587 / 680
第587話「スケールアップしたイエーラは、この世界での存在感が、著しく増す事となる。 そして……狭量で未熟者だったソウェルの自分も変わる」
しおりを挟む
リオネルは雷撃剣を持ち、数回素振りをし、ゆっくりと右足を踏み出した。
そこから、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。
気配を消して歩行するシーフ職スキル『忍び足』を、
リオネル流にアレンジし、鍛錬を重ねた足さばきである。
対して従士長は、ひどく緊張しながら剣を構えていた。
『忍び足』で接近するリオネルをじっと見つめている。
まず足さばきの手本は見せた。
次は体さばき。
最初はヒルデガルドと武官たちへゆっくりと見せる為、
リオネルはまるで脱力したかのごとく、
ゆらゆらと身体を揺らしながら、更に従士長へ接近。
絶対に届かないような位置から、従士長の脇腹へ軽く一撃を入れた。
びし!
ばりっ!
革鎧を打つ音。
雷撃の音。
「ぎゃう!」
短く悲鳴をあげ、崩れ落ち、膝をつく従士長。
おお~!と武官たちから、大きなどよめきが漏れた。
ヒルデガルドも固唾を飲んで見守っている。
リオネルは、雷撃の為、くたっとした従士長へ近づき、
すかさず最上位ランクの回復魔法『全快』を行使。
あっという間に回復した従士長は「参った!」という感じで、
苦笑しながら立ち上がった。
従士長が立ち上がったのを確認してから、
リオネルは、ヒルデガルドと武官たちへ声を張り上げる。
「皆さん! 今の俺の一連の動き、そして攻撃で分かりましたか? 自分の『間』をしっかりと認識しながら、隙をつき相手へ攻撃し、確実に倒す事を心がけてくださいね」
リオネルはそう言うと、
「今度は俺の攻撃を避けても構いません」と、
従士長へ頼み同じ動きを3回繰り返した。
従士長も受けて立つが、リオネルの攻撃は当てる事無く、ぎりぎりの寸止めとした。
またリオネルの剣撃は鋭いだけでなく、きわどい視点の死角をつく。
それゆえ従士長は3回とも避けきれず、雷撃剣をすんでのところで止めて貰う。
「ふう~」と息を吐く従士長は、
雷撃を喰らう事がなかったと、安堵しているようだ。
そんな従士長を見て、リオネルは微笑む。
「さて、次は防御の手本を見せます。攻撃同様、従士長さんの攻撃、対する俺の体さばき、足さばきに充分注意してください。ちなみにこちらは格闘技の際にも応用出来ます」
「…………………………………………」
リオネルの指導に対し、ヒルデガルド、武官たちは、無言で聞いていた。
「では、従士長さん、お願いします。俺は反撃しません。だから遠慮なく、本気で打ち込んでください」
「わ、分かりましたあ!」
今度はリオネルが構え、待ち、従士長が打ち込む形だ。
「いつでもどうぞ」
「い、行きますっ! でああああっっ!!」
従士長はここで手を抜いたら、絶対に敵わないと考えたのだろう。
だだだだだだだだだだ!と駆け、突っ込んで来る。
そして剣を振りかざし、結構な速度の剣撃を繰り出して来た。
しかし、リオネルはスウェー、ダッキング、ウェービング、
サイドステップ、バックステップを華麗に駆使。
従士長の剣撃を、全て軽々と躱してしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルの『素晴らしい手本』を見たヒルデガルドと武官たちは、
気合が入ったのか、一斉に訓練を始めた。
武官同士ペアとなり、攻防の体さばき、足さばきを繰り返し行う。
当然というか、お約束というか、リオネルはヒルデガルドとペアを組み、
彼女へじっくりと、剣技の基礎を教えた。
その間、随時、従士長以下武官たちにも、指導を行う。
リオネルの指導は相変わらず、簡潔明瞭。
腰が低く、丁寧で、不明点があればすぐ答えてくれるので大好評。
論より証拠。
そばに置かれた倒したオークキングどもの死骸が、
訓練に励むヒルデガルドと武官たちのモチベーションを著しく上げ……
比例して、リオネルへの信頼度もますます上がった。
……そんなこんなで午後4時。
タイムリミットとなり、ヒルデガルドと武官たち全員に惜しまれながら、
訓練は終了。
予定では、格闘術の指導も行うはずであった。
だが、ヒルデガルドと武官たちからの質問と
それに伴うリオネルの回答、手本披露と実践がとんでもなく増え、
結局、剣技の指導のみとなってしまった。
しかし、「予定は未定」と意に介さず、リオネルは笑顔であった。
さてさて!
訓練が終わったら、明日の打合せを行わねばならない。
リオネルが地属性魔法で生成した、
岩石製防護壁沿いにある町村の首長以下、住民たちへ、
長年その地域を苦しめたオーク討伐完遂の報告と、
いきなり出現した巨大な岩石製防護壁の事情説明を行うからだ。
リオネルとヒルデガルドの訪問は勿論だが、
武官と事務官も若干名同行する事となっている。
ちなみに明日訪問する事は緊急の魔法鳩便にて、各所へ伝えられている。
官邸へ移動し、あれこれセッティングする時間も惜しいので、
効率を考え、同行する武官に、事務官も呼び、そのまま訓練場で打合せをする事に。
……打合せは、さくさくと進んだ。
事務官たちは、魔法鳩便を各所へ送り済みとの事。
そこから段取りも確認しながら、スケジュールと内容を決めて行く。
……結果、集合は午前9時前に、官邸玄関前と決定した。
そして赴く者が全員集合後、リオネルの転移魔法で現地へ直接移動。
各所を回り、首長、住民と話し、救援物資等々を配給。
午後4時には官邸へ帰還する予定だ。
更に、明後日の朝には、都フェフの中央広場へ、
オークキングどもの死骸をさらす事も決定した。
都からオーク討伐を発信する事で、イエーラの治安向上をアピールするのだ。
また、原野、荒野を開拓し、農地にし、食糧増産を図る件。
イエーラにおける商会を設立、他国と交易を開始し、生活物資を購入する件。
……等々が、リオネルから提案&ざっくり説明された。
各事業に関して、リオネルが先駆けて仕事にあたり、
軌道に乗りそうな時点で、引継ぎをする方針だとも伝えられる。
リオネルの話を聞きながら、ヒルデガルドは感じている。
否! 確信していた。
これから……イエーラは、大きく変わる。
間違いなく国は富み、強くなる。
スケールアップしたイエーラは、この世界での存在感が、著しく増す事となる。
そして……狭量で未熟者だったソウェルの自分も変わる。
目を覚まさせてくれたのは、祖父が連れて来てくれたリオネルのお陰……
大きく頷いたヒルデガルドは、身振り手振りを交えて話すリオネルを、
熱く熱く見つめたのである。
そこから、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。
気配を消して歩行するシーフ職スキル『忍び足』を、
リオネル流にアレンジし、鍛錬を重ねた足さばきである。
対して従士長は、ひどく緊張しながら剣を構えていた。
『忍び足』で接近するリオネルをじっと見つめている。
まず足さばきの手本は見せた。
次は体さばき。
最初はヒルデガルドと武官たちへゆっくりと見せる為、
リオネルはまるで脱力したかのごとく、
ゆらゆらと身体を揺らしながら、更に従士長へ接近。
絶対に届かないような位置から、従士長の脇腹へ軽く一撃を入れた。
びし!
ばりっ!
革鎧を打つ音。
雷撃の音。
「ぎゃう!」
短く悲鳴をあげ、崩れ落ち、膝をつく従士長。
おお~!と武官たちから、大きなどよめきが漏れた。
ヒルデガルドも固唾を飲んで見守っている。
リオネルは、雷撃の為、くたっとした従士長へ近づき、
すかさず最上位ランクの回復魔法『全快』を行使。
あっという間に回復した従士長は「参った!」という感じで、
苦笑しながら立ち上がった。
従士長が立ち上がったのを確認してから、
リオネルは、ヒルデガルドと武官たちへ声を張り上げる。
「皆さん! 今の俺の一連の動き、そして攻撃で分かりましたか? 自分の『間』をしっかりと認識しながら、隙をつき相手へ攻撃し、確実に倒す事を心がけてくださいね」
リオネルはそう言うと、
「今度は俺の攻撃を避けても構いません」と、
従士長へ頼み同じ動きを3回繰り返した。
従士長も受けて立つが、リオネルの攻撃は当てる事無く、ぎりぎりの寸止めとした。
またリオネルの剣撃は鋭いだけでなく、きわどい視点の死角をつく。
それゆえ従士長は3回とも避けきれず、雷撃剣をすんでのところで止めて貰う。
「ふう~」と息を吐く従士長は、
雷撃を喰らう事がなかったと、安堵しているようだ。
そんな従士長を見て、リオネルは微笑む。
「さて、次は防御の手本を見せます。攻撃同様、従士長さんの攻撃、対する俺の体さばき、足さばきに充分注意してください。ちなみにこちらは格闘技の際にも応用出来ます」
「…………………………………………」
リオネルの指導に対し、ヒルデガルド、武官たちは、無言で聞いていた。
「では、従士長さん、お願いします。俺は反撃しません。だから遠慮なく、本気で打ち込んでください」
「わ、分かりましたあ!」
今度はリオネルが構え、待ち、従士長が打ち込む形だ。
「いつでもどうぞ」
「い、行きますっ! でああああっっ!!」
従士長はここで手を抜いたら、絶対に敵わないと考えたのだろう。
だだだだだだだだだだ!と駆け、突っ込んで来る。
そして剣を振りかざし、結構な速度の剣撃を繰り出して来た。
しかし、リオネルはスウェー、ダッキング、ウェービング、
サイドステップ、バックステップを華麗に駆使。
従士長の剣撃を、全て軽々と躱してしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルの『素晴らしい手本』を見たヒルデガルドと武官たちは、
気合が入ったのか、一斉に訓練を始めた。
武官同士ペアとなり、攻防の体さばき、足さばきを繰り返し行う。
当然というか、お約束というか、リオネルはヒルデガルドとペアを組み、
彼女へじっくりと、剣技の基礎を教えた。
その間、随時、従士長以下武官たちにも、指導を行う。
リオネルの指導は相変わらず、簡潔明瞭。
腰が低く、丁寧で、不明点があればすぐ答えてくれるので大好評。
論より証拠。
そばに置かれた倒したオークキングどもの死骸が、
訓練に励むヒルデガルドと武官たちのモチベーションを著しく上げ……
比例して、リオネルへの信頼度もますます上がった。
……そんなこんなで午後4時。
タイムリミットとなり、ヒルデガルドと武官たち全員に惜しまれながら、
訓練は終了。
予定では、格闘術の指導も行うはずであった。
だが、ヒルデガルドと武官たちからの質問と
それに伴うリオネルの回答、手本披露と実践がとんでもなく増え、
結局、剣技の指導のみとなってしまった。
しかし、「予定は未定」と意に介さず、リオネルは笑顔であった。
さてさて!
訓練が終わったら、明日の打合せを行わねばならない。
リオネルが地属性魔法で生成した、
岩石製防護壁沿いにある町村の首長以下、住民たちへ、
長年その地域を苦しめたオーク討伐完遂の報告と、
いきなり出現した巨大な岩石製防護壁の事情説明を行うからだ。
リオネルとヒルデガルドの訪問は勿論だが、
武官と事務官も若干名同行する事となっている。
ちなみに明日訪問する事は緊急の魔法鳩便にて、各所へ伝えられている。
官邸へ移動し、あれこれセッティングする時間も惜しいので、
効率を考え、同行する武官に、事務官も呼び、そのまま訓練場で打合せをする事に。
……打合せは、さくさくと進んだ。
事務官たちは、魔法鳩便を各所へ送り済みとの事。
そこから段取りも確認しながら、スケジュールと内容を決めて行く。
……結果、集合は午前9時前に、官邸玄関前と決定した。
そして赴く者が全員集合後、リオネルの転移魔法で現地へ直接移動。
各所を回り、首長、住民と話し、救援物資等々を配給。
午後4時には官邸へ帰還する予定だ。
更に、明後日の朝には、都フェフの中央広場へ、
オークキングどもの死骸をさらす事も決定した。
都からオーク討伐を発信する事で、イエーラの治安向上をアピールするのだ。
また、原野、荒野を開拓し、農地にし、食糧増産を図る件。
イエーラにおける商会を設立、他国と交易を開始し、生活物資を購入する件。
……等々が、リオネルから提案&ざっくり説明された。
各事業に関して、リオネルが先駆けて仕事にあたり、
軌道に乗りそうな時点で、引継ぎをする方針だとも伝えられる。
リオネルの話を聞きながら、ヒルデガルドは感じている。
否! 確信していた。
これから……イエーラは、大きく変わる。
間違いなく国は富み、強くなる。
スケールアップしたイエーラは、この世界での存在感が、著しく増す事となる。
そして……狭量で未熟者だったソウェルの自分も変わる。
目を覚まさせてくれたのは、祖父が連れて来てくれたリオネルのお陰……
大きく頷いたヒルデガルドは、身振り手振りを交えて話すリオネルを、
熱く熱く見つめたのである。
0
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
地下アイドルの変わった罰ゲーム
氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。
周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。
それでは!
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
【R-18】何度だって君の所に行くよ【BL完結済】
今野ひなた
BL
美大四年生の黒川肇は親友の緑谷時乃が相手の淫夢に悩まされていた。ある日、時乃と居酒屋で飲んでいると彼から「過去に戻れる」と言う時計を譲られるが、彼はその直後、時乃は自殺してしまう。遺書には「ずっと好きだった」と時乃の本心が書かれていた。ショックで精神を病んでしまった肇は「時乃が自殺する直前に戻りたい」と半信半疑で時計に願う。そうして気が付けば、大学一年の時まで時間が戻っていた。時乃には自殺してほしくない、でも自分は相応しくない。肇は他に良い人がいると紹介し、交際寸前まで持ち込ませるが、ひょんなことから時乃と関係を持ってしまい…!?
公募落ち供養なので完結保障(全十五話)です。しょっぱなからエロ(エロシーンは★マークがついています)
小説家になろうさんでも公開中。
人生の『皮』る服(少女たちの皮を操って身体も心も支配する話)
ドライパイン
大衆娯楽
んごんご様主催「DARK SKINSUIT合同」にて寄稿させて頂きました作品です。
挿絵もございますため、よろしければPixiv版でもご一読いただけますと幸いです。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
幼なじみに毎晩寝込みを襲われています
西 美月
BL
恭介の特技は『一度寝ると全然起きない』こと、
『どこでも眠れる』こと。
幼なじみとルームシェアを始めて1ヶ月。
ある日目覚めるとお尻の穴が痛くて──!?
♡♡小柄美系攻×平凡受♡♡
▷三人称表記です
▷過激表現ご注意下さい
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる