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第410話「お、おお! ア、アートス! よ、良くぞ! 良くぞ戻って来た!」

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リオネルは、ゼバオトの指輪が導き出した、
『ある秘術』を使おうとしていた。

そもそも、元々は土くれ、もしくは単なる金属の塊へ、『真理』の魔法文字で、
忠実な疑似生命体として起動、服従させるのが、ゴーレム行使の魔法である。

疑似生命体たるゴーレムは、『真理』の魔法文字により、
仮初かりそめの魂』を得る事が出来る。

魂を修復し、限りなく元の姿に戻す秘術があると、
ゼバオトの指輪が、リオネルへ『教えてくれた』のだ。

魂を修復し、限りなく元の姿に戻す秘術。
名付けて、魂修復の秘術……

この秘術は元々、悪魔などに騙され、禁断の契約を交わし、
魂を侵食された被害者を救済する為に編み出された、禁呪に近い魔法である。

この魂修復の秘術のベースとなるのは、
リオネルが習得し、最も得意とする最上位級の回復魔法『全快』

『全快』は、負った傷を修復、体力を満タンにし、精神状態へも活力を与える。

この『全快』を更に数十倍にパワーアップさせ、更に究極防御魔法『破邪霊鎧』の魔力を練り、魂を穢す邪気を払い、清めて行くのだ。

リオネルが考えたロジックとは……
ゴーレムのアートスが得た『仮初の魂』へ、
この魂修復の秘術を応用し、施すというものだ。

さてさて!
魂修復の秘術を発動したリオネルは、先ほど『破邪霊鎧』を発動した時以上に、
身体が、まばゆく発光していた。

聖なる白光が、リオネルの全身を覆って行く。

「お、おおお……」

その神々しさを見て、感動のあまり、ボトヴィッドは、ろくに声が出なかった。

まるで伝説の聖者か、古代に生きたという創世神教会最上位の司祭のように、
発光するリオネルは、おそれおおいのだ。

やがて、まばゆい白光に包まれたリオネルは、動かなくなったゴーレム、
横たわるアートスへそっと触れた。

すると!
まるでリオネルにまとった白光がアートスへ乗り移るように全身をまとい、
……アートスは、リオネル同様、神々しく光り輝いた。

そのまま……しばし、時が過ぎる。

果たして……

「お!?」

輝くアートスをじっと見つめていたボトヴィッドが、驚きの声をあげた。

微動だにしなかったアートスの指先が、ぴくりと動いたのだ。

ぎし、ぎし……

唐突に、クピディタースの店内で、金属がきしむ音がした。

ぎし、ぎし、ぎし……

間違いない。

金属がきしむ音は、強化ミスリルで造られたアートスの身体から聞こえていた。

更にぎし、ぎし、と音は鳴り、横たわっていたアートスがゆっくりと起き上がる。

「アートス!」

半身を起こしたアートスへ、ボトヴィッドは呼びかけた。

「ご、しゅ、じん、さま……」

機能を停止し、約20年間も動かなかったアートスだったが……

ボトヴィッドの呼びかけに対し、アートスは顔を向けると、
たどたどしいながらも、はっきりと答えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

やがて……
輝いたままゴーレムのアートスは起き上がると、
カウンターから降りた。

降りる際には、転げ落ちたりしないよう、リオネルが手助けしてやった。

店の床に立ったアートスは、相変わらず「ぎしぎし」音をたて、ギクシャク、ふらふらしながらも、店内を歩き回る。

まるで空白の20年間を取り戻すように……

ぎこちなく歩くアートスを、まるで可愛い子供をのように、
ボトヴィッドは、慈愛の眼差しで見守っていた。

一方、これまた輝いたままのリオネルは、時たまアートスを止め、
四肢の関節に魔力を注入した。

すると、「ぎしぎし」という嫌な音が消え、アートスの動きも、
どんどん滑らかになって行く。

更にアートスは、屈伸運動や早歩きしたりして、
人間の動き、そっくりに動いた。

そんなアートスを、
我が子の成長を歓ぶように嬉しそうな笑みを見せるボトヴィッド。

そして、約1時間後……

普通なら、客が行えば、ボトヴィッドが激怒する、
店内を走り回る事も、アートスは、出来たのである。

そんなこんなで、アートスは、完全に復活した。

たたたたた! と、ボトヴィッドの下へ駆けて来て、
声を張り上げる。

「ご主人様! アートスは、完全に状態を回復致しました。判断機能、運動機能は、万全でございます」

アールヴの魔法使いイェレミアスが、造ったゴーレムのアートスは、
ボトヴィッドが言う通り、通常のゴーレムとは違い、桁違いの能力を有しているようだ。

「お、おお! ア、アートス! よ、良くぞ! 良くぞ戻って来た!」

約20年ぶりに戻って来た、愛すべき相棒。

ボトヴィッドは感極まって叫んだ。

「上手く行って、良かったですね」

微笑むリオネルへ向かい、

「リ、リオネルっ! よ、良くやってくれた! あ、ありがとう! 本当にありがとう! 嬉しいぜっ! 今日はな! 人生最高に良き日だっ!」

ボトヴィッドは、言い放つと、リオネルの手をがっし!と握ったのである。
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