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第335話「リオネルの性格、気持ちを知る3人は、 誰も引き留めようとしなかった」

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親友ジェローム・アルナルディと想い人エリーゼ・カントルーブ……

ふたりの人生の新たな門出を祝い、ワレバットへ戻ったリオネルは、
早速自身の旅立ちの準備を始めた。

まずは思い出深い自宅を引き払う手続きを行う。
リオネルは、以前師モーリス・バザンと取り決めを交わしていた。
フォルミーカ迷宮へ旅立つ際、引き払いの手続きを行うと。

魔法鳩便で手紙を送り、引っ越す旨をモーリスに伝えた。

そして、冒険者ギルド総本部へ赴き、
ワレバットの領主で、冒険者ギルド総本部の総ギルドマスターを兼務する、
ローランド・コルドウェル伯爵。

サブマスターのブレーズ・シャリエ騎士爵。
その副官ゴーチェ・バラデュールへ、それぞれ別れのあいさつを行った。

ローランドは、翻意を促しても無駄だと分かっていたのだろう。

「達者でな、リオネル君。君の夢が叶う事を祈るよ。己の限界を超え、君自身が何者であるかと、突き止められる事をね」

と微笑み、敢えて引き止めなかった。

そして、

「君は、私の理想を体現してくれた存在だ」

とほめてくれた。

思わずリオネルが、理想とは?と尋ねれば、
ストレートには答えなかった。

「王国騎士、兵士、という戦う者には限界がある。現状では残念ながら、本来の役割を果たしていない」

と言い、苦笑したのだ。

「数多の魔物を倒し、いくつもの町村を復興させ、難儀する民を救った君になら分かるはずだ」

とも言う。

ローランドの言葉を聞き、リオネルは考える。

王国を根幹を支えているのは数多の庶民、働く者達。
戦う者……つまり王国騎士、兵士は、本来彼ら彼女達を救う為に戦うべきなのだ。

しかし危難に陥った際、戦う者が対応するのは、王族、貴族が必ず最優先。
庶民はいつも一番後回し、下手をすれば放置、見捨てられてしまう。

つらつら考えるリオネルに対し、ローランドは更に言う。
リオネルが考えた事は見抜かれていた。

「うむ……リオネル君が今、考えている矛盾……今は亡き私の息子は、王国騎士団長の子ゆえ、その矛盾に悩み、家を出て、とある義勇団へ身を投じ、庶民を守る為、魔物と戦って死んだ」

「………………」

「息子の死に大きなショックを受けた私は王国に対し、騎士団、王国軍の在り方を変えるべき、人手が足りないのなら増員すべきだと上申した。しかし、結局受け入れて貰えなかった」

「………………」

「現状を変える方法が何かないか……考え抜いた私は、王国を離れ、孤高の戦士となり、ひたすら難儀する人々の為に戦った。そしてひとつの結論へ至った」

「………………」

「荒くれ者の集団にすぎなかった冒険者ギルドに、社会的な意義を持たせ、有償とはなるが庶民を救うべき戦う集団として位置付けるべきだとな」

「………………」

「ちょうどその時、復帰を打診して来た王国に、冒険者ギルド総本部があるワレバット領主就任の希望を告げ、同時に総マスターへ就任したのさ」

「………………」

「そして、現在に至っている」

「………………」

「リオネル君は、限界突破という己の目標を目指しながら、難儀する数多の人々を救ってくれた冒険者だ。まさに私の理想とする生き方をしてくれている」

「………………」

「その生き方は……今は亡き息子が目指していた生き方でもある」

「………………」

「残念だが、息子は志半こころざしなかばでった。しかし……君はけして死ぬな。求める理想を貫き、己の人生を全うしてくれれば嬉しい……頑張れよ」

と、励ましてくれたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そして、ブレーズはといえば、ローランド同様、リオネルを引き止めなかった。

「リオネル君」

「はい」

「英雄の迷宮で、君の桁違いな戦いを間近で見た私には分かります」

「何をでしょう?」

「リオネル君は、ソヴァール王国一国に収まるような器ではありませんね」

「………………」

「ここだけの話ですが、もっと広い世界に出て、たぐいまれな能力を発揮すべきだと思いますよ」

「………………」

「ソヴァール王国貴族たる私が、立場的に言うべき言葉ではないかもしれませんがね」

「………………」

「それにリオネル君はまだまだ発展途上です。広い世界に出て、数多の人達と出会い、視野を広げ、いろいろな体験をし、更に成長すべきだと私は思います」

「………………」

「但し、命は大切にしてください。君はこの世界にとって、宝なのですから」

最後にゴーチェは、

「どうせ、止めてもムダなんだろ?」

と、リオネルへ尋ね、

「貴族令嬢との見合いを成立させ、リオネル君と同志になり、ともにソヴァール王国を盛り立てられると思ったのに残念だ」

と苦笑した。

そして真面目な顔つきで、いきなり頭を下げた。

「ジェローム・アルナルディを助けてくれてありがとうな!」

「え?」

リオネルが驚くと、ゴーチェは言う。

「いや、俺がさ。王都で行われた馬上槍試合ジョストの会場で、初めてジェロームに出会った時、良い奴だと思ったが、誰も信じないような暗い陰があった。あいつが送った薄幸な人生により生じたものだと思い、同情したんだ」

ゴーチェも……アルナルディ家の噂を知っていたのだ。

「しかしだ! リオネル君と知り合い、ともに暮らすようになってから、奴の暗い陰は消えて行った。この前会った時は、こんなに明るく朗らかだったのかと思ったよ」

ゴーチェは更に言う。

「カントルーブ男爵家へ、ジェロームが『入り婿』したと聞いて、本当に良かったと思う。ローランド閣下、ブレーズ様ともご相談し、同志として、ジェロームを助けてやろうと思うから、安心してくれ」

ゴーチェの言葉を聞き、リオネルは、

「ありがとうございます! ジェロームの事、何卒宜しくお願い致します」

と頭を下げたのである。

リオネルから旅立ちのあいさつを聞いた、ローランド、ブレーズ、ゴーチェ3人の反応は、まさに「三者三様」であった。

しかし、リオネルの性格、気持ちを知る3人は、
誰も引き留めようとしなかったのである。
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