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第253話「絶対に愚かであってはいけない。 しかし、賢すぎてもいけない」

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「きゃはははははは!! 全属性魔法使用者オールラウンダーのくせに、だっさあ!!」

思い切り高笑いし、侮蔑ぶべつする若い女子の声が、
無人のはずの農地に、大きく響いた。

「え!? ええっと!? ……あれれ!?」

声のした方をリオネルが見やれば……
栗色の肩までの髪、褐色の肌をした、身長150cmくらいの、
10代前半とおぼしき少女が居た。

更にリオネルが見やれば、
複雑な刺繍ししゅうが施された、茶色の革鎧をまとう、
愛くるしい顔立ちの少女である。

何と!
少女は、リオネルが生成したばかりの岩壁に座って、笑っていた。
足がかりのない10mの高さの壁に!?である。

リオネルは大いに驚いた。
3つの意味で。

ひとつは、張り巡らせていたリオネルの索敵に捕捉されず、
少女がいきなり足がかりのない10mの高さの壁に現れた事。

もうひとつは、リオネルをいきなり全属性魔法使用者オールラウンダーだと言い切った事。

そして最後のひとつは、放つ超強力な波動から、
少女が、『人間ではない事』も判明したからだ。

再び、少女はリオネルを侮蔑ぶべつする。

「本当にだっさ! 何、その転移魔法の手並み? それでも創世神に選ばれし者? 全属性魔法使用者オールラウンダーの称号が大いに泣くわよ!」

「はあ、確かにおっしゃる通りですね」

苦笑したリオネルが同意して答えると、少女は少し驚いた顔をする。

「へえ? ここまで言われて、あんた、怒らないんだ?」

「まあ、おっしゃる通りですから。俺、凄く不器用ですし」

人間ではない少女に『殺気』は感じない。

そして、少し離れた場所で巡回していた魔獣ケルベロスとアスプだが、
いきなり現れた少女の気配にびっくりし、慌てて駆け寄ろうとした。

『大丈夫、心配するな』

と念話で制止したリオネル。

するとケルベロスも、いきなり現れた少女の気配に気付き、
ひどく驚いた反応を示す。

『そ、そ、その反応はっ!!?? ま、まさかっ!!?? ティエラ様っっ
!!??』

「え? ティエラ様って? この子が?」

「うふふふ! 眷属のケルベロスが先にばらしちゃったか。私の名前!」

少女――ティエラはそう言うと、「くるり」と、空中で一回転して、
これまた開拓したばかりの農地へと、降り立った。

リオネルは少女の『身の軽さ』に驚くとともに、彼女が発した言葉が気になる。

「眷属!? ケルベロスが!?」

「ええ、冥界の魔獣ケルベロスは、我が地の一族、すなわち私ティエラの眷属よ!」

「!!!」

驚くリオネルに対し、ティエラは更に言う。

「あんたは人間族の全属性魔法使用者オールラウンダー! リオネル・ロートレック! いえ、本名はリオネル・ディドロだっけ?」

ティエラは、リオネルの名前と本名も知っていた。

更に驚いたリオネルは改めて名乗る。
大きな声で、はきはきと。

そうした方が良いと、直感的に思ったからだ。

「は、はいっ! 俺は、リオネル・ロートレックです! 本名は、おっしゃる通り、リオネル・ディドロですっ!」

「うふふ、私は精霊ティエラ! 高貴なる4界王のひとり、地界王アマイモンの娘よ!」

にっこり笑ったティエラも大きな声で名乗った。
そして右手をびしっ! と突き出し、リオネルへVサインを送ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルへVサインを送る地界王アマイモンの愛娘ティエラ。

そういえば、とリオネルは思い出す。

……いにしえの英雄、リオネルと邂逅したソヴァール王国建国の開祖、
アリスティド・ソヴァールの亡霊は高貴なる4界王の会いたがっていた。

地界王アマイモンに、アリスティドが邂逅した際、
愛娘ティエラにも邂逅した事はあるかもしれない。

出来れば、アリスティドをこの場に呼んであげたかった。

しかし現在のリオネルのレベルでは、到底無理。

申し訳ありません!

リオネルは心の中で謝った。
いずれ、またと思いながら。

さてさて!
何となく予想は付くのだが……
改めて、リオネルは尋ねてみる事にした。

「あの~、ティエラ様」

「なあに?」

「どうして、未熟な俺なんかのもとへ出向いて頂いたのですか?」

「うふふ、わざわざそんな遠回しな尋ね方して、あんたには分かっているでしょ?」

ティエラは、いたずらっぽく笑い、尋ねて来た。

対して、リオネルは無難な答えを戻す。

内なる声がささやいたのだ。
以前交わした、魔獣ケルベロスとの『会話』を思い出せと。

『ふむ……我との会話で、主は話術のスキルも上げておけ。高位の魔族と話す事に備えてな』

『いずれ高位の魔族どもは、全属性魔法使用者オールラウンダーたるあるじの前に数多、現れるだろう。邪悪な人間も含め、誘惑、甘言などに惑わされないよう、自身の剛毅さを高め、話術を巧みに行えるようにも備えておくのだぞ!』

高位の魔族……
地界王アマイモンの愛娘、精霊ティエラは、まさに高位の魔族である。
否、最上級精霊のひとりと言えるであろう。

ここは慎重に、そして臆さずに、言葉を交わすべき……なのだ。

「はあ、分かりはしませんけど、予想くらいは」

「予想? じゃあ、言ってみなさいよ」

「ティエラ様とお父上が管理する様々な地属性魔法……」

「うんうん!」

「その様々な地属性魔法を使う、未熟な人間の『がきんちょ』に対する、単なる好奇心……ですか?」

「単なる好奇心かあ……ぶっぶ~! あたらずととも、遠からず……ね!」

リオネルはケルベロスとの会話で認識していた。

邪悪な存在ではない、教師然として接してくる相手……
に対しては、絶対に愚かであってはいけない。

しかし、賢すぎてもいけないと。

では、どうするのか?

正解の半分だけを答え、完全な答えを相手から教授して貰うのが賢明なのだ。

そして、相手に対し誠実に、且つ礼儀正しく接するのは、当然である。

軽く息を吐き、ティエラは言う。

「リオネル、教えてあげる! 私がわざわざ出向いたのは、全属性魔法使用者オールラウンダーたる、あんたへ、我が地の魔法を極めて貰いたいからよ」

「成る程……俺に地の魔法を極めて貰いたいから、ですか」

「うふふ、そうよ!」

「ティエラ様」

「うふふ、なあに?」

「正直に言いますよ」

「うんうん、正直結構! 遠慮せず、私へ言ってごらんなさい」

「はい! 俺は転移魔法を始め、地の属性魔法を極めたい、いえ! 全属性魔法使用者オールラウンダーとして、全ての属性魔法、いえ! 属性魔法だけでなく! あらゆる魔法の全てを極めたいと思っています!」

リオネルは、ティエラへ正直に、
自分の心に嘘偽りなく、はっきりと決意を述べたのである。
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