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第337話「美味しいでしょ? 」

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クローディーヌによる個人的な送別会をして貰ってから3日後の早朝……
遂にリオネルはワレバットの街を後にした。

立つ鳥跡を濁さず……で、自宅の荷物は全て片付けて収納の腕輪へ。
ガラクタに近いものもあったが、とりあえず放り込んだ。

旅先及び、フォルミーカ迷宮攻略に備え、買い物も結構したのだが、
こちらも全て収納の腕輪へ。

しかし、さすが大きな街が入る容量を誇るだけはある。
全然大楽勝で余裕があった。

そして、別れのあいさつを告げたのは、先に述べたローランド、ブレーズ、
ゴーチェ、クローディーヌだけではない。

律儀なリオネルは、冒険者ギルド総本部のお世話になった各担当者へきちっと、
丁寧なあいさつをしたのだ。

……という事で心置きなく、ワレバットの街を出発したリオネル。

目指すは、隣国アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカ。
ワレバットの街からは、約300kmの長旅である。

正直、今のリオネルなら、約10回、転移魔法を発動すれば、数分で到着する。

効率のみ重視するのならば、確かにそうするのがベストだろう。

しかし、久々の長旅、しかも今回は国外への旅。
少しは風情がある旅にしたいとリオネルは考えた。

結果、道中の基本は徒歩、または駆け足で、
時たま、転移魔法も使うという『のんびり旅』にすると決めたのである。
もしも気が変われば、一気にフォルミーカまで跳べば良い。

さてさて!
リオネルがワレバットの北正門を出れば、街道がのびていた。

天気は今日も快晴。
見上げると大空は雲ひとつない。
程よい、そよ風がほほを優しくなでる。

朝早いせいか、街道を行きかう人はあまり多くはない。
もう少し時間が経てば、冒険者及びその志望者は勿論、修行中の騎士、
商人、修道僧、巡礼の親子、農民など、様々な人が街道を歩くだろう。

ふと、王都オルドルを出た時を思い出す。

あの頃の自分は、失恋を経験し、
冒険者としてやっていく目途がついた、そんな時だった。

これから、いろいろな人と出会い、ワレバットへ来て、一人前になる。
漠然とした思いで旅立った。

思った通り、いろいろな人との出会いと別れを経験した。
そして、成長もしたという実感がある。

少しは大人になれた。

慢心するわけではないが、けして半人前ではないと思う。

でも、俺はまだまだ1人前じゃない、とも思う……

自問自答し、ふっと、苦笑したリオネルは、街道を元気よく歩いて行った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

たっ、たっ、たっと街道を軽快に歩くリオネル。
いつもの癖で、遠方&広範囲に索敵……魔力感知を張り巡らせている。

心の中へ、いろいろな情報が飛び込んで来る。
しかし、取捨選択し、
悪意、敵意、そして助けを求めるもの以外は、華麗にスルー。

但し!
リオネルは好奇心旺盛、『とんでもなく面白そうなもの』は例外。
それが、リオネルの基本スタンスだ。

街道をしばし歩くと、人工的な建築物がなくなり、周囲は雑木林となり、
更に深い森となって行く。
とともに、空気も格段に美味しくなって行く。

「街を離れると、空気が、清々すがすがしいなあ!」

歩きながら、思わず声にしたリオネル。

と、その時。

『美味しいでしょ? 空気はね、魔力の素、マナを含むとともに、生物の根幹を支えるのよぉ』

念話で誰かがささやいた。

若い女子の声である。
透明感のある美しい声だ。

「え?」

と、驚き、リオネルが周囲を見やれば、誰も居ない。
索敵にも捉えられない ……

「おっかし~な……視認はともかく、索敵……魔力感知にもかからないなんて」

首を傾げるリオネル。

すると、そんなリオネルの気持ちを見透かすように、更に声が響く。

『ダメダメ、もっと心と身体をフラットにしないと、私の気配は分からないし、姿も見えないよ♡』

どうやら……悪意や敵意はなさそうだ。
でも、声の主は、人間ではないらしい。

旅立って、すかさず、未知の存在との遭遇……ってわけか。

よし!
彼女と、やりとりをしてみるか。

『了解です』

素直に答えたリオネルは、呼吸法を使い、心身を落ち着かせる。

すると!
索敵に反応があった!

リオネルの目の前、5mほど斜め上空に!

声の主が徐々に見えて来る。
外見は人間の姿をした、ひとりの少女が浮かんでいた。

ぱっと見で、年齢は16歳前後くらい、
凛とした顔立ちをした、美しい少女であった。

背格好は、身長150cmのティエラ様と同じくらいか。

しかし褐色で健康的な肌のティエラ様と違い、
透き通るという表現がぴったりなほど肌が白い。

手足が細く、華奢な身体。  
その身体を、これまた透き通るような美しい純白の衣服で包んでいる。

宙に浮かぶ少女が、人間でない事はすぐ判明した。
彼女の背には、透明な2枚の羽根が生えていたのである。
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