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第547話「ええっと……考えておきます」
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ワレバッドの総ギルドマスター、ソヴァール王国貴族でもある、
ローランド・コルドウェル伯爵からもご指示を頂いている。
「私の推すリオネル・ロートレック君をよろしく頼む」と。
加えて、今回のフォルミーカ迷宮における勇者レベルの討伐実績。
それゆえ、全てを鑑みると、ランクSへのアップは、ほぼ当確。
冒険者ギルド、フォルミーカ支部のギルドマスター、
アウグスト・ブラードから、そう告げられたリオネル。
こうなると、計算高いアウグストが、そのままリオネルを放っておくわけがない。
早速その場で、リオネルの『取り込み』『囲い込み』へ入ったのだ。
「ところで、リオネル君」
「はい、何でしょう?」
「君はこれから、どうするつもりかね? ランクAもそうなのだが、レジェンドたるランクSになれば、冒険者ギルドの幹部、管理職、指導者としての立ち位置となる」
「と、言いますと?」
「うむ、私が今回の件を報告すれば、ワレバッドの総マスターからは、ランクSの承認だけではなく、総本部の幹部、管理職着任の要請があるだろう」
かつてリオネルへは貴族家養子にという話もあった。
ローランドや、その部下ゴーチェからである。
どうやら……アウグストは、その事実を知らないようだ。
「はあ、そうですか」
「ああ、100%間違いない。しかし、選択肢は他にもある」
「はあ、選択肢は他にもあるのですか?」
「ああ、ランクSのリオネル君は本部以外にも引く手あまたとなるだろう」
「成る程」
「うむ、例えばだ。当然、我がフォルミーカ支部も、リオネル君を歓迎する」
「そうですか、ありがとうございます」
「ああ、憶えているだろう? 元々、私は君を見込んでいた。ほら、迷宮へ入る前も誘ったじゃないか」
「はあ、確かにそうでしたね」
「ははははは、あの時は残念ながら、君に断られてしまったがね」
「はい、どうしても迷宮で修行したかったものですから」
「そうだろうね」
とアウグストは言い、
「改めて私からオファーを出そう。リオネル君にサブマスターの席を用意する。総マスターとの調整は必要だが、数年後にはフォルミーカ支部のギルドマスターに就任して貰おう」
「そうですか」
「勿論、ギャランティも弾ませて貰う。金貨1,300万枚も稼ぐリオネル君に管理職の俸給などスルーされてしまいそうだが、ウチの支部は本部の倍以上の金額を用意させて貰うよ……どうだろうか?」
ありがたい話である。
しかし、リオネルはまだまだ修行を続けたい。
そもそも、先にイェレミアスからのオファーを受けており、
アールヴ族の国イエーラへ赴かねばならない。
アウグストだけではなく、ローランドからのオファーも、
断らなければならないだろう。
微笑むリオネルは、言葉を選びつつ、やんわりと、
アウグストのオファーを断ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、アウグストからいろいろ指示を受け、
リオネルは冒険者ギルドフォルミーカ支部を辞去した。
まず、ローランドから返事が来るまで、フォルミーカへとどまって欲しいと言われた。
これは了解した。
ランクSの特典等も聞いたし、今後旅をするにあたって、
各所で有利に働くと考えたからである。
イェレミアスと孫娘ヒルデガルドの日程調整も、多少時間がかかるのではと、
踏んでのことだ。
またフォルミーカ滞在中、アウグストの兄、フォルミーカの町長、
グレーゲル・ブラードにも会って欲しいとも言われた。
アウグストはいずれ、フォルミーカの町議会議員になろうと画策していると、
噂では聞いている。
今回のオファーも、それを考えるとパズルのピースがぴったりとはまって来る。
更に更にアウグストはとんでもない提案をして来た。
フォルミーカ支部の厳選した25歳以下の独身女性リストを出すので、
秘書候補を選んでくれと言うのだ。
リオネルの希望があれば、選定オーディションを行っても構わないとさえ言う。
念の為聞くと、専任業務担当者のエミリア・オースルンドとは別に、
公私のスケジュール管理を担当する専任秘書を置くとの事。
「無論、このエミリアをリオネル君の秘書にしても構いません。その場合、専任業務担当者を新たにつけますよ」
ここでエミリアも言う。
「はいっ! リオネル様がご希望ならば、私エミリアが秘書を務めさせて頂きます! ぜひぜひ! ご指名を何卒宜しくお願い致しまあす!!」
目をキラキラさせ、リオネルをじ~っと見つめるエミリアからは、
純粋な好意に加え、リアルな打算も伝わって来た。
尊敬、憧れ、淡い恋心、頼もしいという感情、
そしてリオネルとくっつけば、人生は一生安泰みたいな計算……
人間の素直な感情ではあるが、リオネルは認め、即答する事は出来なかった。
「ええっと……考えておきます」
リオネルがこの場で返事をしなかったのは、秘書の話の裏も見えたからである。
やはりアウグストの思惑である。
地位と金に加え、秘書という搦め手で、
リオネルをフォルミーカ支部へ囲い込むつもりなのであろう。
「そういえば、リオネル君の宿泊先は? 良ければフォルミーカ一番の超高級ホテルのスイートルームを用意します。宿泊費は当然、ギルド持ちですよ」
「いや、申し訳ありませんが、泊まる宿は既に決めていますので」
こうして、リオネルは当面の連絡先として山猫亭を告げ……
アウグストのいろいろな条件提示を辞退し、フォルミーカ支部を後にしたのである。
ローランド・コルドウェル伯爵からもご指示を頂いている。
「私の推すリオネル・ロートレック君をよろしく頼む」と。
加えて、今回のフォルミーカ迷宮における勇者レベルの討伐実績。
それゆえ、全てを鑑みると、ランクSへのアップは、ほぼ当確。
冒険者ギルド、フォルミーカ支部のギルドマスター、
アウグスト・ブラードから、そう告げられたリオネル。
こうなると、計算高いアウグストが、そのままリオネルを放っておくわけがない。
早速その場で、リオネルの『取り込み』『囲い込み』へ入ったのだ。
「ところで、リオネル君」
「はい、何でしょう?」
「君はこれから、どうするつもりかね? ランクAもそうなのだが、レジェンドたるランクSになれば、冒険者ギルドの幹部、管理職、指導者としての立ち位置となる」
「と、言いますと?」
「うむ、私が今回の件を報告すれば、ワレバッドの総マスターからは、ランクSの承認だけではなく、総本部の幹部、管理職着任の要請があるだろう」
かつてリオネルへは貴族家養子にという話もあった。
ローランドや、その部下ゴーチェからである。
どうやら……アウグストは、その事実を知らないようだ。
「はあ、そうですか」
「ああ、100%間違いない。しかし、選択肢は他にもある」
「はあ、選択肢は他にもあるのですか?」
「ああ、ランクSのリオネル君は本部以外にも引く手あまたとなるだろう」
「成る程」
「うむ、例えばだ。当然、我がフォルミーカ支部も、リオネル君を歓迎する」
「そうですか、ありがとうございます」
「ああ、憶えているだろう? 元々、私は君を見込んでいた。ほら、迷宮へ入る前も誘ったじゃないか」
「はあ、確かにそうでしたね」
「ははははは、あの時は残念ながら、君に断られてしまったがね」
「はい、どうしても迷宮で修行したかったものですから」
「そうだろうね」
とアウグストは言い、
「改めて私からオファーを出そう。リオネル君にサブマスターの席を用意する。総マスターとの調整は必要だが、数年後にはフォルミーカ支部のギルドマスターに就任して貰おう」
「そうですか」
「勿論、ギャランティも弾ませて貰う。金貨1,300万枚も稼ぐリオネル君に管理職の俸給などスルーされてしまいそうだが、ウチの支部は本部の倍以上の金額を用意させて貰うよ……どうだろうか?」
ありがたい話である。
しかし、リオネルはまだまだ修行を続けたい。
そもそも、先にイェレミアスからのオファーを受けており、
アールヴ族の国イエーラへ赴かねばならない。
アウグストだけではなく、ローランドからのオファーも、
断らなければならないだろう。
微笑むリオネルは、言葉を選びつつ、やんわりと、
アウグストのオファーを断ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、アウグストからいろいろ指示を受け、
リオネルは冒険者ギルドフォルミーカ支部を辞去した。
まず、ローランドから返事が来るまで、フォルミーカへとどまって欲しいと言われた。
これは了解した。
ランクSの特典等も聞いたし、今後旅をするにあたって、
各所で有利に働くと考えたからである。
イェレミアスと孫娘ヒルデガルドの日程調整も、多少時間がかかるのではと、
踏んでのことだ。
またフォルミーカ滞在中、アウグストの兄、フォルミーカの町長、
グレーゲル・ブラードにも会って欲しいとも言われた。
アウグストはいずれ、フォルミーカの町議会議員になろうと画策していると、
噂では聞いている。
今回のオファーも、それを考えるとパズルのピースがぴったりとはまって来る。
更に更にアウグストはとんでもない提案をして来た。
フォルミーカ支部の厳選した25歳以下の独身女性リストを出すので、
秘書候補を選んでくれと言うのだ。
リオネルの希望があれば、選定オーディションを行っても構わないとさえ言う。
念の為聞くと、専任業務担当者のエミリア・オースルンドとは別に、
公私のスケジュール管理を担当する専任秘書を置くとの事。
「無論、このエミリアをリオネル君の秘書にしても構いません。その場合、専任業務担当者を新たにつけますよ」
ここでエミリアも言う。
「はいっ! リオネル様がご希望ならば、私エミリアが秘書を務めさせて頂きます! ぜひぜひ! ご指名を何卒宜しくお願い致しまあす!!」
目をキラキラさせ、リオネルをじ~っと見つめるエミリアからは、
純粋な好意に加え、リアルな打算も伝わって来た。
尊敬、憧れ、淡い恋心、頼もしいという感情、
そしてリオネルとくっつけば、人生は一生安泰みたいな計算……
人間の素直な感情ではあるが、リオネルは認め、即答する事は出来なかった。
「ええっと……考えておきます」
リオネルがこの場で返事をしなかったのは、秘書の話の裏も見えたからである。
やはりアウグストの思惑である。
地位と金に加え、秘書という搦め手で、
リオネルをフォルミーカ支部へ囲い込むつもりなのであろう。
「そういえば、リオネル君の宿泊先は? 良ければフォルミーカ一番の超高級ホテルのスイートルームを用意します。宿泊費は当然、ギルド持ちですよ」
「いや、申し訳ありませんが、泊まる宿は既に決めていますので」
こうして、リオネルは当面の連絡先として山猫亭を告げ……
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