上 下
419 / 680

第419話「しかし、リオネルは基本的にリスクを嫌い慎重である」

しおりを挟む
オークキング以下、様々な手立てでオークどもを倒しまくったリオネル。
約2時間後、地下40階層へ到着していた。

時刻は午後3時30分少し前。
やはり階段最寄りの『小ホール』でひと息つく。

先ほど同様、ピクシーのジャンを呼び戻し、紅茶と焼き菓子で慰労してやる。

ここまで来ると、ジャンは完全に偵察任務に慣れた。
警戒心、慎重さ、観察力、適度な勇気を持つジャンは、その俊敏な高速移動能力を活かし、リオネルへ的確な『敵』の情報をもたらしてくれた。

ケルベロスとオルトロスへは大きな肉塊を与え、リオネル自身は紅茶を少しだけ飲む。

地下41階層からは、出現する魔物がガラリと変わる。
早速、自問自答の『作戦会議』が始まった。

「41階層から、50階までは、出現する魔物がまたガラリと変わる……オークどもが完全にフェードアウトし、ノーマルタイプのオーガへ切り替わるの……か。オーガの上位種は更に深い階層だな」

補足しよう。
オーガは、ゴブリン、オーク同様に『妖精の成れの果て』といわれる魔物である。

大きな猿の如く、がっちりした筋肉質の体躯で、身長は5mを超す個体も居る。
魔法は使えないが、強烈なパワーを誇り、特に殴打攻撃は得意だ。
残忍、狂暴な性格で、人間や家畜を捕食する怖ろしい敵である。

リオネルは、更に地図と付帯説明を読み込む。

「え~と、オーガ以外に出現するのは……ゴーレムかあ。上手く捕獲して、配下に加えたいな」

リオネルは、岩石製、鋼鉄製各10体のゴーレムを英雄の迷宮で無力化して捕獲。
『真理』の文字を刻み直し、自分の配下として使っている。

ゴーレムは、敵との戦闘を担う戦士としては勿論、
リオネルは、様々な作業が可能なゴーレム用のアタッチメントも購入し、汎用性が高い。
疲れを知らない疑似生命体の彼らは、使い勝手の良い存在なのだ。

そもそも、迷宮で冒険者を襲うゴーレムは、
いつ、どこの、どのような術者が『真理』の文字を刻んで放ったのか一切が不明である。

はっきりしているのは、これらのゴーレムが、
迷宮へ入った冒険者を『侵入者』『敵』とみなし、害する事。

なので、リオネルはこれらのゴーレムを行動不能にし、既存の文字を削り、
自分の魔法文字を刻んで、物言わぬ自分の忠実な配下とする事をためらわないのだ。

リオネルが、『魔道具店 クピディタース』店主ボトヴィッド所有の、
行動不能になったゴーレム……アートス復活に際し、
「慎重に作業した」事をおぼえているだろうか……

アートスは、迷宮に現れるゴーレムとは違う。
自分の魔法で、アートスを物言わぬしもべになど出来ない。

アールヴの魔法使いイェレミアスが、世話になった友情のあかしとして、
ボトヴィッドへ贈ったアートスを、以前と同じように復活させたい!

リオネルはそう考えたのだ。

……『魔道具店 クピディタース』の開店時間は、午前11時からと聞いている。

今日ボトヴィッドは、復活したアートスと仲良く店を開け、
楽しく話し、店番をしているはずだ。

そう思うと、リオネルの心は「ほのぼの」と温かくなったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

午後4時……
探索再開。

リオネルは、地下41階層へ足を踏み入れる。
この41階層から、更に冒険者の数は減る。

オーガやゴーレムのような際立ったパワー系と戦う為には、
それ以上の腕っぷしを誇る強靭な戦士、剣聖レベルに近い剣士、
そして高位魔法を使いこなす魔法使い、強力な魔法を使う回復役がメンバーに居なければならない。
そこまでの一流メンバーが揃ったクランは中々ないのだ。

しかし、リオネルは攻防回復支援、全ての能力が超一流となった。
オーガやゴーレムも、軽く一蹴出来るだろう。

しかし、リオネルは基本的にリスクを嫌い慎重である。

先ほどのフロアからケルベロス、オルトロスの『魔獣兄弟』を召喚。
偵察役のジャンと合わせ、勢子役、盾役、戦闘役として先行させている。

そして戦法も変える。

まず遠距離攻撃を試し、接近戦は本来の、
「一撃離脱」【ヒットアンドアウェイ】に徹する事に決めた。

オーガとあまり戦闘経験のないリオネルは、
何度か戦って、実戦経験を積む事にしたのだ。

ケルベロス、オルトロスから、
『ミノタウロスやマンティコアに圧勝した主なら、絶対に大丈夫だ』
『ノーマルタイプのオーガなど、歯牙にもかけない』等々散々言われたが、
リオネルはいきなり格闘技でぼこる!とか、「いけいけ」にはならなかった。

つまらないと言われても、安全策で、まず遠距離から魔法でオーガを撃つ。

風、岩、水、火の『弾』を普通に撃つ。
次に『フリーズハイ』『威圧』『大地の束縛』を使い、敵を行動不能にし、撃つ。

やはりというか、リオネルの用心は杞憂に終わる。

オーク同様、リオネルの攻撃魔法は、行動不能になったオーガをあっさりと倒したのである。

また先ほどのオークへの攻撃同様、直線、正面だけでなく、
放った魔法の軌道を自在に変えて、護衛に守られた最後方の敵を撃ち抜く事にも成功した。
当然、威力の強弱も試し、魔力の調整だけでなく、『貫通撃』を加えてみたりもした。

全てが上手く行ったのを充分に確かめてから、リオネルは接近戦に。

オーガに絶対捕まらないよう注意しながら、剣を振るい、シールドバッシュ。
パンチを繰り出し、蹴りを入れ……
まさに蝶のように舞い、蜂のように刺したのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿
ファンタジー
『異世界転移』 それは男子高校生の誰しもが夢見た事だろう この物語は神様によって半ば強制的に異世界転移させられた男がせっかくなので異世界ライフを満喫する話です ★印は途中や最後に挿絵あり

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一
ファンタジー
俺の名は御剣那由多(みつるぎなゆた)。 16歳。 ある日目覚めたらそこは異世界で、しかも召喚した奴らは俺のクラスが勇者じゃないからとハズレ扱いしてきた。 しかも元の世界に戻す事無く、小銭だけ渡して異世界に適当に放棄されるしまつ。 まったくふざけた話である。 まあだが別にいいさ。 何故なら―― 俺は超学習能力が高い天才だから。 異世界だろうが何だろうが、この才能で適応して生き延びてやる。 そして自分の力で元の世界に帰ってやろうじゃないか。 これはハズレ召喚だと思われた御剣那由多が、持ち前の才能を生かして異世界で無双する物語。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...