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第321話「怯えて城館にこもるなど許されません!」

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ジェロームをレサン村へ留守居役として残し、単独で出撃する事を決めたリオネル。

すると!
あれだけ頑なに討伐同行を望んでいたエリーゼは、意思を曲げ、あっさりと折れた。

一方、ジェロームは収まらない。
というか憤慨していた。

「リオネル!」

「ん?」

「ん? じゃない! ひとりで戦うなんて! い、一体! 何を考えているんだあ!」

「ジェローム。俺はひとりで戦うなんて言ってない。お前を守備担当に回すだけだ。ゴーレムとともに、エリーゼ様、バンジャマン様に助力し、レサン村をしっかり守ってくれ」

「な、納得いか~ん!」

「……納得がいかなくても文句は言わせない」

「な、何!?」

「ジェローム、お前は親友だ。しかしクランのリーダーは俺で、お前の師も俺だ。部下であり、弟子でもあるお前は、俺の命令には従わねばならない……違うか?」

「ぐうう……」

「魔物を倒すだけでなく、依頼主を護るのも、重要な仕事だ」

「ぬうう……」

「ここまで言っても納得しない、従えないのなら、すぐワレバットへ戻って構わないぞ」

ここで「ずいっ!」と身を乗り出したのは、エリーゼである。
何と、柔らかく微笑んでいた。

「ジェローム殿!」

「は、はい!」

「リオネル殿の指示に従いましょう。私も従いますから……レサン村を、ともに守ってくださいませ」

ジェロームは、驚いた。
あれだけ頑なになっていたエリーゼが、柔軟になり、自分もリオネルの指示に従うと申し入れてくれたのだ。

こうなると自分だけが駄々っ子のようにふるまうのは、騎士の美学に反する。

「分かりました、エリーゼ様。自分とともにレサン村を守りましょう!」

これで方針は決まった。

大きく頷いたリオネルは作戦の説明に移る。

「すぐに作戦を発動します。まずは地の魔法を行使し、レサン村の周囲を頑丈な岩壁で囲みます。そしてゴーレムを10体配置、守備にあたらせます」

軽く息を吐き、リオネルは作戦の説明を続ける。

「明日の朝、自分は出撃し、先に展開している使い魔達と合流。残りのゴーレム10体を呼び出し、周辺のゴブリンどもを討伐します。レサン村の村内では、ジェロームの指示に従って頂き、エリーゼ様は、バンジャマン様、自警団の方々とともに守りを固めてください」

リオネルの説明を聞き、渋々という感じで頷くジェローム。

一方、エリーゼは再び問う。

「本当におひとりで大丈夫なんですか?」

対してリオネルは笑顔。

「大丈夫です。配下が居ますし、以前ひとりでゴブリン1,000体以上を倒した事もありますし」

しれっと答えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

打合せが終わる少し前、リオネルは念話でケルベロス、アスプ達へ状況を確認。
数百頭のゴブリンを倒した事、敵の巣穴……本拠地を発見した報告を受けた。

村の周囲3km以内にゴブリンは皆無。

という現状を確認の上、戸外へ。

村の広場で先の1体に加え、ゴーレム10体を出した。

「ま!」
「ま!」
「ま!」

気合の入った声で、発動をアピールする身長2m強のゴーレム達。
この10体を村の防衛要員として、配備する。

先ほど、1体が作業を手伝った事もあり……
エリーゼ、バンジャマンは勿論、
遠巻きにしていた村民達に対する、視覚効果もばっちりだ。

エリーゼに頼んで、正門を開けて貰ったリオネルは、ゴーレムを出し、
護衛をさせながら、防護柵の近くで地の魔法を行使。

頑丈な岩壁で、村の周囲を囲っていった。

既存の防護柵の3mほど前に、岩壁を出現させる形だ。

地の魔法はリオネル自身の発動である。
だが、表向きは地の魔法を込めた杖で、
発動させたように見せているのは言うまでもない。

立ち会ったエリーゼもバンジャマンも、このような魔法を目の当たりにした経験が少ないらしい。

リオネルが、高さ10m以上ある見事な岩壁をどんどん造るのを、
呆然として見つめていた。

少し戸惑ってもいる。

エリーゼは言う。

「リオネル殿! ありがとうございます! 深く深く、感謝致します! ですが! こ、この防護壁……私は頼んでいなかった……ですよね?」

「はい! 通常は有償で請け負いますが、今回は……特別サービスです。ギルドからお聞きになっているかもしれませんが、自分達は魔物討伐以外にも、いろいろケアが出来ますので、もしも何かあるのなら、ご検討をお願いします」

……そんなこんなで、やがて作業は終わった。

到着後、ず~っと働きづめのリオネルとジェロームへ、
「ありがとうございます」と礼を言い、
エリーゼはバンジャマンとともに、宿舎として村の空き家へ案内してくれた。

馬車も空き家の脇に置き、馬は村の厩舎へ入れてくれた。

リオネルとジェロームは、礼を言い、頭を下げる。

気が付けば、もう陽は沈みかけていた。

カントルーブ男爵家の城館は、レサン村から約1㎞の距離にあると聞いている。

であれば、エリーゼとバンジャマンはそろそろ城館へ戻るに違いない。

リオネルがそのような認識で話すと、エリーゼは首を横へ振る。

「いえ、父が倒れて以来、私とバンジャマンはこのレサン村に泊まり込みで陣頭指揮を執っております。たまに父の顔を見に城館へは戻りますが」

「レサン村泊まり込みで陣頭指揮を?」

リオネルが感心すると、エリーゼは誇らしげに言う。

「はい! 領主たる父は、常に自ら先頭に立ってゴブリンと戦っていましたから!」

「……そうだったのですか」

「はい! 私は父を尊敬しております! 代行で若輩の私が、怯えて城館にこもるなど許されません! そんなふぬけでは、村民の信頼を得られませんわ!」

エリーゼは健気にそう言うと、にっこりと笑った。
しかし、強い言葉とは裏腹に、全身からは疲労感がにじみ出ていた。

そんなエリーゼの姿を見て、ジェロームは心の琴線に触れたのか、
慈愛を込めて見つめていたのである。
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