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第386話「へ? あ、案内は不要? マジ?」

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「ランクAの上級冒険者、リオネル・ロートレック様! どうぞお通りください! ようこそ! 迷宮都市フォルミーカへ! 冒険に遊びに! 人生を大いに謳歌してくださいね!」

リオネルの冒険者ギルド所属登録証を見て、屈強でこわもての門番は、
びしっと敬礼。
にっこり笑い、通してくれた。

「ありがとうございます!」

リオネルは、門番へ一礼し、正門を通り、街の中へ入った。

冒険者ギルドの所属登録証を提示し、門番に、あっさりと入場を許可して貰っただけでなく、リオネルは、熱い歓迎の言葉までかけられた。

冒険者ギルドの登録証は、身分証として世界で通用する万能アイテムだ。

一般の冒険者でも所属が明確となるのは勿論、
もしも記載されたランクがB以上、つまりランカーなら門番の対応が全く違う。
相手の接し方も変わり、一目置かれる。

そして、リオネルのように若くして、
ランクA以上の一流と謳われる上級ランカーならば、尚更である。

また……
ランカー、及び上級ランカーは、身元がはっきりした実力者というだけでない。
一般の冒険者より、多くの金を落としてくれる上客でもある。

そもそも迷宮都市フォルミーカは……
アクィラ王国の中でも特異な街である。

この街は多額の税金を納めるのと引き換えに、アクィラ王国から、
ある程度の自治を認められていた。
 
住民が選んだ市長により、治められており、司法もアクィラ王国の法律に、
独自のローカルルールを加えている。
治安の維持を担う衛兵隊も独自の組織があった。
 
街の構造も、他の町村とはだいぶ変わっていた。

地上部分にも建築物は若干あるが、この街の主要部分は地下に造られた都市にある。
更にこの地下都市は、いにしえに造られた、
深き地下迷宮の上に造られているのだ。
 
街中には、迷宮への入り口がぽっかりと穴を開けており、
成り上がり希望の好奇心旺盛な冒険者達を誘蛾灯のように集め、
中へ入れと誘っているようだ。

かつてフォルミーカがまだ小さい街だった頃……
ある日、迷宮を探索したクランが超レアな宝物を発見。
クランのメンバーは、一生暮らせるくらいの莫大な富を得た。

『フォルミーカドリーム』と言われる言葉が、
流行り出したきっかけを作った出来事であった。

こうなると、世界各地から大勢の冒険者が集まるのは必然となる。
冒険者達が必要とする施設と仕事、生活物資が必要となり、
それらを扱い、ひと山当てようとする商人達も数多来訪する。
 
フォルミーカは迷宮を探索した冒険者達が得た魔物の部位、
謎めいたレアな魔道具及び宝物の売却により、更に莫大な金も生み出した。

このような経緯で、この街は著しい発展を遂げて来たのである。
それゆえ、この街は、他の町村よりも拝金主義の傾向がある。
門番の対応も納得と言えるかもしれない。
 
さてさて!
フォルミーカの街へ入ったリオネルは地上部分を、
妖精のピクシー、ジャンと一緒に歩いていた。
 
リオネルは魔導灯が照らす階段を下りて行った。

降りて、すぐ出た場所が大きな広場となっている。

広場は大勢の者達でごったがえしていた。
様々な種族、そして老若男女が混在していた。

リオネルのふるさとのソヴァール王国の王都オルドルでもそうだが、
大きな街の正門付近には、到着したばかりの旅行者に対するアプローチがもの凄い。

中でも多いのが、宿屋の勧誘である。
旅行者の多くは、まずその日の宿を確保し、食事及び観光へという心理が働く。

この世界では宿の予約という概念があまりない。
魔法鳩便等で手紙を送り、予約をする事が不可能ではない。
宿の方でも、前金ありきで、対応はしてくれる。
しかし、殆どの人がそのように金と手間をかける事をしないのだ。

そんな様子を見て、リオネルは考える。

じっくりと腰を据えてフォルミーカの迷宮を攻略したい。
だったらワレバット同様、一軒屋を賃貸した方がベスト。

でも、現在の時刻はまもなく午後6時。
今から、不動産屋で、家探しをするのは時間が遅すぎる。

ギルドへ行けば、ホテルがあるけど、少し味気ないかも。

今夜は、とりあえずどこかの宿へ泊まろうか。

そんなリオネルへ、呼び込みの女性が話しかけて来る。
年齢は、リオネルより少し年上で20歳過ぎくらいだろうか。

「はあ~い、そこの冒険者さ~ん。ウチの宿へ泊まらない~? 格安、安全、清潔、料理は美味い! そして私みたいな可愛い美人スタッフまで! 3拍子どころか、5拍子そろった良宿だよお!」

自分で言うだけあり、女性は顔立ちが整った結構な美人である。
リオネルへ向かい、色っぽくウインクまでして来た。

「ええっと……」

「よっし! 君は可愛いから大サービス! フォルミーカが初めてだったら、私がタダで街の案内もしてあげるよお!」

しかし……破邪霊鎧を習得したリオネルに魅惑の攻撃?は効かなかった。

あくまでも冷静である。

「すんません、お姉さん。街の案内は不要なので、部屋を見せて貰えます? 気に入ったら泊まりますから」

「へ? あ、案内は不要? マジ?」

「はい、マジっす」

タダで街案内を持ち掛け、あまり断られた事はないのであろう。

微笑んだリオネルを見て、宿の女性は呆気に取られてしまったのである。
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