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第293話「俺は必要とされているんだ!」

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冒険者ギルド総本部からの依頼を受諾して、5日後の早朝……
その間、更に買い物をしたり、模擬戦を行い、馬車をレンタルし、必要な荷物を積み込み、万全の準備をして……
リオネルとジェロームはワレバットの街を出発した。

ワレバットの街を出て街道をしばらく走り、人通りが途切れた際、
リオネルは魔獣ケルベロスを召喚、同じく魔獣アスプ4体を腕輪から呼び出し、
前方と後方、馬車から見えない少し離れた場所で追走させ、周囲を固めている。

手慣れた雰囲気で魔獣達を放つリオネルを、
ジェロームは感嘆の表情で見つめていた。

ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!

ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!

ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……

ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……

今日も天気は快晴。
頭上には雲ひとつない青い大空が広がっていた。
吹く風もさわやかだ。

御者はリオネルが務め、元気に馬車を牽ひく馬のひずめが、
車輪の音がのんびり響く。
とても平和で牧歌的であった。

……結局、ふたりが引き受けたのは、オーク500体の討伐である。

現場は、馬車で約半日かかる、とある村。
その村の郊外に位置する廃棄された王国の旧砦に、
いつの間にかオークどもが住み着き、頻繁に当該の村近くに出没。

農作業中の村民や村に赴く商人や旅人などに被害を与えるのだという。
そのオークどもを、「完全討伐して欲しい」との依頼なのである。

またオークの巣となった砦内にある品物は、探索の際、
自由に持ち出し可能との許可が出された。

砦内の探索は、冒険者として、経験が浅いジェロームにとっては、
ちょっとした『宝探し気分』に浸れる可能性が大だ。

そしてオークどもの全貌は明らかにはなっていないが、もしも上位種が居たら、
報奨金が割り増しされる事となっていた。

馬車の荷物には、食料品、酒は勿論、し好品、生活必需品、
雑貨、薬品、薬草、魔法ポーション、武器防具に護符も積まれていた。

オークどもに脅かされ、商人の往来が皆無に近くなったので、
ギルド総本部から、物資の輸送搬入も併せて依頼されたのである。

またオークどもは農地も荒らしているという事から、
農具、作物の種なども一緒に積まれていた。

リオネルが索敵をしながら、従士達が周囲を警戒。
途中に賊やオークなど魔物は居たのだが、全て排除され……
……馬車は、途中数回の休憩をはさみながら、順調に走行。
約半日で目的地の村へ到着したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

妨害やアクシデントがなく、無事に村へ到着。
リオネルは魔獣達を、撤収させた。
ケルベロスは異界へ戻り、アスプ達は腕輪へ『回収』されたのだ。
ジェロームは安堵すると同時に、リオネルを再び感嘆の表情で見た。

御者役をも巧みにこなし、何でも出来る、凄い奴という見方が一層高まったのだ。

来たのが少年ふたりだけと知り、村長と村民達に落胆の色が見えたのはご愛嬌。
ジェロームは怒りで少々気色ばんだが、
以前経験しているので、リオネルは気にしない。

砦を占拠したオークどもの脅威で、陸の孤島状態に陥り、難儀していた村は……
魔法鳩便で、窮状を領主へ連絡するのが精いっぱい。

そして領主も配下の騎士、兵士が総勢100名に満たないとあり、
オーク500体には苦戦以上の結果になると怖れ、
ローランド率いる冒険者ギルド総本部へ助けを求めたのである。

一度は落胆した村長達も、リオネルとジェロームが、所属登録証を見せて名乗り、
依頼した食料品他を無事運んで来たと知り、大きな歓声が上がった。

リオネルが聞けば、村長の指示で、運んで来た物資は一旦、村の倉庫へ納品。
そこから改めて、村民達へ配給を行うという。

まだ少しご機嫌斜めのジェロームを促し……
リオネルはジェロームとふたりで納品、そして配給作業を手伝った。

ようやく!
救援物資が来た!

村民達が大きく手を振り、身体を振るわせるくらい、
大喜びしたのは言うまでもない。

「良く来てくださいました!」
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
「待っていたんだよ!」
「本当に困っていたんです!」
「深く深く感謝致します!」

食料品を配る村長、助役だけでなく、
一緒に配るリオネルとジェロームにも感謝の言葉が告げられ、気持ちも向けられた。
熱い握手のし過ぎで、手がひりひりするくらいだ。

そして更に、

「オークどもをやっつけてください!」
「村に平和を取り戻してください!」
「死なないでください! どうかご無事でお戻りください!」
「勝利を信じています!」

と激励された。

配給終了後……
村長と助役により、馬車、馬とともに、
宿舎となる村の空き家へ案内されたリオネルとジェローム。

2時間後に、オーク討伐の打合せをしましょうと告げられ、村長達は去り、
ひと休みする。

ふう~と息を吐き、ジェロームは笑顔を向けて来る。

「リオネル」

「何だい、ジェローム」

「俺は……ここでも馬鹿にされるのかって……最初はむかついた」

ここでも馬鹿にされる?
どういう意味だろう?

しかし、リオネルは敢えて尋ねない。
まずは、ジェロームの心の内を受け止めてやる事が必要だと考えたからだ。
それゆえ、まずは聞き役に徹する。

「…………そうか」

「でも! ここの人達は俺達が来たのを凄く喜んでくれた! 俺は必要とされているんだ!」 

きっぱりと言い切ったジェロームの目は、少し涙ぐんでいたのである。
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