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第304話「確実に心の絆を結んでいた」

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リオネルとジェロームは引き続き、砦内を進軍&探索中。
最奥のオークキングが居る司令官室へ向かっている途中だ。

「世界は未知にあふれてる、か……成る程な」

ジェロームはリオネルに同意。
大きく頷いた。

「まあ、この世の中は、常識では考えられない事が起こるって、良くあるものなあ、そうだろ? リオネル」

「ああ、そうさ、ジェローム」

「ま、俺にしてみれば、リオネルの存在自体がさ、常識外って事だな」

「俺が常識外? そうか……まあ自分でもそう思うよ。実家に居た時は超劣等生で、平凡以下の愚鈍ぐどんって言われてたけどな」

「おいおい! リオネル、愚鈍って、ひで~な。でもまあ、俺も似たようなものさ。不用品とかって、しょっちゅう言われてた」

「……不用品かあ……それも、愚鈍同様に、酷い言い方だなあ。だが、ジェロームはもう不用品じゃないぞ。こんなにオークを倒し、難儀していた村民の役に立っている」

「おう! さっきオークを倒した時、自分でも思った。だが、リオネルから改めてそう言って貰えると実感するよ」

「ああ、ジェローム! 自信を持て! お前は不用品なんかじゃない! この世界で必要な人間だよ!」

きっぱりと言い切った、リオネルの励ましの言葉が、
ジェロームにとっては本当に嬉しかったらしい。

「あ、ありがとう! リオネル! お前にそう言って貰えると本当に嬉しいよ!」

「よし! じゃあそろそろ行こう! それとジェローム、この探索も修行だぞ。俺や魔獣が索敵するけれど、自分でも敵が捕捉出来るよう、地道に練習しておくんだ」

「わ、分かった!」

「うん! その代わりさ、オークキングを含め、この本館内のオークどもは、俺やケル、アスプ達に討伐を任せてくれよ」

「ああ、了解だ! ありがとう!」

礼を言ったジェロームは、軽く息を吐くと、先ほど砦に向かう道中同様、
辺りを注意深く、睥睨へいげいし始める。

自身の革兜に装着した携帯魔導灯、
そしてリオネルが呼び出した魔導光球に照らされる荒れ果てた砦本館……
どこかに人を喰らうオークの残党が潜んでいる。

常人ならば、その不気味な雰囲気と恐怖から物怖じするに違いない。

しかし、ジェロームは落ち着き払い、じっくりと周囲を観察していた。

ジェロームの索敵能力にどれくらいの素養があるのか、
どれくらい伸ばせるのか、正直、リオネルには分からない。

しかし、これから冒険者としてやっていくにあたり、注意深さと勇気は必須である。

またジェロームは、真面目かつ誠実な人柄で、
人の話を素直に聞き、ひたむきに努力する向上心がある。
また辛い過去を背負っているのか、負けず嫌いな反骨心もある。

自分は友として、そんなジェロームに尽力し、成長に貢献する。

彼の人生における良き脇役でありたい。

そうリオネルは思ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルとジェロームは更に砦本館の奥へと進む。

途中、何体か、オークどもが潜んでいたが、リオネルは掃討を、
魔獣軍団、ケルベロスとアスプに任せた。

オークキング討伐に集中する為である。

また、魔獣軍団の戦闘訓練とストレス発散の意味もあった。

リオネルは、魔力感知でその様子をしっかりと把握していた。
ジェロームにも、その旨を告げておく。

しばらくして、戦いの気配と、
オークどもの身の毛もよだつ断末魔の声も聞こえて来た。

肩をすくめるジェロームだが、リオネルは平然としていた。

そういえばと、ジェロームは思い出す。

オークキングを倒す為、
リオネルが自分に見せるという奥義、能力とは一体なんだろう。

リオネルはこれから、レベルが3倍近く違う難敵に挑むのに、
全く臆していない。

その自信の根幹が、その奥義、能力だとしたら……
ぜひ見たい、見届けたいとジェロームは思うのだ。

リオネルが言う、武人、術者は必殺の奥義を秘して、簡単には披露しないという、
暗黙のルールは、ジェロームにも理解出来る。

いくら首魁オークキングを倒す為とはいえ、それを敢えて見せるというのは、
自分に対する信頼のあかし

もしも、奥義、能力を見せたくないのなら、
砦の構内で、ゴーレムとともに待機する事をジェロームに指示したはず……

はっきり言って、自分が居なくとも、
リオネルと配下達だけで、今回の依頼は楽に完遂出来たと、
ジェロームは、確信出来る。

また「自分の修行の為に、わざわざこの依頼を選んでくれたのだ」とも思う。

そもそも、リオネルは国境を越え、
隣国アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカへ旅立つ予定だった。

それなのに……
冒険者として生きて行く事を決意した自分を助ける為、
ワレバットにとどまってくれている。

ジェロームは、そんなリオネルの気持ちに応えたいと考えるのだ。

これまで、同世代で気を許し合う友のいなかったふたりは……
確実に心の絆を結んでいたのである。
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