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第605話「ヒルデガルドさんのリフレッシュ休暇という意味合いも大きいのですよ」

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結局、リオネルはヒルデガルドの了承を得て、
査定価格を出して貰った冒険者ギルド総本部購買部買い取り部門に、
オーク宝箱4つの中身を宝箱ごと売却した。

売却金額の総額は金貨800枚800万円とプラスアルファにもなった。
イエーラの商人達から提示された買い取り金額の約3倍強である。

いろいろな要因があるとはいえ、この金額差。
高く売れるに越したことはない。

笑顔のリオネルは袋に入った売却金を収納の腕輪へ『搬入』し、ヒルデガルドへ言う。

「ヒルデガルドさん、この売却金は、当初の話通り、今回の旅では使わず、オークの被害を受けた地域の復興予算に入れておきます。復興予算全体から見ればわずかな金額ですが、何かの足しにはなるでしょう」

このような事を曖昧にせず、きっちりするリオネル。
超が付く真面目さだ。

そういうリオネルの律儀さも、ヒルデガルドには好ましい。

「はい、分かりました、リオネル様。どう使うのかは、おじいさまとも相談し、改めてじっくりと考えましょう」

「ですね!」

と同意し、ここでリオネルは、部屋の魔導掛時計を見た。
時刻は午前11時過ぎである。

「……というわけで、オーク宝箱は無事売却が完了しましたので、少し早いですが、ランチにしましょうか」

「はい! 大賛成! 3人で行きましょう!」

リオネルとヒルデガルド、そしてエステルはホテルのレストランへ。
レストランのランチも着席のビュッフェ形式風である。

……まだお昼前だけあって、レストランは空いていた。

支配人から指示を徹底されているレストランサイドは、
一行を即座にVIPルームに案内。
専任スタッフを4名つけてもくれた。

もろもろ準備が整い、早速料理が並べてある大テーブルへ向かう3人。

「ええっと、どんな料理があるのかしら。朝と同じメニューでしょうか?」

そんなヒルデガルドの小さな懸念はすぐに払しょくされた。

ランチは、朝食とは全くメニューが変わっていて、
リオネルの手ほどきでビュッフェ形式風に慣れたヒルデガルドは、
またも楽しく美味しくランチを摂る事が出来たのだ。

そして食後の香り良きお茶を飲みながら、
デザートのケーキを食べるのも楽しいひと時。

ちなみに、イエーラのケーキはシンプルなパウンドケーキ仕様のものが殆ど。

対して、チョコレートケーキ、ショートケーキ、ガトーショコラ、タルト、
ミル・クレープ、ベイクドチーズケーキ、レアチーズケーキ、モンブラン、
シュークリーム、エクレア、ザッハトルテ、ティラミス、シフォンケーキなどなど。
ソヴァール王国のケーキは多種多様、いろいろな種類があった。

甘いものが大好きなヒルデガルドにとってはまさに最高と言える天国である。
食べ過ぎに注意!!といったところ。

「あの、リオネル様は、料理だけでなく、このようなケーキも作りますか?」

「ええ、こういうケーキもクッキーなどの焼き菓子も、フルーツを使ったデザートもいろいろと作りますよ」

「わあ! 凄い! また楽しみがひとつ増えました! イエーラへ戻ったら、いろいろ教えてくださいね!」

「了解です。では、もうひと休みしたら、買い物へ行きましょうか。エステルさん、ショッピングモールにおけるヒルデガルドさんのケアを何卒宜しくお願い致します」

リオネルとヒルデガルドのやりとりを笑顔で見守っていたエステルは、

「かしこまりましたあ! お任せくださあい!」

そう言い、びしっ!と敬礼。

こうして、ランチ&お茶とデザートタイムを終え……
午後1時過ぎに、リオネル達は別棟のショッピングモールへと出かけたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

冒険者ギルド総本部別棟のショッピングモールは、相当の規模を誇る。
4フロアを使った広大な面積に衣食住その他ありとあらゆる業種の店舗がのきを連ねていた。

このショッピングモールは、必要なものが、まとめて、かつ充分な数の警備員が配置されているから安全に買い物が可能。

値段も高価格からリーズナブルなものまで、様々。

それゆえ冒険者だけではなく、一般の利用者も多かった。
そして、午後1時過ぎともなると、もう行きかう人も多く、結構な人出である。

人間の街に慣れる訓練が必要なヒルデガルドにとって、最適な場所でもあった。

ちなみに一昨日、昨日の案内で、ヒルデガルドは訪れておらず、
ショッピングモールへは、初めて来訪していた。

「うわ! 凄い! お店がいっぱい! 人がいっぱいですわ!」

ショッピングモールの様子を見て、
感想を述べたヒルデガルドは、リオネルへ尋ねる。

「リオネル様」

「はい」

「今回の旅は私の見聞を広める意味合いもあるとはいえ、公的な視察旅行です。イエーラの為ではなく、本当に私の個人的な買い物をしても構わないのでしょうか?」

「ええ、構いません。イエーラの為の買い物は、別途行います。ヒルデガルドさんには、まず楽しい買い物の経験をして貰いますから」

「イエーラの為の買い物は、別途? まずは? 私が楽しい買い物の経験を……するのですか?」

「はい、まずは、いろいろな店でヒルデガルドさんに買い物を充分に楽しんで貰い、その後で効果効能や意義を説明します。その方が納得して貰えると思いますから」

「な、成る程」

「はい、それにヒルデガルドさんは、イェレミアスさんの跡を継ぎ、ソウェルとしてこれまでイエーラの為に働き詰めだったから、少しくらいは息抜きが必要です。今回の旅は見聞を広めたり、公社設立の準備等、いろいろ目的がありますが、ヒルデガルドさんのリフレッシュ休暇という意味合いも大きいのですよ」

「えええ!? 今回の旅は!? わ、私のリフレッシュ休暇!?」

「はい、説明はこれくらいにして、早速買い物をしましょうか」

リオネルはそう言うと、エステルへ向き直り、

「エステルさん、アテンドの方、打合せ通りに宜しくお願いしますね」

と意味ありげに言えば、エステルはにっこり。

「お任せください! 重々承知しております! さあ! 時間も限られていますし、とっとと最初の店へ行きましょう!」

声を張り上げ、大きく手を打ち振る、少しオーバーめのアクションで、
リオネルとヒルデガルドをいざなったのである。
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