上 下
591 / 689

第591話「でも! 楽しみ! 明日が本当に待ち遠しい!!」

しおりを挟む
原野の開拓、農地化が終わった。
ゴーレム達の活躍が大きく、あっという間の作業終了であった。

リオネルとヒルデガルド一行とともに、村へ戻った村長達は、やる気満々である。

……当然かもしれない。

村長達は、事前に簡単な説明を、官邸の事務官から受けていた。

国が開拓する村近郊の良質で広大な農地を、
これまた、国の大きな援助付きで耕作出来るかもしれないと。

そして、論より証拠。
リオネルによる大規模な農地開拓作業を実際に目の当たりにし、
気持ちは大いに高ぶった。

これは!
本当に良い話に違いない!と。

渡りに船、大歓迎、アゲアゲ気分の村長達へ、ヒルデガルドと事務官達が、

「改めて詳しく説明します。今回の農地開拓は、まず国内用の食糧増産を、そして国外との交易用ハーブの名産品化が主要目的です」

そう告げて、改めて契約書を提示し、村長以下へ丁寧に説明。

……最初の3年間こそ、収穫高の50%という高額の税金を納めなければならないが、
反面、大きな負担となる必要経費がほとんどかからない。

農作業着、農機具は要返却の無料貸与で、
種、苗、肥料などは無料提供。土地代も徴収しない。

4年目以降は、税金も大幅に軽減されて行く。

「至れり尽くせり」の手厚い支援を受けられると村長達は実感する。

頑張って目標を達成すれば、最短11年目にその土地を村で所有出来るというのも、
大きなモチベーションアップにつながった。

何より、身体ひとつで働けるというのは、
村にとっては、とんでもなく魅力的なのだ。

説明後、不明点等に関して、質疑応答も行われた。

遠慮なく、思った事、考えた事を言って欲しい。

柔らかい笑顔のヒルデガルドが、優しく促せば、

「食糧増産ならば、主食であるパンの原料となる小麦、ライ麦などをメインに耕作した方が良いでしょうか?」

「国策作物のハーブを多く育てれば、現在より、現金収入は増えるでしょうか?」

「作物を加工した食品を売りたいと考えていますが、何か、良い方法はありますか?」

「春まきと秋まきで、年に2回収穫可能な『かぶ』を育てれば、人の食料、家畜の飼料、両方に使えると思いますが、いかがでしょう?」

質疑応答では、村長達から前向きな意見も多く出され、
活発なやりとりが交わされた。

おもに話すのはヒルデガルドと事務官達であったが、
リオネルもこれまでの経験を活かし、適宜、アドバイスを行った。

そんなこんなで、打合せの結果、村長と助役は、さすがに即答はせず、
一旦預かり、後日返答する事に。

「申し訳ございませんが、少しお時間を頂けますでしょうか? 契約書をお預かりして熟読し、村民達と相談し、前向きに検討し、回答させて頂きます」

と答えたものの、YESの返事が来るのはほぼ間違いなかったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

気を良くした一行は明日以降の『仕込み』をする事にした。

昨日はリオネルだけで前準備を行ったのだが、今後の事も考え、
ヒルデガルド以下が、経験値を積むという趣旨である。

具体的な段取りとして、イェレミアスがピックアップした、
いくつかの『開拓候補地』へ、まず転移魔法でケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟を送り込み、偵察及び状況確認を徹底。
魔物、肉食獣などの敵が居たら、追い払い、かつ掃討して貰った。

しっかりと安全が確保されたら、満を持して全員で転移。

改めて状況の確認を行い、地属性魔法を行使。
頑丈な岩石製防護壁を生成し、開拓候補地をぐるりと囲んでしまう。

魔境付近へ設置した防護壁に比べ、遥かにスケールダウンするとはいえ……
地響きを立て出現する『開拓候補地の防護壁』を目の当たりにし、
ヒルデガルドは気圧されたようになってしまう。

既に岩石製防護壁生成を見ていたヒルデガルドさえそうなのだから、
生成目撃が『未経験』であった武官、事務官達はびっくり仰天。

ごごごごごごごご!
と重低音でせり出してくる岩石を見て、呆然としてしまっていた。

そんな事前セッティングを計4か所行ってから、官邸へ戻った。

……時間は午後4時。

ヒルデガルドは、本日追加で事前セッティングした、
開拓候補地の契約書作成を事務官へ命じ、リオネルとともに訓練場へ移動。

訓練中の留守番部隊?の武官へ合流。
ともに、格闘術の指導を受けた。

リオネルが指導するのは勿論、師モーリス・バザン直伝の、
破邪聖煌拳はじゃせいこうけんである。

準備運動、ストレッチから始め、初歩の体さばきをたっぷり行う。

体さばきが終われば、
中段突き、連突き、追い突き、逆突き、前蹴り、回し蹴り、
下段払い、上げ受け、手刀受けなどの基本練習をこれまたたっぷり行う。

基本練習が終わると、組手の練習へ。
組み手が様になって来たら、明日以降はいよいよ模擬戦を行う事となる。

武官達は真剣だが、剣技、格闘術、魔法、スキルを織り交ぜ戦う、
リオネルの戦闘スタイルを見知ったヒルデガルドは、特に熱心だ。

この訓練後も、リオネルとヒルデガルドの予定はびっしり。

夕食を摂ったら、イェレミアスを入れて3人で、
本日の報告共有と、明日以降の業務について打合せをしなければならない。

配下達から見れば、ヒルデガルドは、とんでもなく多忙である。

実際のところ、現在イェレミアスが引き継いでいる、
以前担っていた、ソウェルの仕事量よりも、遥かに多い。

しかし、リオネルと組む仕事は面白くてたまらない、
充実感に満ちあふれたヒルデガルドに、不安は全くない。

加えて、たまにしか尋ねては来ないが、
リオネルはヒルデガルドの健康状態を常に案じており、
こまめな確認と、こまめな回復魔法の行使を欠かさないのだ。

そんなリオネルの、さりげない優しさを感じ、
ヒルデガルドは、満面の笑みを浮かべる。

うふふ……今日も忙しく、とんでもなく早い1日だった。

多分明日もいろいろあって、今日と同じくらいの多忙さだろう。

でも! 楽しみ!
明日が本当に待ち遠しい!!

心地よい汗をかきながら、ヒルデガルドは、リオネルとペアになり、
熱心に組み手を行っていたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...