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第608話「その失恋が、初恋の彼女に後々認められたいと、頑張ったモチベーションにつながったと思います」
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家具店での買い物は予定よりも時間がかかってしまった。
何と! 化粧品店、衣料品店よりも滞在時間が長かったのだ。
リオネルのアドバイスにより、家具を選んだヒルデガルドは、
店員達とエステルのフォローを受け、モデルルームを見つつ、
生来の想像力と完璧主義もあり、ああしよう、こうしよう、
あれが合う、これは合わないと思いっきり、はまってしまったのである。
また宿泊しているホテルのスイートルームで、
既に人間族の家具使用経験があったのも大きかった。
デザインだけではなく、使い勝手の良さも実感していたから。
結局ヒルデガルドは、机、椅子、長椅子、応接テーブル、
化粧台、書架、書棚、ベッドを。
そしてモデルルームのコーディネート家具も若干のアレンジの上、
ふた通り購入した。
またリオネルの提案により、祖父イェレミアスへの『おみやげ』として、
『トリプルサイズのベッド』を購入したのである。
当然、購入した家具はお約束でリオネルの収納の腕輪へ搬入。
何せ、収納の腕輪は大きな街が入るほどの容量。
既に結構な数の雑多な物が仕舞われているが、まだまだ余裕だ。
……という事で時刻はもう午後5時過ぎ。
引き上げのタイムリミットを過ぎてしまった。
残念ながら、衣食住の『食』、食料品店への訪問は明日以降持ち越しに。
しかしオーク宝箱の売却見学、生まれて初めての私的な買い物と、
充実した1日を過ごせて、ヒルデガルドは、大満足。
満面の笑みを浮かべ、リオネルへ話しかける。
「リオネル様」
「はい、何でしょう、ヒルデガルドさん」
「エステルさんのご都合が宜しければ、お礼も兼ね、3人で一緒にと、今夜の夕食にお誘いしたいのですが、構いませんか」
「ええっと、俺は全然構いません。ですが、エステルさんのプライベートもありますから、仕事の一環とはいえ、昨日の夜、今日の夜もと、そこまで拘束するのは、申し訳ないのでは」
「な、成る程、そうですよね……」
ここで、ふたりの話を聞いていたエステルが声を張り上げる。
「い~え~! ヒルデガルド様あ! 私、帰って寝るだけですし~、彼氏もおりませんから~!」
「え? そうなのですか?」
「はい~! とりあえず一人前の秘書になるまで、仕事にまい進!って決めてま~す。国賓をおもてなしする機会なんて滅多にありませんし~、おふたりがお邪魔じゃなければ、ぜひお供させてくださ~い!」
というわけで、3人は一旦スイートルームへ戻り、ひと休みして、
ホテルのレストランへ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨夜と全く同じセッティング。
料理のメニューのみ変わるという小宴。
食べ飲み喋り、お茶とデザートの時間になると、
ヒルデガルドとエステルの女子会タイム。
話題は本日の『買い物』がメイン。
美容、ファッション、ファニチャー等々、
同性と気安く喋る機会が少ないヒルデガルドは、
エステルとの会話が本当に楽しそうである。
一方、リオネルはといえば、聞き役に徹していた。
意見を求められれば、客観的かつ真面目に答え、
同意を求められた場合、納得したら頷き、違うと思えば、
個人的な意見と述べた上で、首を横へ振っていたのだ。
と、ここでヒルデガルドが尋ねる。
「あの……エステルさん」
「はい、何でしょう、ヒルデガルド様」
「レストランへ来る前に、エステルさんは彼氏が居ないからとおっしゃいましたが、そもそも彼氏とは何でしょう?」
彼氏とは何って!?
え~!? 恋バナがそこからあ!?
というようなヒルデガルドの質問。
エステルはリオネルへ、許可を得るように視線を向け、
リオネルが教えてあげてくださいという感じで小さく頷く。
なのでエステルは微笑み、
「はい、ヒルデガルド様。彼氏とは3人称で、あいつ、あの人という意味なのですが、ここで言う彼氏とは、恋人である男性を意味する言葉ですね。女性が彼女という立ち位置で、付き合う男性を称して彼氏と申せば宜しいでしょうか」
「恋人である男性を意味する言葉……女性が彼女という立ち位置で、付き合う男性が彼氏なのですか……つまり彼氏とは、想い人の事ですね」
「はい、ズバリ想い人です! という事で先ほども申し上げましたが、私は現在デートをする相手もおりませんし、仕事が第一優先です。結婚を含め、将来の人生設計を確固たるものにする為、出来るだけ早く一人前の秘書になりたいですし、国賓をおもてなしする機会を逃したくもありません」
「エステルさんは結婚を含め、将来の人生設計を確固たるものにする為、仕事が第一優先なのですか?」
「はいっ! 現状では!」
にこにこ笑い、きっぱりと言い切るエステル。
飲んだワインのせいか、頬を赤くしたヒルデガルドは、次にリオネルへ問いかける。
声が少々高くなっていた。
「リ、リオネル様!!」
「はい、何でしょう、ヒルデガルドさん」
「リオネル様はどなたかの彼氏――想い人となった事はありますか?」
ズバリ、ストレートな質問である。
対して、リオネルは数秒考えた後、
「残念ながら、俺は今まで女子と交際した経験はありません。ただ好意を寄せられた事はあります」
ヒルデガルドとリオネルの会話を聞きながら、エステルは思う。
「俺は今まで女子と交際した経験はありません」というコメントから、
一見、仲睦まじいリオネルとヒルデガルドの間柄も、
仕事のみのビジネスパートナーで、相思相愛な恋人関係ではないのか?と、
疑問を持った。
まあ、この場でエステルから、ふたりへ聞くわけにはいかないが。
そして、「ただ好意を寄せられた事はあります」というコメント。
リオネルが好意を寄せられた相手とは、
エステルが世話をしたあの双子の冒険者のうち、姉のミリアンであろうと。
傍から見ていたら、ミリアンがリオネルにぞっこんなのは、
誰が見ても分かったから。
つらつらと考えるエステルをよそに、
ヒルデガルドとリオネルの会話は続く。
「リオネル様は、好意を寄せられた事は……あるのですか?」
「はい、でも俺が彼女の気持ちに応える事が出来なくて、交際には至りませんでした」
「そう……だったんですか」
「はい、ですが彼女が嫌いというわけではなく、大好きでした。彼女を本当の妹のように感じていましたから」
「本当の妹……ですか」
「ええ、恋愛感情はなかったのですが、近しい存在で守ってあげたいと思う女の子でした」
「恋愛感情はないけれど、近しい存在で守ってあげたいと思う女の子ですか……」
「はい、ちなみに俺から女子を本気で好きになった事もあります。それが初恋ですが瞬殺で振られました」
「えええ!!?? リオネル様を瞬殺で振る!? そ、そんな!!」
ヒルデガルドにとって、リオネルは白馬の王子様である理想の男子。
そんなリオネルの想いを簡単に袖にする女子が居るなんて!!
全く信じられなかった。
エステルも興味深そうにじっと聞いていた。
場の微妙な雰囲気に苦笑するリオネルは、
「まだ冒険者として駆け出しの、全然未熟な頃です。俺は一人前の男子と見られず、頼りない弟だと見られ、相手に優しくされました」
冒険者になり最初の担当者となったナタリーとの初恋、
叶わなかった切なくほろ苦い思い出を語った。
「一人前の男子ではなく、頼りない弟に……見られた」
「はい、それで相手から優しくされ、思い切り勘違いしてしまいました。俺が未熟だったので仕方がないと思います。ですが、その失恋が、初恋の彼女に後々認められたいと、頑張ったモチベーションにつながったと思います」
リオネルは、少し遠い目をして、淡々と語ったのである。
何と! 化粧品店、衣料品店よりも滞在時間が長かったのだ。
リオネルのアドバイスにより、家具を選んだヒルデガルドは、
店員達とエステルのフォローを受け、モデルルームを見つつ、
生来の想像力と完璧主義もあり、ああしよう、こうしよう、
あれが合う、これは合わないと思いっきり、はまってしまったのである。
また宿泊しているホテルのスイートルームで、
既に人間族の家具使用経験があったのも大きかった。
デザインだけではなく、使い勝手の良さも実感していたから。
結局ヒルデガルドは、机、椅子、長椅子、応接テーブル、
化粧台、書架、書棚、ベッドを。
そしてモデルルームのコーディネート家具も若干のアレンジの上、
ふた通り購入した。
またリオネルの提案により、祖父イェレミアスへの『おみやげ』として、
『トリプルサイズのベッド』を購入したのである。
当然、購入した家具はお約束でリオネルの収納の腕輪へ搬入。
何せ、収納の腕輪は大きな街が入るほどの容量。
既に結構な数の雑多な物が仕舞われているが、まだまだ余裕だ。
……という事で時刻はもう午後5時過ぎ。
引き上げのタイムリミットを過ぎてしまった。
残念ながら、衣食住の『食』、食料品店への訪問は明日以降持ち越しに。
しかしオーク宝箱の売却見学、生まれて初めての私的な買い物と、
充実した1日を過ごせて、ヒルデガルドは、大満足。
満面の笑みを浮かべ、リオネルへ話しかける。
「リオネル様」
「はい、何でしょう、ヒルデガルドさん」
「エステルさんのご都合が宜しければ、お礼も兼ね、3人で一緒にと、今夜の夕食にお誘いしたいのですが、構いませんか」
「ええっと、俺は全然構いません。ですが、エステルさんのプライベートもありますから、仕事の一環とはいえ、昨日の夜、今日の夜もと、そこまで拘束するのは、申し訳ないのでは」
「な、成る程、そうですよね……」
ここで、ふたりの話を聞いていたエステルが声を張り上げる。
「い~え~! ヒルデガルド様あ! 私、帰って寝るだけですし~、彼氏もおりませんから~!」
「え? そうなのですか?」
「はい~! とりあえず一人前の秘書になるまで、仕事にまい進!って決めてま~す。国賓をおもてなしする機会なんて滅多にありませんし~、おふたりがお邪魔じゃなければ、ぜひお供させてくださ~い!」
というわけで、3人は一旦スイートルームへ戻り、ひと休みして、
ホテルのレストランへ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨夜と全く同じセッティング。
料理のメニューのみ変わるという小宴。
食べ飲み喋り、お茶とデザートの時間になると、
ヒルデガルドとエステルの女子会タイム。
話題は本日の『買い物』がメイン。
美容、ファッション、ファニチャー等々、
同性と気安く喋る機会が少ないヒルデガルドは、
エステルとの会話が本当に楽しそうである。
一方、リオネルはといえば、聞き役に徹していた。
意見を求められれば、客観的かつ真面目に答え、
同意を求められた場合、納得したら頷き、違うと思えば、
個人的な意見と述べた上で、首を横へ振っていたのだ。
と、ここでヒルデガルドが尋ねる。
「あの……エステルさん」
「はい、何でしょう、ヒルデガルド様」
「レストランへ来る前に、エステルさんは彼氏が居ないからとおっしゃいましたが、そもそも彼氏とは何でしょう?」
彼氏とは何って!?
え~!? 恋バナがそこからあ!?
というようなヒルデガルドの質問。
エステルはリオネルへ、許可を得るように視線を向け、
リオネルが教えてあげてくださいという感じで小さく頷く。
なのでエステルは微笑み、
「はい、ヒルデガルド様。彼氏とは3人称で、あいつ、あの人という意味なのですが、ここで言う彼氏とは、恋人である男性を意味する言葉ですね。女性が彼女という立ち位置で、付き合う男性を称して彼氏と申せば宜しいでしょうか」
「恋人である男性を意味する言葉……女性が彼女という立ち位置で、付き合う男性が彼氏なのですか……つまり彼氏とは、想い人の事ですね」
「はい、ズバリ想い人です! という事で先ほども申し上げましたが、私は現在デートをする相手もおりませんし、仕事が第一優先です。結婚を含め、将来の人生設計を確固たるものにする為、出来るだけ早く一人前の秘書になりたいですし、国賓をおもてなしする機会を逃したくもありません」
「エステルさんは結婚を含め、将来の人生設計を確固たるものにする為、仕事が第一優先なのですか?」
「はいっ! 現状では!」
にこにこ笑い、きっぱりと言い切るエステル。
飲んだワインのせいか、頬を赤くしたヒルデガルドは、次にリオネルへ問いかける。
声が少々高くなっていた。
「リ、リオネル様!!」
「はい、何でしょう、ヒルデガルドさん」
「リオネル様はどなたかの彼氏――想い人となった事はありますか?」
ズバリ、ストレートな質問である。
対して、リオネルは数秒考えた後、
「残念ながら、俺は今まで女子と交際した経験はありません。ただ好意を寄せられた事はあります」
ヒルデガルドとリオネルの会話を聞きながら、エステルは思う。
「俺は今まで女子と交際した経験はありません」というコメントから、
一見、仲睦まじいリオネルとヒルデガルドの間柄も、
仕事のみのビジネスパートナーで、相思相愛な恋人関係ではないのか?と、
疑問を持った。
まあ、この場でエステルから、ふたりへ聞くわけにはいかないが。
そして、「ただ好意を寄せられた事はあります」というコメント。
リオネルが好意を寄せられた相手とは、
エステルが世話をしたあの双子の冒険者のうち、姉のミリアンであろうと。
傍から見ていたら、ミリアンがリオネルにぞっこんなのは、
誰が見ても分かったから。
つらつらと考えるエステルをよそに、
ヒルデガルドとリオネルの会話は続く。
「リオネル様は、好意を寄せられた事は……あるのですか?」
「はい、でも俺が彼女の気持ちに応える事が出来なくて、交際には至りませんでした」
「そう……だったんですか」
「はい、ですが彼女が嫌いというわけではなく、大好きでした。彼女を本当の妹のように感じていましたから」
「本当の妹……ですか」
「ええ、恋愛感情はなかったのですが、近しい存在で守ってあげたいと思う女の子でした」
「恋愛感情はないけれど、近しい存在で守ってあげたいと思う女の子ですか……」
「はい、ちなみに俺から女子を本気で好きになった事もあります。それが初恋ですが瞬殺で振られました」
「えええ!!?? リオネル様を瞬殺で振る!? そ、そんな!!」
ヒルデガルドにとって、リオネルは白馬の王子様である理想の男子。
そんなリオネルの想いを簡単に袖にする女子が居るなんて!!
全く信じられなかった。
エステルも興味深そうにじっと聞いていた。
場の微妙な雰囲気に苦笑するリオネルは、
「まだ冒険者として駆け出しの、全然未熟な頃です。俺は一人前の男子と見られず、頼りない弟だと見られ、相手に優しくされました」
冒険者になり最初の担当者となったナタリーとの初恋、
叶わなかった切なくほろ苦い思い出を語った。
「一人前の男子ではなく、頼りない弟に……見られた」
「はい、それで相手から優しくされ、思い切り勘違いしてしまいました。俺が未熟だったので仕方がないと思います。ですが、その失恋が、初恋の彼女に後々認められたいと、頑張ったモチベーションにつながったと思います」
リオネルは、少し遠い目をして、淡々と語ったのである。
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