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第278話「まあ、分かるけどさ」

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似たような境遇同士で同じ18歳『新たな友』となったリオネルとジェローム。

そんなふたりを乗せた路線馬車は、無事ワレバットの街へ到着した。

入場手続きの際、車長が、正門の門番へ、
『ゴブリンの襲撃、及び撃退』を報告すると、担当の門番は仰天。

他の門番へ伝え、急いで衛兵を呼びに行かせると、驚いた衛兵もすっ飛んで来た。

その門番も衛兵も、顔見知り。
リオネルは、声をかける、

「お疲れ様です!」

「おお! リオネル・ロートレック殿か! お疲れ様です!」

「あ、ああ、はい、どうも」

ここで門番、駆け付けた衛兵とも、ワレバットではすでに有名人となった、
顔見知りのリオネルへ、直立不動で敬礼をした。

対して照れくさそうに敬礼をするリオネル。

敬礼後、姿勢を戻した門番と衛兵は笑顔である。

彼らは若干18歳の若造にして、ランクA冒険者の才あるリオネルが、
領主ローランド、冒険者ギルド総本部サブマスター、ブレーズ、その副官ゴーチェ、3巨頭の、大のお気に入りだと知っている。

それなのに、いつも腰が低く、丁寧にあいさつするリオネルの態度も、
良く知っているし、好ましいと思っているのだ。

そんなリオネルを、ジェロームは感嘆の目で見つめていた。

ジェロームも、「けして誇らず驕らず謙虚で」という、
変わりなきリオネルの姿勢に、大いに好感を持ったようである。

さてさて!
王国路線馬車がゴブリンの大群に襲撃されたのは、結構な大事件である。

死人が出なかったのが、『不幸中の幸い』というところだ。
更に軽傷者は、リオネルの回復魔法ですでに治療されている。
本当に運が良いと言って良かった。

管轄が代わり、ゴブリン襲撃事件の対応業務は、
門番から駆け付けた衛兵に引き継がれた。

その衛兵に路線馬車は誘導され、衛兵詰め所へ。

詰め所で、馬車の責任者たる車長が事件の報告をし、調書を作る作業があるのだ。

リオネルも含め、車長以下、乗客も全員詰め所へ。

そして詰め所には何と!

リオネルには馴染みの人物がいた。
ブレーズの副官ゴーチェである。
ワレバットの街における保安警備の担当責任者として、
詰め所へ顔を出していたのである。

「おお、何だ? 路線馬車がゴブどもに襲われたって? お、おお! リオネル君!」

「あ、こんにちは、お疲れ様です、ゴーチェ様」

挨拶をするリオネルに対し、ゴーチェは尋ねる。

「うっす! どうした? 確か、モーリスさん達をキャナール村まで、送って行ったんだよな」

「はい、その帰り道で、たまたま路線馬車を襲っているゴブリンの群れに遭遇しまして」

リオネルの話で、ゴーチェは状況をほぼ認識したらしい。
衛兵から、簡単な報告も聞いているようだ。

ゴーチェは車長へ向き直る。
車長の後ろには、護衛の冒険者達も控えていた。

「おお、そうか! それであんたが路線馬車の車長かい? お疲れさん! 乗客ともども、無事で良かった! そして一緒に居るのが護衛だな」

「はい、そうです」

「じゃあ、長旅と事件で疲れているところ申し訳ないが、今回の件、報告をしてくれるか?」

「了解しました!」

車長と護衛の冒険者達は事件の発生、経緯、顛末を身振り手振り付きで簡単に
説明した。

対して、何度も頷いたゴーチェ。

「成る程! 事件の概要に関してはおおむね理解した。全員無事で何よりだ。事件の調書を作成しよう。終わったら、再度確認をするから、その上で解散だ」

ゴーチェはそう言うと、
一緒に話を聞いていた衛兵に指示をして、調書作成の準備にあたらせる。

「了解です」

対して、車長、護衛の冒険者達は敬礼した。

「で、どうだった、車長。『荒くれぼっち』の戦いぶりは?」

「はい! それはもう! リオネル様は灰色狼のような巨大な犬とともに現れ、あっという間にゴブリンどもをほふりました」

「おお、成る程、灰色狼みたいな犬って、ケルかあ」

ゴーチェは、何度もケルこと魔獣ケルベロスを目の当たりにしていた。
懐かしそうに目を細める。

ここで、リオネルがフォロー。

「はい! しかし、俺が間に合ったのは、ここに居るジェローム様が乗客の盾となり、戦って頂いたお陰ですよ」

リオネルがジェロームの話をすると、ゴーチェが「お!」と反応。

「おお、どこかで見た顔だと思えばアルナルディ家の3男坊、ジェロームじゃないか! お前も巻き込まれたのか?」

「……お疲れ様です、ゴーチェ様、王都の馬上槍試合ジョスト以来ですね」

どうやら、ジェロームとゴーチェは、互いの顔は知っているらしい。

「だな! おい、車長! ジェロームも戦ったって本当か?」

「はい! リオネル様のお言葉通りですよ。 ウチの護衛とともに、盾となって、見事な奮戦ぶり、しっかりと乗客を守って頂きました」

「おお、そうか! 騎士として務めを果たしたって感じだな」

騎士として務めを果たした……

ゴーチェの言葉に、ジェロームが反応。
苦笑する。

「いや、まあ、何とか防いでいたって感じでしたが。リオネルが来て、一気にゴブリンどもを鎮圧してくれましたからねえ、なあ、リオネル」

「はい、そうですね」

「おいおい、そうですねって、何だよ、リオネル。俺に敬語はやめろって言ったじゃないか」

ゴーチェが居る公式の場では、と思い、
リオネルは敬語を使ったが、ジェロームは嫌だったようだ。

対して、今後の事もあり、リオネルはこう言うしかない。

「いえ、ジェローム様……このような場ではご容赦ください」

「まあ、分かるけどさ」

渋い表情のジェロームだが、リオネルの意見に納得したらしい。

「ははははは! 何だ、リオネル君は、もうジェロームと仲良くなってんのか、結構結構! じゃあ乗客も含め、全員へ聞き取りをして、調書を作るぞ」

ゴーチェは晴れやかに笑い、大きく頷いたのである。
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