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第332話「ジェロームの人生において、自分は素敵な脇役になれただろうか」

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薄幸な人生を歩んで来たジェローム・アルナルディは、
遂に巡り合った想い人、愛するエリーゼとの婚約が確定。
彼女の夫としてカントルーブ男爵家の『入り婿』となる事が決定した。

3者会談が終わり……正式に婚約が発表された時。
リオネルは城館内の中庭で、追加発注された案件。
従士長以下へ、『武技、格闘の指導』を行っているところであった。

急ぎ中庭へ報せに赴いたバンジャマンから、祝いの報を聞いたリオネルは、すぐにジェロームとエリーゼへ会いに行った。

ジェロームとエリーゼは、
ふたりにとって父たるアロイス・カントルーブ男爵とともに書斎に居た。

仲睦まじく寄り添い、しっかりと手を握ったジェロームとエリーゼ。
満足そうに頷くアロイス。

18歳の少年、15歳の少女ふたりの婚約は城館の誰もから祝福されていた。
バンジャマン、使用人達、従士長、従士達の全員から。

従士のひとりが一報を入れに走ったので、まもなくレサン村でも歓声が湧きあがるはずだ。

リオネルはうやうやしく一礼し、顔を上げた後、大きな声で言い放つ。

「閣下、おめでとうございます!」

「うむ、ありがとう、リオネル殿」

「おめでとうございます! エリーゼ様! おめでとう! ジェローム!」

「ありがとうございます! リオネル様!」
「ありがとう! リオネル!」

ここでリオネルはジェロームへ声をかける。

「ジェローム」

「ん?」

「俺、考えていた事があるんだ」

「考えていた事?」
「何でございましょう? リオネル様」

「そろそろ今回の依頼も完遂する。ワレバットへ戻り、冒険者ギルド総本部へ赴き、完遂報告を含めた事務処理を行わないといけない」

リオネルがそう言うと、ジェロームは思い出したように頷く。

「お、おお! そうだな!」

「え? ジェローム様が?」 

しかしエリーゼは、ジェロームが旅立つと聞き、少し不安そうであった。

ふたりを見て、リオネルは微笑む。

そして意外とも言える言葉を放つ。

「それでさ、俺ひとりでワレバットへ戻ろうと思うんだ」

「え!? 何だ、それ!」
「リ、リオネル様!!」

驚くジェロームとエリーゼ。

更にリオネルは言う。

「ワレバットで事務処理をして、俺の自宅へ置いてあるジェロームの荷物も回収し、この城館へ戻って来るよ」

「そ、そんな! 悪いよ! そこまでして貰ったら!」
「リオネル様!!」

「大丈夫! 大丈夫! それでさ! 婚約のお祝いを贈りたいんだけれど……ふたりにはペアのアミュレットを贈るのとともに、ワレバットで様々な物資を購入して差し入れをしたい」

親友ジェロームと妻になるエリーゼの為に尽くしたいという、リオネルの提案。

ここで言葉を発したのが、ずっと会話を聞いていたアロイスである。

「リオネル殿! 我が息子と娘へ! そして我がカントルーブ男爵家への深きお気遣い! 心より感謝致しますぞ!」

感極まり目に涙を浮かべたアロイスは、深く頭を下げたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日……
早速リオネルはひとり、ワレバットへ出発した。
当然乗って来たレンタル馬車を使って。

頃合いを見て、周囲に他者が居ない時、リオネルは一気に転移魔法で跳んだ。
その為、1時間かからずに、ワレバットへ戻る事が出来た。

ワレバットへ戻ったリオネルはすぐ冒険者ギルド総本部へ。

依頼の完遂報告を行い……
自分の所属登録証と、預かった委任状を見せ、ジェロームの所属登録証も渡し、
担当者に事務処理をして貰った。

結果、ふたり分の報奨金と受取証を貰う。

事務処理終了後……馬車を返却したリオネルは、新たな馬車と馬を購入。
買い物にいそしんだ。

まず、貴金属店へ……
ジェロームとエリーゼの為におそろいのアミュレットを購入。
武器防具、魔法ポーション、食料、日常生活必需品、資材等々、
様々な物資をたっぷりと購入し、馬車に積み込んだ。

そして自宅へ戻り、馬車に荷物を積んだまま、ハーネスから馬を外し、世話をして、
邸内へ。

残されていたジェロームの荷物をまとめ、戸外の馬車へ積み込んだ。

再び、邸内へ戻ったリオネル。
ジェロームの荷物を片付けた彼の部屋はがらんとして、やけに広く感じられた。

軽く息を吐き、リオネルは、記憶をたぐった。

とても短い間ではあったが……
ひょんな事で、同い年で同じように実家から追放されたジェロームと出会い、
冒険者としてともに修行し、泣き笑い、ともに喜びを分かち合い、
いくつもの依頼を完遂した日々を……

もうこの家へ、ジェロームが戻って来る事はない……

そう思うと、ひどく感傷的になる。

でも!
と、リオネルは首を横へ振った。

心の絆を結んだ自分とジェロームの友情は、青春の思い出は絶対に消える事はない。

想い人エリーゼと出会い、素敵な幸せをつかみ、新たな道を歩み出したジェロームを、笑顔で送り出してやろうと思う。

ふと、ジェロームとエリーゼの晴れやかな笑顔が浮かんで来る……

リオネルは考える。
ジェロームの人生において、自分は素敵な脇役になれただろうかと。

素敵な脇役になれた!
とは言い切れないが、ジェロームが幸せをつかむアシストは出来た、かな……

満足そうに微笑んだリオネルは、テイクアウトした料理を食べ……
久々にゆっくりと自宅で眠ったのである。
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