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第480話「おいら、偵察、探索してたら、気になるモノを見つけたんだよ」

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リオネルは、その後も地下122階層の探索を順調に続け、
午後5時には123階層へおりた。

霜の巨人ヨートゥンを倒してから、結構な数の魔物と戦ったが、残念ながらファンファーレが鳴らず、能力アップを告げる内なる声は聞こえて来なかった。

……当然レベルは上がらない。

しかし、ファンファーレが鳴るのは時間の問題だと予感する。
リオネルの強さは、着実に増していた。
否、まだまだ伸びしろはたっぷりありそうだ。
能力の限界は遥か先だと言い切れよう。

それに、経験を積んだ事は決して無駄にはならない。
使った魔法、スキル、剣、盾、格闘もろもろの熟練度は上がっているはずだ。

……そんな事を考え、リオネルが目の前、周囲を見やれば、
探索して来た地下121、122階層と全く同じ風景が広がっていた。

天井まで100m以上もある巨大洞窟のような広い空間が広がっている。

その天井から、日光のような高魔力の暖かな明るい光がふりそそぎ、
さわやかな風が吹き込む。

地上は大木が「うっそう」と生い茂った深い密林が殆ど。

ところどころ、川に沼があり、峡谷のような岩場や荒涼な原野、砂漠も混在して見える。

複雑で不可思議な地下庭園という趣きである。

この123階層でも、出現する魔物は同じであろう。

竜族はノーマルタイプのドラゴン、飛竜ワイバーン、
南方の動物ワニのようなタラスクス、
両頭のレッドドラゴンであるアンフィスバエナ、
9つの頭を持つ、巨大毒竜ヒュドラ。
そして不死者アンデッドのドラゴンゾンビだ。

一方、巨人族は、オーガの最上位種オーガキング、
妖精の成れの果てと言われるトロル、獣頭の巨人フォモール、
北の大巨人ヨートゥンである。

リオネルは再び、目の前の風景を眺めた。

午後5時過ぎという、現在の時刻を鑑みても、
この地下123階層も日の出、日の入りがなく、朝昼晩の区別もないと分かる。

朝昼晩の区別がないなど、気持ちが細やかな冒険者は耐えられないという。

しかし、リオネルは全く平気だ。

しばらく歩くと、キャンプ地に良さそうな場所を見つけた。

背後に岩山を控えた、森林内の開けた空き地という趣きの場所だ。
周囲に敵……魔物の気配は感じられない。

ここでリオネルは、メンバーの休憩、入れ替えを行う。

慰労し、食事を与えた後……
ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟、ファイアドレイクを異界へ帰還。
アスプ20体も、収納の腕輪へ帰還させる。

入れ替わりに、小さな竜に擬態した凍れる竜フロストドレイクを召喚。
収納の腕輪から、控えのアスプ20体、そして休憩していた妖精ピクシーのジャンを搬出した。

こうして、階層またぎのジズ、凍竜フロストドレイク、アスプ20体、ジャンが、
偵察、警戒を担う巡回へ出撃して行ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

地形も同じ、出現する敵……魔物も同じ。

大きな反省点、改善点があればその場で確認している。

地下121階層から、仲間との打合せ、作戦のすり合わせは充分にやっている。

という事で、仲間全員と情報を共有する新たなディスカッションはなし。

交代した仲間達と一緒に食事を摂った後、
地形、目撃した魔物、気になる事等に関して雑談を行う事にした。

フロストドレイク、アスプ20体としっかり意思疎通をするのは勿論だが、

特に休養たっぷりで小回りの利くジャンとはじっくり話す。

戦闘能力が殆どないジャンには、偵察、探索のみ。
魔物とは絶対戦闘をしないよう、つまり素早さ、飛翔能力を活かし
「三十六計逃げるに如かず」をモットーにするよう命じてある。

補足しよう。
「三十六計逃げるに如かず」とは、形勢が不利になった時は、
あれこれ思案するよりも、逃げてしまうのが一番良い。
 転じて、面倒な事が起こったときには、逃げるのが一番得策であるという事だ。

『リオネル様、聞いてよ』

『何だい、ジャン』

『おいら、偵察、探索してたら、気になるモノを見つけたんだよ』

『気になるモノ?』

『うん! 残念ながら当人は居なかったけど、冒険者の痕跡があったんだ』

ジャンの話を聞き、リオネルは微妙な顔つきをする。

この深い階層まで来る事が可能なのは相当の手練れだ。
はっきり言って、ランクA以上の猛者でないと、探索、踏破は困難である。

ただ先述したように、この危険極まりない階層を探索するより、
地上でリスクの少ない実入りの良い依頼を受ける者が殆ど。

リオネルのように純粋に修行する者以外は足を踏み入れない。

しかし……探索、踏破する者はゼロではないのだ。

痕跡というのは、キャンプ跡なのか、探索した形跡なのか……

それゆえ、リオネルは言う。

『へえ、冒険者の痕跡ねえ……この階層なら珍しいかもしれないけど、なくはないぞ』

だが、ジャンは意味ありげに笑う。

『ふふふふふ……』

『おいおい、ジャン、何が可笑しいんだ?』

『うん! おいらだって、単なる冒険者の痕跡なら、こんなに勿体ぶらないさ!』

『ほう!』

『だって! その痕跡に残された魔力の残滓、おいら誰のモノか知ってるんだもん!』

補足しよう。

魔力には個々により独自の特徴がある。
血液型、指紋のようなものだ。
また、攻撃、防御、支援等の魔法を使うと、
放った魔力が完全に消えず、微量が残る場合がある。
それが魔力の残滓である。

『え? 痕跡って、魔力残滓か? 誰のモノか知ってる?』

『うん! 知ってる! リオネル様がさ! 地上のオンボロ魔道具屋のくそじじいと話してたろ? その時、リオネル様が再起動させたゴーレムと同じ魔力の残滓! 造ったアールヴ、イェレミアスとかいう人の魔力残滓だよ!』 

ジャンはそう言うと、ふふふと面白そうに笑ったのである。
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