上 下
617 / 689

第617話「今日もいろいろと学んだ一日」

しおりを挟む
リオネルとヒルデガルドは数多の露店を回り、様々な料理を購入。
護衛が確保してくれていた席に座り、食事を楽しんだ。

お茶と焼き菓子を売る露店もあったから、ティータイムも万全である。

「リオネル様、お料理、どれもこれも本当に美味しかったですわ」

「ヒルデガルドさんに気に入って貰えて、良かったです」

「はい、お店の形態は全く違いますが、ホテルのレストランの食事と似ていますわ、露店って」

「ははは、そうかもしれませんね」

ヒルデガルドの言う事は分かる。
気に入った露店でテイクアウト購入し、オープンなフードコートで食べる作法が、
好きな料理を取り、席で食べるビュッフェ形式風の食事と重なると感じるのだろう。

「でも、リオネル様」

「はい」

「ここはホテルのレストランと違い、マナーがない場所なんでしょうか? 少々お行儀が悪いと思いますが」

ヒルデガルドの視線の先には、リオネル達も購入した串焼き肉を、
歩きながら食べているカップルが居たのだ。

いわゆる『歩き食い』である。

「いえ、問題ありません。ここでは、あの食べ方もありです」

「え? そ、そうなんですか?」

「はい、長年この露店で行われた結果、決まったルールなんです」

「長年この露店で行われた結果、決まったルール……なんですか?」

「はい、この市場の露店の料理は、俺達のようにフードコートで食べたり、その場で立ったまま食べたり、歩きながら食べたり、持ち帰って自宅で食べるのもありなんですよ。ただし周囲に迷惑をかける行為は厳禁ですが」

「な、成る程」

「ヒルデガルドさん、郷に入っては郷に従えという言葉があります」

「郷に入っては郷に従えですか?」

「はい、新しい土地や組織に来たら、その風俗や習慣に従うべきだということです。マナーという大きな主語の下に存在する最低限の基本ルールはありますが、後はその場所により、様々な価値観が付加され、オリジナルなルールが生まれるんです」

「オリジナルなルール……」

「ええ、大事なのは、その場で折り合いたいのなら、相手の価値観を尊重し、オリジナルルールを厳守する事です」

「成る程」

「ホテルのレストランにはホテルのレストランルールがあり、市場の露店にはまた違うルールがあるんです。それぞれの場のルールを守り、食事を楽しむのがマナーなんですよ」

「分かりました。マナーとは、そういうものなのですね」

「はい、これは食事だけでなく、全てに通じます。例えばイエーラにはイエーラのルールがあり、人間族にもまた然り。ただお互いを尊重し、ルールを守りながらより良くする改善は可能ですから、その努力はすべきだと俺は思います」

「べ、勉強になります! だからリオネル様はイエーラでは、私達アールヴ族と同じように振舞っていらっしゃるのですね」

「はい、俺は人間族ですが、イエーラに居る時は、イエーラのルールに従うのは当然の事ですよ」

ヒルデガルドの問いかけに対し、リオネルはきっぱりと言い切ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……翌日、リオネルとヒルデガルドは再びワレバッドの街中へ出た。

今日の護衛指揮官はブレーズ不在の為、ゴーチェである。

昨日は街中のお店探訪がメインであったが、
本日は趣向を変え、博物館、美術館を回った。

ワレバッドの博物館、美術館は、王都オルドルに比べれば、スケールは落ちるが、
人間族の社会勉強をするヒルデガルドにとっては充分な展示物を有していた。

考古学的に価値ある遺物、美しい美術品を見て、ヒルデガルドは大興奮。

改めて、さしたる理由もなく、
人間族をおとしめていた事を反省したのである。

「リオネル様……」

「はい、なんでしょうか? ヒルデガルドさん」

リオネルが言葉を戻すと、表情が暗く、がっくりした感のあるヒルデガルドは、
「ふう」とため息を吐き、言う。

「私、自分の無知を情けなく思います。本当に恥ずかしいですわ。人間族って、こんなに素晴らしいもの、そして美しい絵や彫刻を作るのですねえ」

対してリオネルは、

「はい、素人の俺でさえも素直に凄いし、美しいと思いますよ。でも人間族の国よりも、はるかに歴史の長いイエーラには、これら以上のものがあるのではありませんか?」

「……古代の遺物はありますけれど、官邸内にある宝物倉庫の奥深く厳重に仕舞われておりますから、このように整頓され、見やすいよう、展示されてなどおりません」

「へえ、そうなんですか?」

「そして、基本的にアールヴ族は絵を描いたり、彫刻をする習慣がありませんから、美術品のたぐいはありません」

「それ、意外ですね。……成る程。じゃあ、博物館、美術館も造る相談をイェレミアスさんとしましょうか? 優先順位は後になると思いますが」

「わあ! 博物館、美術館を造るのですか! それ、素敵ですねえ! またやる事が増えてしまいましたわ!」

たっぷり時間をかけて見たから時間は午後1時過ぎ。

リオネルとヒルデガルドは遅めのランチタイムへ。

行先はリオネルがワレバッドで暮らしていた際、
良く利用したカフェレストランである。

店内はリオネル好みで渋い内装を施されているが、フレンドリーな雰囲気だ。

ピークタイムを過ぎているので、先客はランチを終え、店内は空き始めていた。

「ここは、何度も来ていますが、美味しい料理を出しますよ」

「そうなんですか? リオネル様のごひいきのお店ですね」

「はい、メイン料理が肉か魚どちらかか選べる、リーズナブルなランチコースが名物なんです」

「成る程、肉か魚か、どちらにするか、迷いますわ」

「じゃあ、こうしましょう。格式張った店ではないので、それぞれ頼んでシェアしますか」

「え? 宜しいのですか?」

「全然OKです。取り皿を貰い、取り分けましょう」

「はい!」

という事で、リオネルとヒルデガルドは仲良く、
メイン料理の取り分けをしてランチを楽しみ、食後は冒険者ギルド総本部へ戻り、
敷地内の図書館へ。

こちらは、魔導書から娯楽書まで揃った、ソヴァール王国最大級の図書館である。

館内はしんと静まり返っていた。

「わあ、改めて見ても、凄い本の量ですね」

大きな声を出す事が禁止なのと、見学に次ぐ二度目の訪問なので、
ヒルデガルドの興奮は抑えられていた。

見学の際は、文字通り図書館の仕様を「見る」だけであったが、
今日は司書に頼み、思う存分好きな蔵書を読める事となっている。

ヒルデガルドは魔導書とソヴァール王国の歴史書を頼んだ。

ちなみに蔵書の記載は世界共用語。
読むのに支障はない。

しばし経って本が届き、ヒルデガルドは用意して貰った席で早速読み始める。

かたわらでリオネルも頼んだ本を読み始めた。

リオネルが傍に居てくれるから安心して本が読める。

そんなヒルデガルドは、元々読書好き。

最近は執務に追われていて、本をゆっくり読む暇などなかった。

……魔法が大好きなヒルデガルドは魔導書も大好き。
そして訪れているソヴァール王国の歴史も興味津々であった。

ソヴァール王国の歴史書には、冒険者の発祥と発展、
ギルド創立の詳しい記載もあり……
愛するリオネルが冒険者である事から、興味津々なヒルデガルドにとって、
結構な面白さであった。

冒険者について、更に興味がわいたヒルデガルドは、
冒険者ギルド関係の書物を追加で頼み、むさぼるように読んだ。

夢中になって読みふけっていると、あっという間に夕方となってしまう。

今日もいろいろと学んだ一日。
そろそろホテルへ戻るタイムリミットだ。

「ねえリオネル様、明日は書店へ行き、いろいろな本をたくさん買いましょう」

図書館を出る際、ヒルデガルドはそう、おねだりしていたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...