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第377話「おいら、行くあてもない。仲間も居ない。ひとりぼっちなんだ」

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『おいら……アヴァロンへは帰れないんだ』

辛そうに顔をしかめ、ジャンは絞り出すように告げた。

『そうか……』

『ああ、わけあって、故郷には帰れないんだよ、おいら……』

わけあって、故郷へ帰れない。

思わずリオネルは言う。

『何だ、ジャン。俺と同じじゃないか、お前』

柔らかく微笑むリオネル。

心の中で、父、兄ふたりの声がリフレインする。

くそバカ! ゴミ野郎! ディドロ家の汚物! 人生の負け犬! 
この恥さらしめえ! 意気地もなく面汚しのお前!

くそな貴様! 屑のお前! ゴミ屑ごとき最底辺のお前!
お前のくそ暗い顔を見ないと思えば、せいせいする!
きたね~ゴミ屑は、二度と帰って来るな!などなど……

自分も肉親から激しく罵倒された上、実家を勘当、追放され……
故郷であるソヴァール王国王都オルドルへは戻れない。

『え? おいらと同じで、故郷へ帰れないのかい、リオネルが?』

『ああ、そうさ。お前はレベル30になるまで帰って来るな。否、帰って来ずとも構わないと言われ、あっさり家を追い出されたよ』

『え? レベル30になるまで帰って来るな? あっさり家を追い出された?』

『ああ、俺、まだレベル24だからさ』

『レベル24!? うっそだろ!? リオネルは、そんなに凄い魔法使いなのに?』

『本当さ。追い出された時はたったレベル5だった』

『む~…………』

唸るジャン。

対して、リオネルは苦笑。

『まあ俺の事は良いけどさ……』

『…………………』

『ジャン、お前さ、どこかに友達とか、知り合いの妖精は居ないのか? もし居るなら、そこへ行ったらどうだ? 腹もいっぱいになったし、体力も回復しただろ』

リオネルがそう言っても、ジャンは無言だ。
ただただリオネルを見つめている。
何かを考えているらしいが、リオネルはジャンの心を読み取ろうとは思わない。

『…………………』

無言のジャンに、リオネルは更に言う。

『どうだい? ジャン』

『…………………』

『もしも遠くなら、俺達が送って行ってやるよ』

リオネルが言えば、ジャンは、考えがまとまったらしい。
ためらいながら、絞り出すように言葉を発する。

『…………………あ、あ、あのさ』

『何だい?』

『リオネル! いや、リオネル様! お、おいらを! い、一緒に連れて行ってくれないか? 旅に出たいんだ!』

一緒に連れて行ってくれないか? 旅に出たいんだ!
意外なジャンの申し出。 

『ジャン、お前を一緒にか?』

リオネルが問うと、ジャンは言い放つ。

『あ、ああ! お、おいら、反省するよ! 今までの態度に、リオネル様の気が済まないなら謝るよ! そして頑張って、絶対、役に立つよ! だ、だから! お願いだよ!』

ジャンの懇願を聞き、リオネルは柔らかく微笑んでいた。
しかし、すぐにはOKしない。

『だがジャン、俺達の当面の目的地は、迷宮都市フォルミーカだ』

『迷宮都市フォルミーカ……それ何?』

『フォルミーカは迷宮の街だ。俺達は怖ろしい魔物がたくさん居る、危険な迷宮へ潜るんだ』

『危険な迷宮へ潜る? ど、ど、どうして?』

『ああ、命を懸け、迷宮で己を鍛え、生と死の狭間で、修行するのさ』

『命を懸けた……生と死の狭間で……修行……』

『ああ、だから楽しい事ばかりじゃない。辛く苦しい旅にもなるぞ』

『楽しい事ばかりじゃない、辛く苦しい旅にもなる……』

『ああ、そうさ』

『迷宮………怖い! で、で、でも! おいら行くよ! 行きたいんだ!』

『どうして? 怖いんだろ?』

『……おいら、行くあてもない。仲間も居ない。ひとりぼっちなんだ』

行くあてもない。
仲間も居ない。
ひとりぼっち……

自分も散々、そう思って生きて来た。
血がつながった家族は居たが……心は孤独だった。

リオネルは再び微笑み、言う。

『……でも俺達と一緒に旅をするのなら、指示には必ず従って貰うぞ』

『や、約束するよ!』

『俺の指示に従うのは勿論、礼儀正しくして、仲間達とは仲良くしろよ。そして自分の持ち味を生かし、互いに敬い、切磋琢磨するんだぞ』

『リオネル様! おいら、必ず礼儀正しくするし、先輩を立てて、仲良くするよ! 妖精ならではの力を発揮し、一生懸命、頑張るよ!』

リオネルをまっすぐに見つめるジャンの眼差しは真剣であった。
発する波動にも、偽りは感じない。

ちらと、ケルベロス達を見れば、リオネルに一任するという波動を発していた。 

『分かった! じゃあ、一緒に行こう!』

『本当?』

『ああ、本当だ。約束を必ず守ると誓うのなら、今日からジャン、お前は俺達の仲間だ。俺達もお前を守る!』

リオネルが言い切ると、ジャンは、

『誓う! 誓うよ! うおおおおおお!!!』

と叫び、感極まったのか、目にいっぱい涙を溜め、
ぶんぶんぶん!と、空地中を飛び回ったのである。
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