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第315話「静かな、しかし熱いフィストバンプを交わした」

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「これが俺の生い立ち、ここまでの人生さ。結構……波乱万丈だろ?」

ジェロームは「ふう」と息を吐き、リオネルへ向かい、苦笑した。

リオネルには分かる。
ここで下手な同情は禁物だと。
ただ、ジェロームの思いのみ汲めば良い。

だから、淡々と言う。

「ああ、いろいろあったんだな、ジェローム」

「おう、そして、リオネル。お前みたいな、とんでもない化け物と出会っちまった」

再び苦笑し、呆れてジェロームは言い切った。

対して、リオネルも苦笑。

「ジェローム。俺は、とんでもない化け物なのか?」

「ああ、そうさ、良い意味で化け物だよ、リオネル。俺は、お前の身の上話も聞きたい」

「俺の身の上話か」

「ああ、俺はお前にとてもシンパシーを感じる。いろいろと共通的な部分があると思う。秘する奥義があるから、無理にとは言わないが、話せるレベルで構わない。申し訳ないがお願いしたい」

ジェロームは、確かに自分と家族構成は似ている。
幼い頃、母を亡くし、兄がふたり居るのも一緒。

しかし、自分とは育って来た環境が違う。
とんでもなく過酷な環境の中に心身を置いて来た。

凄絶な人生に対し、第三者の自分が、下手な言い方は出来ない。

だが……そんなジェロームの支えに少しでもなるのなら、
全てを話す事は出来ないが、自分の身の上を伝えたいと思う。

「……ああ、全てを話す事は出来ないが、身の上を話すのは構わないよ」

「ありがとう。じゃあ、俺もお前と同じで質問をはさまず、ひと通り聞くよ」

「分かった……じゃあ、話すぞ。俺は王都で生まれ育った。魔法の修行は3歳から始めたが、全く上達しなかった」

「………………………」

「魔法の成績は、知識のみでは評価されない。あくまでも実践、つまり発動、
行使した、効能効果の結果ありきだ」

「………………………」

「俺は知識に関しては学ぶ事で得たが、実践……つまり発動が、ど下手で、初級の魔法しか習得が出来なかった」

「………………………」

「何とかしたいと思い、15歳になって魔法学校へ入学した。一生懸命勉強したが、やはり実践がダメ。そしてとんでもなく臆病者だったから、魔物と戦う事も避けていた。だからレベルが全然上がらなかった」

「………………………」

「来る日も来る日もレベルが上がらない、魔法が使えない日々。魔法の知識だけはあったから、俺は、がり勉の超劣等生、耳年増の屑野郎と、同級生達からは馬鹿にされた」

「………………………」

「でも俺は魔法が大好きだから諦めたくなかった。一生懸命勉強して、更に知識を得て実践に励んだ。通常はそれで様々な魔法を習得して、レベルも上がって行く。でも、やっぱりダメだった」

「………………………」

「同級生たちは、超劣等生の俺を散々馬鹿にした。ガンガン罵倒した。……ここでひとつカミングアウトしよう」

「………………………」

「俺の名はリオネルだが、ロートレックは仮の姓だ。かと言って全くのでたらめじゃなく、どこかに実在する姓だ。……つまり俺はリオネル・ロートレックではない」

「!!!!………………………」

「……伏せておいて欲しいが、俺の本名は、リオネル・ディドロ。母はお前と同じで、幼い頃亡くなった。縁切りされてしまったが……家族は、父、兄ふたりの都合3人だ」

「………………………」

「宮廷魔法使いのジスラン・ディドロは俺の父。そしてジェローム同様に兄がふたり居るけど、ふたりとも魔法省のエリート官僚。俺だけが超劣等生の外れで、同級生には、父親、兄達と比べられ、屑、ゴミと散々罵られていたんだ」

「ふうう~~~…………………」

ジェロームは最初に交わした約束を守った。

リオネルの告白に衝撃を受けたようだが、
無言を通し、大きく息だけを吐いたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルの話は更に続く。

「俺は……自分でも腹立たしいくらいに、情けない超劣等生だった」

「………………………」

「魔法学校は卒業時、トップの首席はレベル20,優秀な者はレベル15超え、半人前の魔法使いといわれる一般生徒の成績でもレベル10超え……しかし、俺はたったレベル5だった」

「………………………」

「魔法使いとして詰んでいた俺は仕方なく、授かるスキルに一発逆転を賭けた。自分でも大甘だったと思うがな」

「………………………」

「しかし、授かったのはとんでもない外れのスキルだった」

「………………………」

「失意のうちに、自宅へ帰った俺は、くそバカ! ゴミ野郎! ディドロ家の汚物! 人生の負け犬! いくら言っても足りん! この恥さらしめえ! と父から罵倒された」

「………………………」

「兄達からも散々罵倒され、挙句の果てに修行という名目で、卒業式の翌日、実家から追放された。名前を無理やりリオネル・ロートレックへ変えられて、1か月以内に王都を出ろとも言われたよ」

「………………………」

「実家を放り出された俺は、宿泊する宿屋を確保した上で、冒険者となり、修行に励んだ」

「………………………」

「宿屋のご主人が元冒険者の方で、冒険者の心得、人としての生き方、もろもろを手ほどきして貰い、凄くお世話になった。感謝してもしきれない!」

「………………………」

「最初の依頼受諾は、魔法使いならば誰でも出来る薬草採取だった。最初に倒したのは最弱のスライムだった。レベル5の俺は……スライムを倒すのがやっとだったんだ」

「………………………」

「薬草を採取しながら、魔物と戦うのは凄く怖かったが、死ぬ思いで勇気をふるった……スライム討伐から始まり、苦労はしたが、何とかゴブリンを倒せるようになった」

「………………………」

「それから……地道に戦いを続け、ゴブリン渓谷も攻略。レベルもようやく上がり、冒険者稼業にも慣れて来た俺は、実家を追放されてから1か月目に王都を旅立ち、このワレバットへ来た」

「………………………」

「その間、旅の途中、いろいろあった」

「………………………」

「多くの人達と、出会い、触れ合い、別れを重ねつつ、様々な魔物を倒した。経験を積み、種々の魔法、特技を習得し、遂に英雄の迷宮も踏破した」

「………………………」

「更にレベルも上がり、冒険者ランクもAとなった。そしてジェロームと出会った。少々、はしょったが、そんな感じだ」

リオネルの話が終わった。

ジェロームはしみじみと言う。

「……そうか。リオネル。お前、あの名門魔法使いディドロ家の3男だったのか」

「ああ、そうだよ、ジェローム。最低最悪、屑の3男と言われていた」

「最低最悪、屑の3男……そうか……リオネル、お前もさ、……いろいろとあったんだなあ」

対して、リオネルは柔らかく微笑んでいる。

「いやいや、いろいろとあったが、ジェロームほどじゃない。俺は、もっともっと頑張るよ」

リオネルの言う事はまさに本音。
自分は辛い境遇のジェロームより、まだまだ恵まれていると。

ジェロームも、感じていた。

はしょったという言葉通り、多くを語らないが、
ここまで強くなったリオネルは、とんでもなく過酷な修行を続けて来たと確信する。

ジェロームは、自分も、もっともっと修行して、強くなりたいと思う。

「でもさ、リオネルはたったレベル5だったのに、今はとんでもない強さで、レベルも23。冒険者ランクもAで堂々と胸を張れる。ここまで成長したのは、凄いと思うぜ」

「そうか? ジェローム、俺は、まだまだだよ」

「俺もまだまださ! リオネルを目標に頑張る! だから、これからも導いてくれよな」

「おう!」 

ふたりの少年は、大いに共感。
静かな、しかし熱いフィストバンプを交わしたのである。
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