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第505話「良く……噂をすれば影、または影がさす……という」

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『わくわくか? これも念の為言っておくが、俺は魔法、剣技以外にも様々な方法で戦う。お前を抜かないからと言ってぶうぶう不満を言ったり、怒ったりするなよ』

『うむ、分かっておる。まずはこの世界の敵を理解する為……いろいろな魔物を見極めさせて貰う』

という会話が、約束の意味で、リオネルとムラマサの間で交わされた。

その言葉通り、リオネルはムラマサを「抜かなかった」

ムラマサを伴い、探索を再開してから初めて遭遇した敵、ノーマルタイプのドラゴンを、仲間の協力を得て、砂漠に誘い出した後、
フリーズハイのスキル3発で身体機能の自由を奪い、飛翔魔法で飛び、
風弾の魔法3発と、拳、蹴りの打撃を急所へぶち込み、あっさり倒したのである。

人間族が飛ぶ事が出来る!!??

リオネルがこの世界では失われたという『飛翔魔法』を習得していて、驚愕したムラマサであったが……

驚きすぎて、ドラゴンをあっさり倒した際行使した、
強力なスキル、魔法、体術にも感嘆を表す余裕がなかったのである。

こうして……ドラゴンを倒した後、リオネルはオーガの最上位種オーガキング、
南方の動物ワニのようなタラスクス、獣頭の巨人フォモール、
そして再びノーマルタイプのドラゴンを、様々な魔法とスキルで難なく倒した。

ムラマサにとっては、どれもこれも相まみえた事がない強靭な魔物ばかりだった。

そして、指示通り、ムラマサは、魔物どもの特徴をしっかり捉えようと、
リオネルの強さに驚きながら、ずっと観察を続けていたのだ。

ちなみに、インテリジェンスソードのムラマサには、人間のような眼は備わっていない。

しかし、ある程度、接近すれば、『見える』のだ。

どういう事かといえば、相手が放つ魔力を感知する事により、「見る」事が出来る。
つまり、自身の心の中で、魔力を放つ対象を具現化する事が可能なのである。
対象が動いた時や、火を吐くなど行為の具現化も当然問題なく行える。

さてさて!
リオネルのあずかり知らぬ事だが、ヤマト皇国には『ヤマタノオロチ』という魔物、否、怪物が存在した。

『ヤマタノオロチ』は、8つの頭と尾をもつ恐ろしい大蛇であり、いにしえの英雄が酒を飲ませ、酔わせて倒したという伝説があったのだ。

中でも、この世界の竜……ドラゴンは、
『ヤマタノオロチ』に近い形状と大きさだと、ムラマサは感じていた。

いにしえの時代に現れたヤマタノオロチは、
とてつもない強さだったと、ヤマト皇国の伝承にはある。

古代の英雄でも、策を弄し、ようやくヤマタノオロチを倒したのに、
リオネルは、空を飛び、酒ではなく自分のスキルでドラゴンの自由を奪い、
風の魔法でダメージを与えて弱らせ、素手でとどめを刺してしまった。

とんでもない強者……
否! リオネルは、英雄を……人間の領域を遥かに超えた魔人である!!!

ムラマサは、落ち着いてから、素直にリオネルの戦いの感想を述べ、
『ヤマタノオロチ』の話をした。

対して、リオネルは……

『ヤマタノオロチ? へえ、それヒュドラにそっくりだな。まあこの迷宮のヒュドラは、本物じゃなく亜種みたいだけどさ』

『何!? ヒュドラ!? ああ、さっき聞いたな』

リオネルは、改めてヒュドラについてムラマサへ説明した。

改めて、補足しよう。

このフロアに出現する亜種のヒュドラは、
9本の首を持つ、毒蛇に近い巨大な竜の一種である。
口からは猛毒、瘴気を吐き、その身体ごと血まで猛毒、瘴気が含まれている。

その猛毒は全ての生き物を殺し、植物までをも枯らすと言われてもいる。

またとんでもない再生能力があり、首を斬られても、新たな首が生えて来る。

そして9本の首のうち1本は、不死であるとも言われるが……定かではない。

ムラマサはリオネルの言葉を聞き、大興奮。
武者震いする。

『おおお!! こちらの世界にも、猛毒を吐くヤマタノオロチのような怪物が居るのか!! だが、我とリオネルが組めば、何とか、勝てるだろうよ!!』

『何とか、勝てる? いや、俺、もう倒したよ』

またも、しれっと言うリオネル。

『は!!?? た、た、倒したのかっ!!?? ヒュ、ヒュドラをかあ!!??』

『ああ、こちらの世界でも英雄の伝説があってさ。結局、英雄は不死のヒュドラを倒せなかった。岩の下に封じ込めるしか出来なかったんだ。……でも俺は何とか倒せたよ』

『ど、どうやって!!??』

『あはは、悪いな、ムラマサ。もったいぶるわけじゃないけど、それは後からのお楽しみだな』

『う、うう……』

やはり、とんでもなく規格外のリオネル。
ムラマサはまたも唸ってしまったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

良く……噂をすれば影、または影がさす……という。

ある人の噂をしていると、不思議と、その当人がそこへ来るものだということわざだ。

ムラマサを腰に差したリオネルが、仲間達と探索を続けていると、
索敵、魔力感知に反応があり、ムラマサも気づいた。

『おお、この気配は……ヒュドラだ! やはり居るのは大きな沼地か。注意しながら、近づいてみよう』

『な!? そ、そうか!! リオネル!! このとてつもなく巨大な気配がヒュドラなのか!! もう少し近づけば、はっきりと見えるぞ!』

『ああ、そうだ、間違いない。念の為に聞くけど、ムラマサは、毒とか、麻痺とか、石化とか、睡眠とか、呪いなんかの攻撃は大丈夫なのか?』

『ああ! 問題ない! 我には破邪の守護がある! 大丈夫だ!』

続いて、ヒュドラに気付いたケルベロスの弟オルトロス、フロストドレイク、
アスプ20体からも報告が入る。

『おい! あるじ! 敵だ! 以前出現した亜種のヒュドラが1体! こちらに感づき、戦闘態勢へ入っている! 2kmほど先の湿地帯に居るぜ!』

『!!!!!!!!』

『!!!!!!!!』

『奴は先行した仲間達に気付き、既に戦闘態勢へ入っている。注意しながら、近づいてみよう』

大きく頷いたリオネル。

言葉通り、走ったりはせず、ヒュドラが待ち受ける場所へ、
『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進んだのである。
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