上 下
501 / 689

第501話「我はもう100年もの間、待った」

しおりを挟む
リオネルが見た事もない、謎めいた黒さやの剣は、

『凄まじきお前の力に敬意を表し、先に名乗ろう。……我は、ヤマト皇国で生まれし太刀、ムラマサ。お前が住むのとは、違う異世界から来たのだ』

と、重々しい声で答えた。

剣……ムラマサがしゃべったのは、心と心の会話、念話である。

対して、リオネルも同じく念話で答える。

『ヤマト皇国で生まれし太刀、ムラマサか』

『そうだ』

『分かった。では、俺も名乗ろう。初めてお目にかかる。俺はソヴァール王国出身の冒険者リオネル・ロートレック。……魔法使いだが剣も使う』

『ふむ、リオネルよ。我には分かる。お前のその魔力、底知れぬパワーと量だ。尋常ではない!』

『そうか』

『ほお! 薄い反応だ。我が称え、褒めたのに、驕らず、誇らずか!』

『ああ、威張ったり、自慢するのは好きではない』

『ふむ』

『ムラマサ……お前はインテリジェンスソードのようだが、俺に何か用か?』

補足しよう。
インテリジェンスソードとは、自我、意思、知性を持つ刀剣類の事である。

しかし、自我、意思、知性を持ち、ただ、しゃべるだけではない。

索敵能力を持ち、敵の出現を注進したり、
油断、慢心で隙が出来た際、または敵が強大で敵わないと判断した際、
一時退却を促したり、
敗北した際、更なる鍛錬、雪辱戦を訴え、勇気を奮い立たせたり、
強力な武具であると同時に忠実な従士であり、主が心を許せる戦友でもあるのだ。

豊富な知識や経験を有し、主となった者へ仕え支えるインテリジェンスソードだが、
自ら魔法を放ったり、空中浮遊、自ら敵へ攻撃したりする、
至宝レベルのインテリジェンスソードも存在する。

ムラマサは自ら名乗り、ヤマト皇国の太刀であり、異世界から来たと告げた。

そして、リオネルへ話しかけた理由も明らかにする。

『リオネル・ロートレックよ。我は、仕えるにふさわしいあるじを捜していた』

『仕えるにふさわしい主だと?』

『ああ、かつて我はヤマト皇国の名だたる人間族のサムライに仕えた。だが主が死に、時が流れ、我の存在は失われた……』

『……………………』

『気が付けば、我はひとり、不可思議な次元のはざまを旅していた。その際、天なる声が、お前にふさわしき、次の主と邂逅せよと告げて来たのだ』

『お前にふさわしき、次の主と邂逅せよ……』

『うむ、そして、……気がつけば、ここに……異世界の地の底へ居たのだ』

『成る程……』

『リオネル・ロートレック! お前は我の見立てに叶った』

『見立て?』

『そうだ! 我はここで、じっと身を潜め、感じていた! お前が襲いかかる竜や巨人をあっさりと倒す事をな! それもお前が従えた魔物どもを使役してではない! 自身の魔法、そして身体能力を使ってだ!』 

『そうか……』

『ほう! お前の放つ心の波動が全く変わらない。気持ちがフラットだ。我が指摘しても、さもありなんというが如くだ』

『そんな大仰なものではないさ。俺は地道にコツコツとやっているだけだ』

『はははは、何が地道にコツコツだ! ノーダメージで竜や巨人をあっさり倒すのが地道にコツコツか?』

出現したインテリジェンスソードたるムラマサは、
邂逅したリオネルとの会話を楽しんでいるように見えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ムラマサは更に言う。

『リオネル・ロートレック! 我には分かる! お前は我のように自我と意思を持つ者を身につけ、連れておる!』

何と!
驚いた事に、ムラマサは至宝『ゼバオトの指輪』の存在を見抜いた。

しかし、約束がある。
『ゼバオトの指輪』の存在は他言無用だ。

リオネルは無言で返す。

『……………………』

『だが、深くは聞かぬ。お前がもし我の事を聞かれても、差しさわりなく受け流し、多くは語らぬと分かるからだ』

『……………………』

『確信出来る。お前は約束を守り、信頼に足る者だ』

『そうか。あっさり裏切って、ムラマサ、お前を放り出し、逃げるかもしれないぞ』

『ふふふ、それはない! そういう嘘は、すぐにばれる。お前との会話は楽しいが、そろそろ本題に入ろう』

『本題か』

『うむ! 既に決めた! リオネル・ロートレックよ! 我はお前に仕える! お前に付き従い、支え、長き旅の友となろう!』

『ははは、一方的だな』

『うむ! それだけ言い切れる自信が我にはある! 我が刀身、ヤマト皇国一の刀匠が鍛えし魔導鋼は、どれほど敵を斬っても切れ味は落ちず、永久にさびもせず、血のりさえも残らぬ!』

『……………………』

『我は役に立つ! 何故なら、現世にありしものを斬るだけではない。我は退魔刀、破邪の力を持ち、ヤマト皇国では、鬼を始め、数多の魔の者どもを斬り捨てておった』

『退魔刀……』

『うむ! 我は鬼を斬る太刀。斬鬼刀とも呼ばれておった。それゆえ、我を怖れし、魔の者どもが、呪われし、死の妖刀ムラマサなどと、流言飛語を広めたのだ』

『呪われし、死の妖刀ムラマサ……流言飛語を広めた……』

『うむ、その為、誤解を受け、我は忌み嫌われた』

『……………………』

『我が魔の者どもに怖れられた理由が他にもある!』

『……………………』

『我は、実体無き、亡霊どもも斬り、浄化する事が出来るのだ』

『……………………』

『リオネル・ロートレック、お前ならば、究極たる我を完璧に使いこなし、肉体だけでなく魂を斬れる! この世界に跋扈する、不死の悪魔さえも、斬り捨て、消滅させる事が出来よう!』

『……ムラマサ、お前、もの凄い刀なんだな』

『ああ、必ずやお前の役に立つ。我を従士として、連れていけ』

『おいおい、ムラマサ。ずっと命令口調だし、お前本当に強引だな』

『押しが強い、と言って貰おう。それに我はもう100年もの間、待った』

『100年間!?』

『うむ、その間、我にふさわしくない者がここへ来た際、異界に姿を潜め、やり過ごしておった』

『え? そうなのか?』

『うむ、我は姿を消したり、こうやって、飛ぶ事も出来る!』

ムラマサはそう言うと、ひゅお! と浮かび上がり、リオネルの前に浮かんだ。

『もう待ちきれぬ。リオネル・ロートレックよ! どうあっても我を連れて行って貰うぞ!』

きっぱりと言い切ったムラマサは、絶対に退かない!という波動を強く強く発して来たのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...