274 / 689
第274話「地味な努力が報われる」
しおりを挟む
キャナール村の村道を街道へ、リオネルは勢いよく歩いて行く。
リオネルの飛び抜けた聴力はいまだ、
モーリス、ミリアン、カミーユが別れを惜しむ声を、
はっきりと捉えていた。
だが……
リオネルは、もう振り返ったりはしなかった。
「たったった!」と軽快に速足で歩いて行く。
しっかりと見届けた。
モーリス達3人は、大丈夫。
今の自分のように、地に足をつけ、しっかりと己の人生を歩いて行く。
そうリオネルは確信していた。
さてさて!
リオネルが、たったひとり帰還するワレバットまでの距離は、約90kmである。
帰還までの道中、すでにリオネルは己に課題を設ける形で、
しっかりと『予定』を立てていた。
モーリス達へは、徒歩でワレバットまで向かうと告げていたが、
リオネルが、まともに歩いて帰還するはずなどない。
当たり前のように、周囲1km四方へ自然と張り巡らせている索敵には、
無害な動物以外、何の反応もない。
人間を襲う魔物は勿論、人間も居ない。
そう、もうお分かりかもしれない。
リオネルは単に帰還するのではない。
道中、『修行』しながら帰還するのだ。
今回立てた課題は、転移魔法の制御のレベルアップ、
移動可能距離の延長である。
転移魔法を授けてくれた、ソヴァール王国建国の開祖、
アリスティド・ソヴァールが、リオネルへ命じた課題でもある。
「召喚」
頃合いと見て、リオネルはケルベロスを召喚した。
何故、ケルベロスを召喚したのか?
道中の護衛役という意味もあるが、それだけではない。
制御と移動距離延長、熟練度を大きく上げる以外にも、
いくつか課題があるからだ。
アリスティド・ソヴァールはこうも言った。
『転移魔法の発動に、詠唱は不要だ。心で距離、行き先を念じれば、瞬時に移動出来る! また熟練度やレベル等に比例するが、同行者を連れて行くのも、荷物の運搬も可能だ!』
現時点で、リオネルは極めて短い言葉で、転移魔法を発動している。
いずれ、無詠唱で行けるという見込みがある。
詠唱と発動の円滑さは、ほぼクリアといって構わないだろう。
後は、同行者転移、荷物の運搬を極める事も目指す。
リオネルは、召喚したケルベロスへ、心と心の会話『念話』で話しかける。
『悪いな、ケル。また修行に付き合ってくれ、同行者として、ともに転移して貰うぞ』
『了解だ! 主よ、任せてくれ!』
リオネルの『お願い』を快諾したケルベロス。
地の一族である冥界の魔獣は、
リオネルが地界王アマイモンの愛娘ティエラから加護を受けて以降、
とても機嫌が良く協力的である。
元々、リオネルの事を大いに気に入っていたから、尚更だ。
ケルベロスが同行修行を了解した。
なので、リオネルは転移魔法発動の準備へ入る。
この世界において、転移魔法は失われた幻の精霊魔法と言われている。
世界数多の種族の中でも、転移魔法を使う術者の話はほとんど聞かない。
唯一、エルフことアールヴ族の長たる者が行使可能らしいと、
噂を聞くくらいだ。
という事で、リオネルは行使可能な事をオープンにはしたくない。
大騒ぎになるのは必定で、旅立つ事も差しさわりが出るからだ。
転移した姿を目撃されないよう、転移先の状況に注意するのが肝要である。
でもそれって、どうやって?
という疑問が出るのは当然だろう。
リオネルが転移魔法の修行を開始してから、
転移先の状況に注意したいと心で念じた瞬間。
何と何と!
『索敵の魔力感知』が作動。
それも、『転移先へイメージした到達地点の状況』が心に浮かんだのである。
通常の索敵よりはやや精度が落ちるが、十分に使えそうである。
カバーする範囲も、何度も試してみたら、
結局、到達地点の最大15㎞範囲をカバーする事が可能であった。
リオネルは、このスキルを『遠距離索敵』と名付けた。
そもそも、リオネルは王都で冒険者になって以来、
王都周辺を手始めに各地の地図を購入。
じっくりと読み込み、町村の位置や、地形の詳細を把握するよう心がけて来た。
各地を巡る旅をする際、初めて行く土地で迷うリスクを減らす為である。
また旅の途中でも、休憩の際等、暇さえあれば地図を念入りに見て、
実際の地形と、しっかりと付け合わせをする事を続けている。
実際にその地味な努力は、とても役に立っており、
これまでリオネルは、道に迷った事がなかった。
また実力がつくにつれ、索敵スキル能力が著しく向上して後押した事もあり、
深い森林、未開の原野等でもスムーズに移動出来た。
そしてその努力は、『遠距離索敵』のスキル習得という結果となり、
転移魔法の行使にも大いに役立ったのである。
『よし、転移目標地点確定! 無人! 異常なし! じゃあ、転移するぞ。……ケル。俺の周囲10m以内で待機してくれるか』
『了解だ』
少し離れた場所に居たケルベロスは小さく吠えると、軽くジャンプし、着地。
リオネルの傍らに控えた。
『転移』
軽く息を吐いたリオネルが、言霊を念話で詠唱。
すると、転移魔法は見事には発動。
リオネルとケルベロスの姿は、その場から、煙のように消えたのである。
リオネルの飛び抜けた聴力はいまだ、
モーリス、ミリアン、カミーユが別れを惜しむ声を、
はっきりと捉えていた。
だが……
リオネルは、もう振り返ったりはしなかった。
「たったった!」と軽快に速足で歩いて行く。
しっかりと見届けた。
モーリス達3人は、大丈夫。
今の自分のように、地に足をつけ、しっかりと己の人生を歩いて行く。
そうリオネルは確信していた。
さてさて!
リオネルが、たったひとり帰還するワレバットまでの距離は、約90kmである。
帰還までの道中、すでにリオネルは己に課題を設ける形で、
しっかりと『予定』を立てていた。
モーリス達へは、徒歩でワレバットまで向かうと告げていたが、
リオネルが、まともに歩いて帰還するはずなどない。
当たり前のように、周囲1km四方へ自然と張り巡らせている索敵には、
無害な動物以外、何の反応もない。
人間を襲う魔物は勿論、人間も居ない。
そう、もうお分かりかもしれない。
リオネルは単に帰還するのではない。
道中、『修行』しながら帰還するのだ。
今回立てた課題は、転移魔法の制御のレベルアップ、
移動可能距離の延長である。
転移魔法を授けてくれた、ソヴァール王国建国の開祖、
アリスティド・ソヴァールが、リオネルへ命じた課題でもある。
「召喚」
頃合いと見て、リオネルはケルベロスを召喚した。
何故、ケルベロスを召喚したのか?
道中の護衛役という意味もあるが、それだけではない。
制御と移動距離延長、熟練度を大きく上げる以外にも、
いくつか課題があるからだ。
アリスティド・ソヴァールはこうも言った。
『転移魔法の発動に、詠唱は不要だ。心で距離、行き先を念じれば、瞬時に移動出来る! また熟練度やレベル等に比例するが、同行者を連れて行くのも、荷物の運搬も可能だ!』
現時点で、リオネルは極めて短い言葉で、転移魔法を発動している。
いずれ、無詠唱で行けるという見込みがある。
詠唱と発動の円滑さは、ほぼクリアといって構わないだろう。
後は、同行者転移、荷物の運搬を極める事も目指す。
リオネルは、召喚したケルベロスへ、心と心の会話『念話』で話しかける。
『悪いな、ケル。また修行に付き合ってくれ、同行者として、ともに転移して貰うぞ』
『了解だ! 主よ、任せてくれ!』
リオネルの『お願い』を快諾したケルベロス。
地の一族である冥界の魔獣は、
リオネルが地界王アマイモンの愛娘ティエラから加護を受けて以降、
とても機嫌が良く協力的である。
元々、リオネルの事を大いに気に入っていたから、尚更だ。
ケルベロスが同行修行を了解した。
なので、リオネルは転移魔法発動の準備へ入る。
この世界において、転移魔法は失われた幻の精霊魔法と言われている。
世界数多の種族の中でも、転移魔法を使う術者の話はほとんど聞かない。
唯一、エルフことアールヴ族の長たる者が行使可能らしいと、
噂を聞くくらいだ。
という事で、リオネルは行使可能な事をオープンにはしたくない。
大騒ぎになるのは必定で、旅立つ事も差しさわりが出るからだ。
転移した姿を目撃されないよう、転移先の状況に注意するのが肝要である。
でもそれって、どうやって?
という疑問が出るのは当然だろう。
リオネルが転移魔法の修行を開始してから、
転移先の状況に注意したいと心で念じた瞬間。
何と何と!
『索敵の魔力感知』が作動。
それも、『転移先へイメージした到達地点の状況』が心に浮かんだのである。
通常の索敵よりはやや精度が落ちるが、十分に使えそうである。
カバーする範囲も、何度も試してみたら、
結局、到達地点の最大15㎞範囲をカバーする事が可能であった。
リオネルは、このスキルを『遠距離索敵』と名付けた。
そもそも、リオネルは王都で冒険者になって以来、
王都周辺を手始めに各地の地図を購入。
じっくりと読み込み、町村の位置や、地形の詳細を把握するよう心がけて来た。
各地を巡る旅をする際、初めて行く土地で迷うリスクを減らす為である。
また旅の途中でも、休憩の際等、暇さえあれば地図を念入りに見て、
実際の地形と、しっかりと付け合わせをする事を続けている。
実際にその地味な努力は、とても役に立っており、
これまでリオネルは、道に迷った事がなかった。
また実力がつくにつれ、索敵スキル能力が著しく向上して後押した事もあり、
深い森林、未開の原野等でもスムーズに移動出来た。
そしてその努力は、『遠距離索敵』のスキル習得という結果となり、
転移魔法の行使にも大いに役立ったのである。
『よし、転移目標地点確定! 無人! 異常なし! じゃあ、転移するぞ。……ケル。俺の周囲10m以内で待機してくれるか』
『了解だ』
少し離れた場所に居たケルベロスは小さく吠えると、軽くジャンプし、着地。
リオネルの傍らに控えた。
『転移』
軽く息を吐いたリオネルが、言霊を念話で詠唱。
すると、転移魔法は見事には発動。
リオネルとケルベロスの姿は、その場から、煙のように消えたのである。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる