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第365話「うふふ、どうしたの? リオネル君。私をそんなに見つめて」

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世界の根幹を支える最上級精霊、高貴なる4界王のひとり、
水界王アリトンが、加護の授与を言い終わった瞬間。

巨大な魔力がリオネルを包んだ。
と同時に、リオネルの心身には、地、風とはまた違う、
不可思議な力が満ちあふれた。

そんなリオネルを見て、アリトンは満足そうに言う。

『ふむ、わらわが授けた、大いなる水の加護が、なんじの心身に行き渡ったようじゃの』

確かに……
アリトンの言う通り、リオネルの心身には、何か底知れぬ力がみなぎっている。

魔法使いとしての本能。
底知れない探求心。

リオネルの心に強き願望が湧きあがる。

果たして、どのような加護……水の力を授かったのか、すぐに試してみたいと。

すると、アリトンは、リオネルの心を見抜いたかのように言う。

『ふむ、リオネルよ。わらわが授けた力、早速使ってみるかの?』

当然、リオネルの答えは決まっている。

『はい! ぜひ! アリトン様から頂戴した大いなる水の力、思い切り! 心置きなく! 使ってみたいです!』

このような時のリオネルは、取り繕う事無く、素直に、
そしてシンプルに、直球をど真ん中へ投げ込む。

『ほほほほ。ふふふふ。リオネルよ! なんじは、気持ち良いくらいに、真っすぐじゃの!』

『はい、こういう性分でして。何卒宜しくお願い致します』

『ほほほ、分かった! なんじが、そう言うだろうと思い、わらわが、とっておきの場所を用意しておる』

『アリトン様がご用意された、とっておきの……場所ですか?』

『うむ! リオネル、妾が用意したのじゃ! なんじが、数多のシルフ達と舞い飛び、遊んだ境地……オリエンスが生成した異界、風の谷のようにな』

水界王アリトンは、先日リオネルが空気界王オリエンスと邂逅した、
一部始終を知っている。

やはり精霊達は、リオネルの知らないところで、通じ合っているらしい。
情報を共有している……という事だろう。

ここでアリトンは忠実なる配下、ウンディーネのマイムへ命ずる。

『マイム!』

『は! アリトン様!』

『うむ、リオネルを、アガムへ連れていけい!』

『リオネルをアガムへ! はいっ! かしこまりました!』

わらわも、後ほど顔を出そう。それまで、様々な水の技の手ほどきをしてやるがよい!』

『御意!』

アリトンとマイムのやりとりを見守りながら、
リオネルは、つらつらと考える。

アガムとは?
一体どのような場所なのだろう?

リオネルは記憶をたぐった。
何かで、読んだ。
見覚えがある。

……アガムとは、『湖』という意味の言葉だと。

しかし、これだけは確信出来る。

アリトンがここまで言うのだ。
『風の谷』に匹敵する、水の精霊の境地……に違いない。

リオネルが、つらつら考えた瞬間!

今、立っている水宮城大広間の景色が不自然にぶれた。

同時に、ふわっと、足元の感覚がなくなっていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

気が付けば……
リオネルは、全く違う場所に立っていた。

こ!? こ、ここは!? す、凄い!!

さすがに、リオネルは驚いた。

空気界王オリエンスが生成したという『風の谷』以上の衝撃を受けたのである。

何故なら、リオネルが現在居る周囲の景色は、全てが真っ蒼。
水、水、水、水しかない、地平線まで延びる、一面が、水の景色だったからだ。

そして、リオネルは、湖面に足を踏み入れた時のように、水面に浮いていた。
今居る場所を見下ろせば、あの湖のように透明度が抜群。

岩だらけの底まで見通せる。

ただ、水底までは結構な深さであり、数百mはあるだろう。

『これが……アガム……巨大な湖なんだ』

思わず、リオネルが心の内でつぶやいた瞬間。

『ええ、リオネル君。ここがアリトン様がお造りになった異界、水の境地アガムよ。君の言葉通り、とんでもなく広い湖だと思ってくれれば良いわ』

『マイム様!』

……いつの間にか、リオネルのかたわらに、 
水色のヴェールをまとった美しい少女が、ふわふわと浮かんでいた。

アリトンの命により、ともに異界アガムへ赴いたウンディーネのマイムである。

リオネルは改めてマイムを見つめる。

マイムの髪はプラチナブロンドで肩の辺りまで伸びている。

切れ長の目で、瞳は碧眼。
鼻筋がすっと通り、唇は小さい。
身体はスレンダーでスタイル抜群である。

地の最上級精霊ティエラ様、風の精霊シルフのリーア様も、
そしてこの水の精霊ウンディーネのマイム様も、
タイプこそ違うが、皆、人の領域を超えた神秘的かつ独特の美しさがある!

ふたりの界王、オリエンス様、アリトン様に至っては、それに神々しさが加わるんだ。

『うふふ、どうしたの? リオネル君。私をそんなに見つめて』

『い、い、いや、何でもないっす!』

『うふふふふ♡ ……じゃあ、水の制御、私が教えてあげるね♡』

少しどぎまぎしたリオネルを見て、マイムはいたずらっぽく笑ったのである。
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