上 下
570 / 696

第570話「勿論、イエーラ領内にオークどもの気配は皆無だ」

しおりを挟む
呆然とするヒルデガルドへ、ジャンは「にかっ」と笑い、
おどけたように派手なポーズで、Vサインを送った。

リオネルが改めて紹介する。

「ヒルデガルドさん、ジャンはね、旅の途中、ひょんなことから出会った妖精です。ピクシーなので戦う事には不向きですが、素早くて小回りがきくので、偵察、斥候などの情報収集に長けていますし、明るくてムードメーカーって感じですね」

リオネルは同じ言葉を同時に念話でジャンへ送ると、

『リオネル様!』

『ん?』

『大体合ってるけどさ。おいらは、リオネル様が寂しい時の話し相手って役割も担ってたよ』

などと、自己アピールをして来た。

対してリオネルは苦笑。

「ああ、確かにな」

「うふふふ♡」

そんなやり取りを見て聞いて、ヒルデガルドは思わず笑ってしまう。

こんなに強く底知れないリオネルにも寂しい時があるのかと。

和らいだ空気の中、ジャンが言う。

『さあ! リオネル様! 役者が揃ったところで作戦再開だよ!』

「ああ、了解だ」

リオネルはそう言うと、目を閉じ精神を集中する。

索敵の力を増したのだ。

……アスプたちは、早くもオークどもの群れと接触したようである。

リオネルが能力を伸ばしているのは、転移魔法の最長移動距離のみではない。

ありとあらゆる能力が、まだまだず~っとず~っと伸び続けている。

アスプと遭遇したオークどもは驚いていた。

初めて遭遇する未知の蛇!?という驚きの感情が、
リオネルの心へ、波動として伝わって来る。

対して、アスプたちは口を開け牙を見せ、しゃ~という異音をたて、
オークどもを容赦なく威嚇。

加えて、睡眠誘因で次々とオークどもを眠らせて行く……

バタバタバタと、続けさまに仲間が前後不覚、戦闘不能になるのを見て、
オークどもは恐怖を覚えたようである。

抵抗もせず、泣き叫ぶような悲鳴をあげ、ひたすら逃げ始めたようだ。

リオネルが想定していた以上の効果である。

よし!
そろそろ、俺とケルベロスは出撃だ!

……ジズの上空からの威嚇も上手く行っている。

うん!
ジズは現状ままで!

代わりにフロストドレイクを呼ぶ!

リオネルは、すかさずフロストドレイクを呼んだ。

ぐおおおおお……

異界から、ミニマム化した1mほどの竜――フロストドレイクが現れた。

リオネルは指示を入れる。

『良くぞ来た! フロストドレイク! 今の5倍くらいの大きさになり、上空にて、にらみをきかせてくれ!』

ぐおおおおおんん!!

リオネルの指示を聞き、フロストドレイクは一気に5倍の大きさとなり、
悠々と上空を舞った。

「ヒルデガルドさん」

「は、はい!」

「ジズは予定変更で、そのままオークの追い込みを続行させます。代わりにフロストドレイクを護衛に残します。オルトロス、ゴーレム、ジャンも残して行きますから、一緒に待機していてください」

「は、はい……」

ヒルデガルドは、残されるのが嫌で、一緒に行きたそうな雰囲気だったが、
先に釘を刺されているので、不承不承、従った。

「さあ! ケル! 行くぞ! 出撃だ!」

うおん!

リオネルは、ケルベロスへ呼びかけると、一緒にダッシュ!

猛スピードで、駆け出していたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

広大な草原が広がり、大中小、様々な大きさの岩が、
あちこちに点在している原野を、あっという間に抜け……
森林地帯へ入り、猛スピードで駆けるリオネル、そしてケルベロス。
時速80㎞近い速度である。

ちなみにリオネルの出せる最高走行速度は、現時点で時速150㎞超。
遥かに人間の域を超えていた。

さてさて!

リオネルは、気合が入る。
やってやるぞと大いに張り切る。
フォルミーカ以来、久々の戦いであるからだ。

と、言っても、アスプたちの勢子能力も想定以上。

リオネルたちは、ただただ追い立てるだけ。

我が物顔でイエーラに跋扈していたオークどもは、初めて見るアスプに怯え、
必死に、転がるように走り、逃げていたのだ。

こうなると、追走、追撃は楽である。

フォルミーカの地下庭園を含め、あらゆる地形で戦闘を経験しているリオネルは、
ここイエーラの寒冷地森林も移動は楽勝。

うっそうと立ち並ぶ針葉樹の間を巧みにすり抜け、凄まじいスピードで駆けている。

倒木、岩など、様々な障害物も、軽々とジャンプし、クリアして行く。

リオネルとケルベロスは、ところどころに残されている、
眠り込み、行動不能となったオークどもにとどめを刺し、
死骸を即、葬送魔法と蒼い炎で塵にした。

塵にするのは不死アンデッド化防止の為だが、
ケルベロス、オルトロスの吐く蒼い炎は、
冥界の特殊な魔炎なので、死骸のみに効果を表し、火災になる事はない。

再度、死骸有無の確認をする必要はあるが、作業が軽減されるのは間違いなかった。

ただし討伐の証拠として、オークの死骸を数体、収納の腕輪へ放り込んではおく。

そんなこんなで、リオネルとケルベロスはアスプたちに追いつき、合流。

合流後、わずかな時間で魔境との境に到達した。

既にオークどもは、イエーラ領内から追い払われ、魔境内へ逃げ込んでいる。

オークどもからこの地域の解放完了!

ここまでは予定以上に順調だ。

リオネルは新たな指示を出す。

『よし! 奴らを魔境内へ追撃し、本拠地『巣』を発見し、特定しろ! 特定したら、その場で待機の上、念話で俺へ連絡! ケルベロスをリーダーとし、ジズ、アスプたちは、指示に従う事! くれぐれも油断するな! ……行け!』

リオネルの指示に対し、従士たちは一糸乱れぬ、動きを見せた。

上空を舞っていたジズは、即座に魔境へ飛び、
ケルベロスはアスプ30体を率い、速攻で魔鏡へ突っ込んで行った。

残されたリオネルは、改めて、索敵を張り巡らす。

最大有効範囲をと念じたので、ヒルデガルドたちが無事に待機しているのも、
はっきりと分かった。

勿論、イエーラ領内にオークどもの気配は皆無だ。

さあて!

ジャンが上手く話しているみたいだが、
ヒルデガルドさんが心配しているようだし、戻るとするか!

リオネルは、転移トランジション!と念じ、
待機するヒルデガルドたちの下へ、帰還したのである。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...