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第408話「こいつが復活してくれれば、頼もしいんだが」

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魔道具店クピディタースを開き、約40年もの間、番人として、
ゼバオトの指輪を守って来た、店主ボトヴィッド。

いろいろな葛藤、思いがあるに違いない。

しかし、不思議な事に……
ボトヴィッドは、ゼバオトの指輪について、効能効果等々、
リオネルへ何も尋ねては来なかった。

好奇心旺盛な魔法使いとして、信じられない行動である。

リオネルが何も言わないから、察しているのかもしれない。
指輪から、何か言われ、戒められているのかもしれない。

真相は分からない。

指輪との約束があるし、リオネルもその方が助かる。

しかし……ゼバオトの指輪がたった金貨1枚とは、リオネルの気が済まない。

かといって、今更金貨を1,000枚出しても、ボトヴィッドは受け取らないだろう。
それに、ゼバオトの指輪はプライスレス。
値段はつけられない。

どうしたら、良いのだろう……

つらつらと考えるリオネル。

そんなリオネルの思いをよそに、ボトヴィッドは他愛ない話題を振って来る。

紅茶のお代わりをし、リオネルの焼き菓子を美味しいと言い合い、
魔法使いのふたりは話す。

かといって、何か感づいたのかもしれず、
気を遣って、リオネルの家族の事など立ち入った事を、
ボトヴィッドは聞いては来ない。

態度は横柄だし、言い方はぶっきらぼう。
性格もあまのじゃく。

でも、根は愚直すぎるほど正直、不器用で優しい。
放つ波動でも分かる。

そんなボトヴィッドを、リオネルは好きになっていた。

また、さっきから気になっている事もあった。

「あの……」

「おう、リオネル、何だい」

「あれ、凄く気になっているんですが……」

リオネルが指さしたのは、カウンター奥、ガラスケースへ収納された、
身長2m弱くらい、人間の男性の姿をした大きな人形であった。

人形の年齢は、リオネルと同じくらいの10代後半という雰囲気の少年仕様だ。

リオネルの問いかけに対し、ボトヴィッドは、

「わりいな、リオネル。あれは売り物じゃねえ。非売品だ。フォルミーカの迷宮に棲むアールヴからプレゼントされたゴーレムなんだ」

非売品。
フォルミーカの迷宮に棲むアールヴからプレゼントされたゴーレム。

ボトヴィッドの言葉を聞き、リオネルの好奇心が騒ぎ出す。

「ゴーレムなんですか?」

「ああ、ごついゴーレムというより、人間に近い姿をした自動人形オートマタと言った方が妥当かもしれねえな」

「動かないのですか」

「ああ、もう20年以上、動かねえ。どうやっても起動しないんだ」

「どうやってもですか?」

「ああ、残念だがな、どうにもならねえ」

そんなボトヴィッドの言葉を聞き、リオネルの『恩返し』のアイディアが浮かんだ。

「ボトヴィッドさん」

「ん?」

「そのゴーレムの起動、俺にやらせて貰えませんか?」

「え? リオネル、お前に?」

「はい!」

元気よく返事をするリオネルの瞳は「きらきら」と輝いていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ボトヴィッドは、ゴーレムをとても大事にしているらしい。

「このゴーレムはな、頑丈で軽いミスリル製で、名をアートスという」

「アートスですか」

「ああ、アートスはな、フォルミーカ迷宮の深層に棲むアールヴ、イェレミアスとの友情のあかしなんだ」

「ボトヴィッドさんとイェレミアスさんとの、友情のあかしなんですか?」

「ああ、俺も年だからな、フォルミーカの迷宮へは潜れず、引退以降、イェレミアスとは会っていない。だがアールヴは1.000年以上は生きる長命な種族だから、魔物に喰われてなければ、イェレミアスはまだ迷宮の深層で健在なはずだ」

ボトヴィッドによれば……
彼がまだ現役の冒険者だった頃、迷宮内を探索中、ひょんな事で、
迷宮に棲むあるアールヴの魔法使い、イェレミアスと知り合った。

その後、イェレミアスから頼まれた物資を地上から、何度か届け、
10回を超えるやりとりで、親しくなったそうだ。

迷宮へ棲むのは不自由だろうと、
地上への帰還を勧めたボトヴィッドの申し出を断り、
イェレミアスは、魔法を研究する為、
迷宮での暮らしを継続すると言い張ったらしい。

最後に、引退するから迷宮へは来れなくなると、ボトヴィッドが伝えた際、
「世話になった礼だ」とイェレミアスから言われ、
このゴーレム、アートスを贈られたという。

ゴーレムのアートスは、ボトヴィッドとともに地上へ戻り、
魔道具店クピディタースを開いた際の手伝いもしてくれた。

しかし、20年ほど前に、いきなりアートスの機能が停止。
それ以来、どんなに手を尽くしても、起動しないという。

「こいつが復活してくれれば、頼もしいんだが」

「頼もしいのですか?」

「ああ、会話が出来るから、俺の話し相手になってくれるし、そこそこの戦闘能力もあるから、警護役と店番を務めてくれるんだよ」

リオネルは改めて、ゴーレムのアートスを見た。

すると!
心の中に、これまで培った知識と経験、更に見た事も聞いた事もない、
未知の知識……古代の英知が、はっきりと湧き上がり、認識、理解された。

更に何と!
それらがMIXされ、明確な『答え』が導き出される。

リオネルには、はっきりと分かった。

無限に近い絶大な、魔力、精神力、身体能力、攻撃力、防御力を得るだけではない。
数多の者達と心を通わせ、従えるだけではない。

蓄積された遥かなる古代の英知と、全てを活かす計算力と対応力。

これらも、ゼバオトの指輪の持つ能力なのだと。

「ボトヴィッドさん」

「お、おう」

「俺、アートス、再起動出来そうですよ」

リオネルは、自信たっぷりにそう言うと、にっこりと笑ったのである。
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