上 下
344 / 680

第344話「リオネル君のおかげだよお!」

しおりを挟む
『めでたい! 全属性魔法使用者オールラウンダーたる、リオネル・ロートレックが、我が加護を受け、風の一族とともにる!』

高貴なる4界王のひとり、空気界王オリエンスはひどく上機嫌である。

リオネルを『風のみの使徒』とする事は叶わなかったが……
加護を与えた事で、風属性の魔法は発動が円滑となり、効能効果が著しく上がり、
使用頻度も増す。

実際、リオネルは元が風属性の事もあり、今までに風の魔法を最も使っている。

この物語を読み、リオネルの行動を見守って来た皆様には、思い当たる部分があるだろう。

リオネル自身が告げた適材適所の言葉通り、風の魔法は痕跡を残さず、使用しても、他の属性魔法に比べ、周囲への影響が最小限で済むからだ。

例えば火炎による街中や森林で延焼、大量の水による水害、散乱した岩石が邪魔になったりする物理的な被害が、大気を操る風にはない。

風の一族の長たるオリエンスは、当然そういうメリットを熟知している。

また眷属たる『鳥の王』ジズを忠実な従士として送り込む事で、
地属性の魔獣ケルベロスに対抗。
リオネルとの関係がより強固なものとなり、状況も常に把握出来る。

それゆえ、オリエンスは敢えて『名』を追う事をやめ、
『実』を取った。

一方のリオネルも、自身のスタンスは貫きながらも、
今後の事も考え、『落としどころ』を決めたのである。

『見よ! リオネル!』

オリエンスの声にハッとするリオネル。

いきなり!
周囲に、とんでもない数の魔力個体が現れたのだ。

『我が眷属シルフ達を呼んだ! 祝いの空中舞いを執り行う。習得した飛翔魔法で、お前も、ともに舞うが良い!』

オリエンスの言う通りであった。
幽玄な風の谷の空には、リーアと風貌がほぼ同じ、数多の可憐なシルフが満ちていたのだ。

習得したての飛翔魔法で、オリエンス以下、リーアも含めた数多のシルフ達と舞い遊ぶ。

魔法使いなら、夢に見るような光景であり、体験である。

リオネルの返事は当然『はい!』であった。

ここでリーアも、

『ほら、一緒に行くよ、リオネル君! オリエンス様に粗相のないよう、私がフォローしてあげるから』

と優しく促してくれ……

『さあ! リオネル! 私が導こう! リーアとともに、ついて来るが良い!』

というオリエンス、リーアの後につき、水平飛行! 空中停止!

急速発進! 急停止!  急上昇! 急降下!

垂直急上昇! 垂直急降下!

空中1回転!  複数回転! バック回転! バック複数回転! きりもみ回転!

じぐざぐ飛行!等々!! 

長い間、舞い飛び、遊んだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

風の谷で、舞い飛び、遊んだ後……

リオネルは、オリエンスから『解放』された。

別れ際、上機嫌のオリエンスは、

『飛翔魔法は、迷宮、洞窟、遺跡など閉ざされた空間でも行使可能だ。お前を包んだ聖なる風が、持ち上げ飛ばしてくれる! 水中でさえ、泳ぐ際の推進力となるぞ!』

と教えてくれ、更に!
風の上位攻撃魔法『竜巻』『大嵐』を授けてくれた。
また『聖なる風』を、自身のみでなく、他者への防御治癒の魔法として使うようにと勧めてくれた。

そして心で念じれば、
風の精霊の境地たる『風の谷』へ、いつでも出入り出来る権利を与えられたのだ。

最後にオリエンスは、以前ティエラが告げたのと同様に、
『私以外、他の高貴なる4界王も、いずれお前の前に現れるであろう』
と、いたずらっぽく笑った。

そして手を大きく打ち振り、

『さらばだ! リオネル! また会おう!』

と別れを惜しんだ。

対してリオネルも、

『いろいろありがとうございました! またお会い出来るのを楽しみにしております!』

大きな声ではきはきと礼を言い、深く頭を下げた。

その瞬間!
リオネルの周囲の空間が歪み、足元の感覚がおかしくなる。

これは……街道から、境地『風の谷』へ踏み込んだ時と同じ感覚である。

気が付けば、リオネルは街道に立っていたのだ。

思わず声が出る。

「夢……じゃないよな?」

するとすかさず、リオネルの心に声が響く。
心と心の会話……念話である。

『もお! リオネル君! 何! 言ってるの、夢のわけ、ないでしょ!』

リオネルの目の前、5mほど斜め上空に!
外見は人間の姿をした、ひとりの少女が浮かんでいた。

ぱっと見で、年齢は16歳前後くらい、
凛とした顔立ちをした、美しい少女。

背格好は、身長150cmで、透き通るという表現がぴったりなほど肌が白い。

手足が細く、華奢な身体。  
その身体を、これまた透き通るような美しい純白の衣服で包んでいる。
そして頬をふくらませ、腕組みをする少女の背には、
透明な2枚の羽根が生えていた。

リオネルをいざなった、風の精霊シルフのリーアである。

苦笑するリオネル。

『あはは、ですよね、リーア様』

『そうよ! たとえ冗談でも! 夢なんて言ったら、ぷんぷんなんだからあ!』

リーアは、そう言いながら、柔らかく微笑んでいる。

『ありがと! リオネル君! 私達、風の長オリエンス様があんなに笑って、上機嫌なのは見た事がなかったよお!』

『え? そうなんですか?』

尋ねながら、リオネルも同じ事を考えていた。

たった今、邂逅したオリエンスの性格は、
「奔放、勝手気侭きままであり、はっきり言ってマイペース」
という伝承とは、あまりにも違うからだ。

『うん! そう! リオネル君のおかげだよお!』

『ええっと……お陰だとか言われても』

『うふふ♡ まあ、良いじゃない! 風の事で何かあったら、心の中で、私リーアを呼んでよね! すぐ相談に乗ってあげる! じゃあね! また!』

リーアは、ぶんぶん!手を打ち振り、空中で一回転し、ぱっと消えてしまった。

それを見たリオネルは、少し苦笑しつつ、リーアが消えた辺りへ向かい、一礼した。

一礼後、愛用の魔導懐中時計を取り出して見る。

まだ時間は午前10時前……だいぶ時間が経った気がしたが、違っていた。

異界である『風の谷』は時間の進行速度が現世とは違うのだろう。

微笑んだリオネルは、改めて歩き出し、旅を再開したのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地下アイドルの変わった罰ゲーム

氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。 周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。 それでは!

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

【R-18】何度だって君の所に行くよ【BL完結済】

今野ひなた
BL
美大四年生の黒川肇は親友の緑谷時乃が相手の淫夢に悩まされていた。ある日、時乃と居酒屋で飲んでいると彼から「過去に戻れる」と言う時計を譲られるが、彼はその直後、時乃は自殺してしまう。遺書には「ずっと好きだった」と時乃の本心が書かれていた。ショックで精神を病んでしまった肇は「時乃が自殺する直前に戻りたい」と半信半疑で時計に願う。そうして気が付けば、大学一年の時まで時間が戻っていた。時乃には自殺してほしくない、でも自分は相応しくない。肇は他に良い人がいると紹介し、交際寸前まで持ち込ませるが、ひょんなことから時乃と関係を持ってしまい…!? 公募落ち供養なので完結保障(全十五話)です。しょっぱなからエロ(エロシーンは★マークがついています) 小説家になろうさんでも公開中。

人生の『皮』る服(少女たちの皮を操って身体も心も支配する話)

ドライパイン
大衆娯楽
んごんご様主催「DARK SKINSUIT合同」にて寄稿させて頂きました作品です。 挿絵もございますため、よろしければPixiv版でもご一読いただけますと幸いです。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

幼なじみに毎晩寝込みを襲われています

西 美月
BL
恭介の特技は『一度寝ると全然起きない』こと、 『どこでも眠れる』こと。 幼なじみとルームシェアを始めて1ヶ月。 ある日目覚めるとお尻の穴が痛くて──!? ♡♡小柄美系攻×平凡受♡♡ ▷三人称表記です ▷過激表現ご注意下さい

忍びの青年は苛烈な性拷問に喘ぎ鳴く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...