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第615話「それほどの方が、直接護衛をするって、一体あのふたりは何者なんだ?」

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翌日、朝食を摂った後、リオネルとヒルデガルドは、
ホテルを出て、遂にワレバッドの街中へ。

気合が入ったヒルデガルドは、購入したばかりの人間族の化粧品を使い、
派手過ぎないくっきりはっきりメイクでエキゾチックな美しさを放っている。

ちなみに本日の散策にエステルは同行せず。
ヒルデガルドの街案内役兼護衛役にはリオネルが居るし、
警備体制との兼ね合いもあるとブレーズが判断したからだ。

本来エステルは秘書見習いであり、他の秘書の補助をする業務へ戻るとの事。

多分、しばらく会う事はないだろう。

昨日3人は、別れ際に、こんなやりとりをした。

「エステル様、いろいろお世話になりました。深く深く感謝致します。また何か、機会がありましたら、宜しくお願い致します。次は仕事上ではなく、良きお友達として、ぜひお会いしたいですわ」

「エステルさん、いろいろ丁寧にフォローして頂き、本当に助かりました。ありがとうございました。いずれまた会いましょう」

ヒルデガルドとリオネルからあいさつとお礼を言われ、エステルも、

「はい! ヒルデガルド様、リオネル様、こちらこそ、本当にありがとうございました。未熟者でご迷惑をおかけしましたが、良い経験をさせて頂き、一生の思い出となりました。少しでもお役に立てたなら幸いです。ぜひともまたお会い致しましょう! お元気でお過ごしください!」

と、名残りを惜しんだのである。

ブレーズの秘書クローディーヌもそうだが、
ヒルデガルドにとってエステルは、初めて出来た人間族同性の友人だ。
こんなに早く人間族社会に馴染めたのは、リオネルとともにエステルの力が大きい。
仕事だけではなく、ふたりでいろいろ語り合い、良い思い出も出来た。
またどこかで……互いに幸せな状況で会いたいと、ヒルデガルドは願ったのである。

さてさて。
故国イエーラで、同胞のアールヴ族に囲まれながら、
ず~っと暮らして来たヒルデガルドにとって、
生まれて初めての人間族の街散策である。

しかし、冒険者ギルド総本部内にあるホテルに宿泊、
リオネルのアドバイスにより、
ギルド総本部の見学とショッピングモールでの買い物をたっぷり経験。
リオネル以外の人間族ともたっぷりやりとりをしたせいか、
ヒルデガルドが緊張する事は全くなかった。

ブレーズ、ゴーチェと念入りに打合せした警備体制は万全であったし、
何よりも愛するリオネルがすぐ傍に居てくれる。
手も、しっかり握っていてくれるからメンタル的にも不安は皆無、
パーフェクトに安心なのだ。

リオネルはといえば、いつものように索敵範囲を最大限MAXに発揮。
見よう見まねで習得した『大鷲の目』を存分に活かした視認とともに周囲を警戒。

更には従士たる妖精ピクシーのジャンも、別動の遊撃隊として放っていた。

常人には姿が見えないジャンは、「おいらに任せといて!」とばかりに、
リオネル達の上空10m~20mに位置し、飛翔。
気になる事があったら念話ですかさず連絡。
四方を見回す偵察役として、機能する事となっている。

街中への『移動』に関しては、当初、馬車を使い、
リオネルとヒルデガルドが適当な場所まで行くという話もあった。

だが、そうなると同行する護衛10名も同じく馬車で移動する事となり、
かえって目立つので却下となった。

というわけで、リオネルとヒルデガルドは冒険者ギルド総本部の正門を出て、
徒歩で街中へ移動。

先行、後詰めの、ブレーズ達護衛陣も合わせて出発する事に。

10m四方に10名の護衛陣とジャン。
彼ら彼女達に囲まれるように守られ、リオネルとヒルデガルドは歩いて行く。

……冒険者ギルド総本部から、ワレバッド市街の中心まではほんのわずかだ。

久しぶりに見るワレバッドの街並みがリオネルの目へ飛び込んで来る。

……リオネルは以前、師モーリスに、
ワレバッドの街中を案内して貰った事を思い出し、ひどく懐かしくなった。

一方のヒルデガルド。
リオネルに寄り添い、しっかりと手をつなぎ、歩きながら、
ワレバッドの街を興味津々にきょろきょろ眺める。

箱庭という感のあった冒険者ギルド総本部に比べ、
ワレバッドの街中はまさに混沌カオス

初めて見る様式の建物、看板を出す店が、
湧き上がるヒルデガルドの好奇心をどんどん高めて行く。

改めて見ると、街中には様々な店があった。

ホテル内のショッピングモールとは違い、
専門店が多い事もヒルデガルドを驚かせる。
肉屋、魚屋、八百屋、パン屋など、食料品店が圧倒的に多いが、
他にも金銀細工屋、仕立て屋、靴屋、染物屋、家具屋、食器屋、
鍛冶屋、石材屋などなど。

その中で特に興味を持ったらしいヒルデガルドが、看板と装飾が派手な店を指さす。

ネオン魔導灯は消えていて、営業外の時間らしい。

「リオネル様! あれは何をしているお店でしょうか? 私が全く見た事のないお店ですわ!」

「はい、現在の時間だと、開店前だと思いますが、あれはカジノです」

「カ、カジノ?」

「はい、カジノです。人間が行う様々なゲームにその都度お金を賭け、所持金を増やせるかどうかを試すお店ですよ」

「リオネル様がそう、おっしゃっても、お店のイメージがわきませんわ」

「はい、俺もいろいろな人から話に聞いただけです。スリルがあって楽しいと聞きますが、興味がないから、やった事はありません 」

「そ、そうなんですか?」

「はい、ゲームで賭けたお金が全く戻って来ないリスクもありますし、私見ですが、稼いだお金はもっと他の事に使いたいですね」

「成る程。じゃあリオネル様、あのお店は?」

次にヒルデガルドが指さしたのは、カジノ同様看板と装飾が派手な店であった。
美しい女性の肖像画が何枚も飾られている。
やはりネオン魔導灯は消えていて、営業外の時間のようだ。

そういえば、以前にジャンと同じような話をしたなと思い、リオネルは言う。

「はい、あのお店は酒場の一種ですね。飲食代以外にプラスアルファのお金を払い、お店の女性と同席し、お酒を楽しむ店みたいです。こちらも俺は行った事がないので詳しい事は分かりません」

「へ~、飲食代以外のお金を余分に払って女性と? 人間族の社会にはそんな店があるのですねえ!」

イエーラには、リオネルが言ったような店はないらしい。
ヒルデガルドは、大いに驚いていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朝早い時間はそうでもなかったが、時間が経つにつれ、人通りは多くなった。

そんな中、リオネルとヒルデガルドは散策を楽しむ。

革鎧に身を包んでいるとはいえ、ヒルデガルドの美貌はやはり目を惹く。

そんなヒルデガルドが身体を預けるように身を寄せ、
リオネルとしっかりと手をつないでいるのだ。

リア充大爆発しろ!!と、怨嗟えんさの声が、
リオネルに対して起こるのは当然である。

また、たちの悪い男どもは、リオネルとヒルデガルドに近づいてちょっかいを出し、
軽いノリで難癖をつけ、ねちねち絡んで来ようともした。

「おらおら、えれえ良い女連れてるじゃね~か!」

「てめえはまだガキの癖に、生意気なんだよ!」

「ごら! 怪我したくなきゃ、さっさと女、置いていけや!」

「アールヴ族のねえちゃんもよ! そんなガキほっといて、俺と遊びに行こうぜ!」

「べっぴんのねえちゃん、俺が美味しいもん御馳走するぜ、好きなものも買ってやるからよ、来いや、ほれ!」

ワレバッドへ入る直前『ナンパ』は一回経験しているが、
ヒルデガルドは、愛するリオネルにぴたっと密着。
それがまた、ナンパ男子達を刺激し、嫉妬をさく裂させた。

「ガキが!! 朝からイチャイチャしやがって、コノヤロー!!」

しかし!
ドラゴンや巨人族などもあっさり退ける百戦錬磨のリオネルは、
下世話なナンパ男子の群れなど歯牙にもかけない。

索敵で察知していたのに加え、ジャンの念話連絡もあり、速攻で対応。

待機したブレーズ達、護衛陣が動く前に、

ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん! ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!

と眼光鋭くナンパ男子どもへ『威圧』の連射。

「ひええっ!!」
「ぎゃう!!」
「うわわっ!!」
「お、お助けっ!!」
「ひいいいいっ!!」

但し、この威圧もリオネルは手加減した。

ナンパのように殺意を持って襲いかかるとまではいかない相手には、
過剰防衛と言われぬよう、怪我の無い追い払いがメイン。
それ以上の嫌がらせをする相手でも、脱力させ、
せいぜい腰が抜けた程度に無力化するくらい。

と、ここで初めて護衛役が動いた。

打合せした通り、ブレーズがすっと挙手し、ぱぱぱぱと更に速攻で衛兵を呼び、
「確保!! 逮捕!!」と叫んだ。

護衛役と衛兵は、リオネルの威圧で無力化され、
すとんと座り込んだ不心得者のナンパ男子どもを何人も確保、
逮捕、連行されたのである。

ブレーズやゴーチェから事前に連絡をしておいたお陰で、
ハヤテのごとく現れた衛兵の手際は実に鮮やかであった。

あっという間に悪質なナンパ男子達は全員が衛兵に引っ立てられて行ったのだ。

まあ罪状は暴言とからかい、ナンパ未遂なので、
しょせん『罰金』と『厳重注意レベル』なのだが。
短期間とはいえ、牢獄入りでくさいメシを食べる事に。

少し厳しい感もあるが、ここまでやるという事で、
普段ワレバッドに横行する悪質なナンパへの牽制と治安維持にもなるという、
ブレーズのしたたかな思惑と計算もあった。

そんな『逮捕劇』が始まるとブレーズを見た周囲のやじ馬が騒然となる。

「おいおい! あの指揮官の人って、有名な剣聖じゃないか!?」

「ああ、そうだよ! 冒険者ギルド総本部のサブマスター、ブレーズ・シャリエ様だ!」

「それほどの方が、直接護衛をするって、一体あのふたりは何者なんだ?」

「超が付くVIPなのは間違いないぞ!」

そんな声を受けながら、リオネルとヒルデガルドは、
街中の散策を続けて行ったのである。
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