します。グリフォンにワイバーンを各個撃破させ、その間、自分はタイマンで1体となったドラゴンを撃破します」

「や、やけに簡単におっしゃるようですが、リオネル殿ご自身は、具体的にはどう戦うのですか?」

「はい、自分は剣と格闘、遠近の攻撃魔法を織り交ぜ戦います。必要であればスキルも使用します」

「お、おお! ……という事は、な、何でもありなのですか?」

「はい、相手次第ですが、正直、何でもありですね。ドラゴンに関して言えば基本的には、まずさっさと尾を切り落とし、無防備状態となった背後から攻撃します。騎士ならば卑怯と言われそうですが、自分は冒険者なので全く気にしません」

「う~む……」

「ギルドマスター、他に何か質問はありますか?」

「い、いや! 今のところはありません! というか、もう何も言えません!」

「……では、早速王家にご連絡をお願いします」

「わ、分かりました」

「それとヒルデガルド様と自分が宿泊する宿はどうしましょうか? ご紹介頂ければ、お世話になりたいと思います。念の為ですが、警備体制さえしっかりしていれば、格式にはこだわりません。なので、ワレバット同様、ギルドのホテルでもOKなんですが」

「も、もろもろ、分かりました。王家に早速連絡を取り、宿の件も既に準備しておりますから、早急に対応します」

いくらランクSとはいえ、リオネルは19歳の少年である。
マウリシオは、「所詮は若輩者だ」と思い、少し侮っていたかもしれない。

しかし、クレバーで冷静沈着なリオネルは、圧倒的な力と底知れない雰囲気を匂わせつつ、終始、話の主導権を握っていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「こちらで少々、お待ちいただけますか」

とマウリシオは言い、サブマスターのエベリナ、レミヒオへ指示を出す。

「エベリナ、レミヒオ、ヒルデガルド様とリオネル殿を手配済みのホテル・リーベルタースへご案内する。急いで馬車を本館玄関前につけるようにしてくれ。護衛の方も確認を頼むぞ」

「はい!」
「かしこまりました!」

すっくと立ち上がり、リオネルとヒルデガルドへ一礼し、
エベリナとレミヒオは、足早に特別応接室を出て行った。

……ホテル・リーベルタースか。
リオネルは心に刻み込んだ記憶をたぐる。

国賓たるヒルデガルドが居るので、
宿泊先は、アクィラ王国側で用意するのが通常である。

しかしいろいろなケースを想定し、
リオネルはリーベルタース内のめぼしいホテルにチェックを入れ、
所在地、勝手などを事前に調べていた。

マウリシオが手配したのは、冒険者ギルド内にあるホテルではなく、
リーベルタースにおいて「最高級だ」とうたわれる、
ホテル・リーベルタースであった。

部屋の格式にもよるが、最高級のホテルに泊まらせるという事は、
ヒルデガルドを軽んじてはいない証拠。
警備も手配してくれるだろうが、当然索敵はMAXレベルで張り巡らすし、
妖精ピクシーのジャンに周囲を確認して貰うつもりだ。

マウリシオは、出て行ったサブマスター達を目で見送ると、
ヒルデガルドとリオネルに向き直る。

「ヒルデガルド様には、ホテル・リーベルタースの最上級ルームであるロイヤルスイートルームを、リオネル殿にもスイートルームをお取りしました……」

「ありがとうございます」
「ご手配感謝します」

「それで……ずっとお尋ねしようと思っておりましたが、ヒルデガルド様のお世話をする使用人はどこにおりますか? 時間差でリーベルタースへ到着するのですかな?」

ヒルデガルドの世話をする使用人?
時間差で到着する?

そう聞かれ、ヒルデガルドは柔らかく微笑む。

「マウリシオ様、ワレバッドへ訪問した時もそうでしたが、護衛、使用人ともなしで、リオネル様とふたりだけですわ」

「は? おふたりだけ?」

「はい、事務官、武官の同行者はゼロ……皆無です」

「そ、それは……」

「何故ならば、リオネル様おひとりで全てが事足りますし、祖父や配下達は、他の仕事も山積みですから留守番です」

「留守番!? はあ……」

「ちなみにマウリシオ様、私の為にお取り頂いたロイヤルスイートルームは、そのフロア全てなのですか?」

「そ、そうです」

「で、あれば。階下だと離れてしまいますし、リオネル様の為にお取りになったスイートルームは不要です。ロイヤルスイートルームにリオネル様も一緒にお泊りになりますから」

「な、成程ですね」

ワレバッドでも、リオネルはヒルデガルドの部屋に宿泊したと報告が入っていた。

という事は、ヒルデガルドとリオネルは『そういう間柄』なのであろう。

リオネルにぴったり寄り添うヒルデガルドを見ていたら、そうかと思ったが、
やはり!と確信する。

ヒルデガルドのリオネルへの信頼はゆるぎないもので、
ふたりはとても深い関係であると。

万が一、ふたりの間に何もなければとんでもなくピュアな主従関係だとも。

ヒルデガルドの祖父イェレミアスのリオネルへの信頼も相当なものだろうと思う。

これは……宰相閣下に報告する事項がとんでもなく多くなりそうだ。

マウリシオは思わず「ふう」と息を吐いたのである。
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