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第618話「はい! リオネル様! 私、イエーラの為に頑張ります!」

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翌日、リクエスト通り、リオネルとヒルデガルドはワレバッドの街中へ出て、
朝から書店巡りを行った。

ワレバッドの街には、書店ばかりが軒を連ねる『書店通り』と呼ばれる通りがある。
リオネルも滞在時には、魔導書等を探して散々入り浸った場所だ。
魔導書収集が趣味の師モーリスと語り合ったのは良い思い出だ。

書店通りは、本が大好きなヒルデガルドにとっても、まさに『宝の山』。

そして昨日の商店主達とのやりとりが大いに役に立った。

ヒルデガルドは、商店主達へ話しかける事を全くためらわなかったのだ。

結果、リオネルのナイスフォローもあり、初対面の書店店主達とも、
すぐに打ち解けてしまったのである。

という事で、ヒルデガルドと書店店主達は大盛り上がり。
図書館で読み込んだ魔導書、歴史書は勿論のこと、
各書店の店主と話し込み、いろいろな本をお勧めされ、
ついつい、い~っぱい購入してしまう。

ヒルデガルドが購入した本は、文芸書、美術書、歴史書、風土記、旅行記、地図、
更に教育学、経営学、心理学などの専門書など。
勿論、冒険者関係の本もたくさん購入した。
恋愛小説、うんちく、自己啓発本などもあったが、それはご愛敬である。

大荷物となったので、もうお約束。
購入した本達は、リオネルの収納の腕輪へイン。

ヒルデガルドいはく、
イエーラへ持ち帰り、家具屋で購入した書架を使い本を収納、私室に置くと言う。

プライベートな私室ならば、思い切りリラックスして、
家具店で購入したふかふかのベッドで寝ころびながらの読書もありなどと、
ヒルデガルドは想像してしまう。

「うふふふ、ありがとうございます、リオネル様。これで帰国してからの楽しみがまた増えました。仕事の合間に読書三昧しまくりですわ」

嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、大喜びのヒルデガルドとともに、
リオネルは、冒険者ギルド総本部のホテルへ戻り、
同ホテルのレストランでランチを摂った。

ランチの後、午後のスケジュールも決まっていた。

事前に予約しておいたのだが、
リオネルも学んだ冒険者ギルド総本部の魔法基礎講義に、
ヒルデガルドはオブザーバーとして参加したのだ。

応用講座ではなく基礎講義にしたのは、既に魔法使いとして、
十分な素養があるヒルデガルドでも理解しやすいのと、
講義の仕様、意義自体を認識して欲しいという趣旨。

ゴーチェ以下、護衛付きの受講に、他の受講生は大いに驚いたものの、
ヒルデガルドは、リオネルとともに、攻防を始めとした、いくつかの講義を受講。
改めて『学ぶ楽しみ』を知ったのである。

講義終了後、一旦部屋へ戻り、身支度を整え直し、
再びホテルのレストランへ赴いて、夕食を摂るふたり。

ゴーチェ達護衛は既に帰っているので、ヒルデガルドはリラックスしている。

「リオネル様」

「はい」

「リオネル様とゴーチェ様達のお陰で、今日も凄~く楽しい一日でしたわ」

「それは良かったです」

「はいっ! 本当に良かったです! 生まれて初めて、大好きな本を思いっきり買ったり、改めて、基礎から魔法を習ったり……」

「ははは、楽しんで頂き何よりです」

「はい! 楽しかったです! ギルドで講義を受けている時は、子供の頃、おじいさまに初めて魔法を手ほどきして頂いた事を思い出しましたわ」

「成る程。で、あればイエーラの人達にも、ヒルデガルドさんが経験した楽しみを同じように経験して貰いましょう」

「はい! ぜひ! この楽しみをイエーラの民にも味わって欲しいですわ。図書館に書店、それと学校も必要ですわね。リオネル様、そちらにもお力を貸してくださいませ」

「はい、尽力させて頂きます。ただし、衣食住がまずは優先ですね」

「はい! 教育はとても大事なものですが、イエーラの富国をまず成し遂げ、国民の衣食住を充実させましょう。何をやるにしても、豊かな暮らしありきですものね」

「全くです」

ふたりは楽しく語らいながら、夕食を楽しんだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日もヒルデガルドは、リオネルへ頼み込み、
冒険者ギルド総本部の講座をオブザーバーとして受講した。

学ぶ楽しみを知ったヒルデガルドは、
湧き上がった向学心を抑えられなかったのである。

ブレーズ達護衛が見守る中、ヒルデガルドは魔法のみではなく、
『体術格闘』や『打撃武器』など各種武器扱いのスキルを得る為の講座、更に『シーフ』『迷宮探索術』『サバイバル術』も受講した。

だが、まる一日受講しても到底全ての講座は受講不可能である。
かといって応用講座も含め、全ての講座を受講出来るほど、
ワレバッドの街に滞在する事は不可能だ。

思い悩んだヒルデガルドへ、リオネルが『妙案』を出した。

元々リオネルは、ヒルデガルドの『師』として、様々な事を教えている。
リオネルが講義を行うという前提で、
全講座の教科書、教材を100セット、有償でまるごと譲って貰う事にしたのである。

ヒルデガルドは即OKしたので、ブレーズへ申し入れをし、許可を貰い、
早速リオネルは教科書、教材を100セットを購入し、
これまたお約束で収納の腕輪へ搬入した。

講師役の方も問題はナッシング。
リオネルも全講座を受講したわけではないが、
得られた魔法やスキルから、大体の講座の講師を務める事は出来るから。

イエーラへ戻ってからも、冒険者ギルドの講義が受講出来ると知り、
ヒルデガルドは大いに喜んだ。

また、これらの教科書、教材はイエーラに『学校』を作るにあたり、
とても役に立つという事で、リオネルとヒルデガルドの意見は一致したのである。

一日が終わり、夕食を摂ってから、ホテルの部屋で、
リオネルとヒルデガルドは改めて、優先順位の高い衣食住を中心に、
『これからやるべき事』を再確認し、精査した。

なんやかんや、あれこれと、ふたりは熱っぽく議論を交わした。

だがヒルデガルドはだんだん不安になる。

衣食住、農業、商業、図書館、学校などなど……
全てにわくわくするけれど、果たして上手く行くのだろうか?
失敗したらどうしよう?

など、期待は大きいが、同じくらい怖さがある……

リオネルはそんなヒルデガルドを力づけ励ます。

「ヒルデガルドさん、大丈夫! 俺がついています!」

「は、はい!」

「置かれた状況によっては、守りに徹するのが良い場合もあります」

「………………………………」

「ですが、これまでと同じことをやっていてもイエーラは変わりません」

「………………………………」

「イエーラを豊かにする為、大胆な変革を行うのであれば、今は試しながら、攻める時です」

「………………………………」

「そもそも全てがトライアルアンドエラーです。失敗してもすぐにリカバリー可能なように、手を打っておけば、ダメージは最小限で済みますし、速攻で取り戻せます」

「………………………………」

「いろいろな方策を実施しながら、模索しつつ、国民を幸せにする為、頑張ってやって行きましょう」

「はい! リオネル様! 私、イエーラの為に頑張ります!」

……祖父イェレミアスの後継者として指名され、
使命感のみで、淡々とソウェルを務めていた時とは全く違う。

ヒルデガルドは心身ともに気合がみなぎっていた。

想い人リオネルと出会い、心の扉を開かれたヒルデガルドは、
人間族社会という外の世界に触れ、見聞を広め、新たな知識を得て、
『自分の生きる価値』をしっかりと実感していたのである。
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