上 下
383 / 680

第383話「確かに……そうです」

しおりを挟む
ファイアドレイクが悲鳴をあげ、もがいた。

リオネルが行使した地属性の究極支援魔法『大地の束縛』の効果だ。

そのまま、ファイアドレイクは行動不能となり、身体は縛られ、動けない。

しかし、リオネルは攻撃に転じず。

動けないファイアドレイクを見守り、柔らかく微笑んだ。

微笑みながら……リオネルは、つらつらと考える。

授けてくれた地の最上級精霊ティエラは教えてくれた。

『大地の束縛』の効能効果は、高位レべルの相手に対しては、長時間持続しない。

古文書によれば、火竜ファイアドレイクの想定レベルは70以上……

どちらにしても自分の持つスキル『フリーズハイ』はほぼ効果がない。
補正の40があっても、リオネルはレベル24……70には届かない。

そしてもっと重要なのは、パイモンが告げる、
「私が望む落としどころ」という言葉だ。

この言葉が、もしもリオネルの想像通りだとしたら、
リオネルは、ファイアドレイクを倒し、命を奪ってはならない。
致命傷となるような大ダメージを与えてもいけない。

で、あれば!

ファイアドレイクが動けないうちに、身体活動能力が低下するように仕向ける!

普段の修行の成果を試してやる!

「ふっ」と笑ったリオネル。

『絶対零度!』

そう!
リオネルが発動したのは、水属性の極大攻撃魔法『絶対零度』
氷結の数十倍の効果効能を持つ、全ての物体を究極に凍らせる攻撃魔法だ。

『ほう! 絶対零度で、ファイアドレイクを凍らせ、砕け散らせるか?』

『…………………』

『む? 変だぞ』

宙に浮かぶパイモンは首を傾げる。

『これは……絶対零度ではない!』

『…………………』

『冷気の有効範囲が、私の居る場所まで来ない! ファイアドレイクの周囲のみ!? 凍結温度も、全然並みのレベルだ』

『はい、パイモン様。その通りです』

リオネルの魔法で、
ファイアドレイクの周囲の大気温度が、急激に低下した。

しかし!
『完全な絶対零度』ではない。
瞬時に凍結し、砕け散るレベルではないのだ。

もがいていたファイアドレイクの動きが、更に鈍くなって行く。

『これでは絶対零度の劣化バージョン。せいぜい、ファイアドレイクを活動停止……まるで動物の冬眠状態にするのが関の山だ!』

驚き、叫ぶように言うパイモン。

対してリオネルは笑顔。

『はい、上手く行くかどうか、半信半疑でしたが、大丈夫だったようです』

そして、満足そうに大きく頷いていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルがファイアドレイクを冬眠状態にするのを、
厳しい眼差しで見ていたパイモンであったが……

『ははははははははははははは!!!!!』

と、大笑いした。

対して、リオネルは無言である。

『…………………』

『ふふふ、リオネルよ。見事に落としどころを作った。私が望んだ通りだ』

『パイモン様のご希望に応える事が出来て、良かったです』

『うむ、お前は私の出した課題を完璧にクリアした。よって! 火の加護を与えよう!』

『ありがとうございます! 嬉しいです!』

『ふむ。これでお前は4大精霊、全ての加護を受ける事となる。これまで、世に存在した、全属性魔法使用者オールラウンダーの中では初めてとなる!』

『初めて……ですか?』

『うむ! 精霊の嗜好、価値観はそれぞれ違う。全ての属性魔法が使用可能な全属性魔法使用者オールラウンダーであったとしても、全ての精霊に慕われ、加護を受けられるかは、また別の話なのだ』

『そうなのですか』

『ふふ、人間もそうであろう。全ての人間が折り合い、心の絆を結び、慈しみ合うのがどれほど困難か、お前にも心におぼえがあるだろうよ』

『確かに……そうです』

リオネルは、パイモンの言葉に同意し、自分の父、兄ふたりの事を思い出した。

たとえ血を分けていたとしても、彼らは一方的にリオネルを蔑み、
終いには、追放した。

裏では通じているように感じる精霊もそうなのだろうか?

つらつら考えるリオネル。

『リオネルよ』

『はい』

『お前は授かった属性の極大魔法を使いこなすどころか、見事に複合までして見せた。素晴らしいぞ!』

『ありがとうございます』

『私もお前には火の加護だけでなく、『爆炎』『火炎全無効』という極大魔法を授けよう』

『嬉しいです! 重ね重ねありがとうございます!』

『うむ! 爆炎は全てを焼き尽くし、火炎全無効は、全ての火属性攻撃を無効化する最強の防御魔法だ。極大攻撃魔法「爆炎」さえも退け、無効化するぞ!』

パイモンから、とんでもない魔法を授かったリオネル。

しかし、これで終わりではなかった。

リオネルの想像が当たったのだ。

『更に、このファイアドレイクを従士として授けよう。炎弾を撃ち込み、起こしてやるがよい』

『はい』

リオネルは頷き、冷気で眠っている?ファイアドレイクへ、

ばしゅ! ばしゅ!

と、気付けの炎弾を撃ち込んだのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地下アイドルの変わった罰ゲーム

氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。 周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。 それでは!

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

【R-18】何度だって君の所に行くよ【BL完結済】

今野ひなた
BL
美大四年生の黒川肇は親友の緑谷時乃が相手の淫夢に悩まされていた。ある日、時乃と居酒屋で飲んでいると彼から「過去に戻れる」と言う時計を譲られるが、彼はその直後、時乃は自殺してしまう。遺書には「ずっと好きだった」と時乃の本心が書かれていた。ショックで精神を病んでしまった肇は「時乃が自殺する直前に戻りたい」と半信半疑で時計に願う。そうして気が付けば、大学一年の時まで時間が戻っていた。時乃には自殺してほしくない、でも自分は相応しくない。肇は他に良い人がいると紹介し、交際寸前まで持ち込ませるが、ひょんなことから時乃と関係を持ってしまい…!? 公募落ち供養なので完結保障(全十五話)です。しょっぱなからエロ(エロシーンは★マークがついています) 小説家になろうさんでも公開中。

人生の『皮』る服(少女たちの皮を操って身体も心も支配する話)

ドライパイン
大衆娯楽
んごんご様主催「DARK SKINSUIT合同」にて寄稿させて頂きました作品です。 挿絵もございますため、よろしければPixiv版でもご一読いただけますと幸いです。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

幼なじみに毎晩寝込みを襲われています

西 美月
BL
恭介の特技は『一度寝ると全然起きない』こと、 『どこでも眠れる』こと。 幼なじみとルームシェアを始めて1ヶ月。 ある日目覚めるとお尻の穴が痛くて──!? ♡♡小柄美系攻×平凡受♡♡ ▷三人称表記です ▷過激表現ご注意下さい

忍びの青年は苛烈な性拷問に喘ぎ鳴く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...