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第192話「よお! 『荒くれぼっち』ご一行さまじゃないか!」

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英雄の迷宮地下5階層……
ここは、地上からの出入り口から入った地下1階層の大ホールと同じく、
人間には無害の、強力な魔法障壁で囲まれた『安全地帯』である。

4階からの降下階段、6階への降下階段の出入り口には、万が一のリスクを想定し、
1階同様、これまた冒険者ギルドから派遣された屈強な守衛が4人ずつ、
24時間詰める、時間制の交代で立っていた。

先述したが……
この『地下第5階層』で、このまま難度の高い下層へも探索を続けるか、
それとも、地下第4階層までのフロアにて、地道に修行を続けるか、
どちらかの選択が問われる事となる。

そしてこの地下5階層フロアの様子はといえば……
事前の打合せで、モーリスの言った通りであった。

冒険者ギルドによる大規模工事が行われ、
小規模ながら、まさに地上にあるのと同じ、『ひとつの街』と化していた。
中央に円形の広場があり、その周囲には宿泊施設や店舗等がのきを並べていたのである。

当然、地下5階層には、
今までこの迷宮のどこに居たのか? と思われるくらいの冒険者、
修行中らしき騎士や戦士等々の人々で、ごった返していた。

そんな中を、リオネル一行は歩いて行く。

一行はまず、宿の確保をした。
その後で、買い物も。
不足していた資材、ポーション等を購入したのだ。

商店の中で、最も需要がある宿屋は、このフロアに全部で40軒ほどあり、
全店合わせると、約1,000人の宿泊が可能という事である。

ちなみに、このフロアの宿は、全て食事が出ない『素泊まり』の宿である。
なので、リオネル達はこれから食事に行くのだ。

……リオネルは、この地下5階層フロアへ入る少し前から気付いていた事がある。
「石橋を叩いても、すぐには渡らない」リオネルは、
『安全地帯』といえど、索敵を欠かさない。

その索敵に、憶えのある『気配』があったのだ。

憶えのある『気配』は。先ほどからリオネル達の後をついて来ていた。
リオネルは勿論、モーリスも、ミリアンとカミーユも、
つけられているのを気付いているはずだ。

頃合いだとつけている『気配』の当人は、判断したのだろう。

背後から大きな声がかかる。

「よお! 『荒くれぼっち』ご一行さまじゃないか!」

リオネル達が振り返ると、
『無骨』という文字を人間にしたような、
身長2m近い筋骨隆々の『いかつい』男が、にやにや笑っていた。
金色の短髪で顔立ちは整っており、年齢は30歳過ぎくらいである。

リオネル達をつけていたのは、
冒険者ギルド総本部サブマスター、ブレーズ・シャリエの副官、
剛直な騎士ゴーチエ・バラデュールであった。

ゴーチェは戦士と、支援回復役、攻撃役らしい魔法使いをひとりずつ、
都合、配下3人を連れていた。

「ははははは! せっかく会ったんだ。このフロアの馴染みの居酒屋ビストロで、一緒に美味いメシでも食おうじゃないか! 当然、全て俺のおごりだ!」

高笑いして、食事を誘うゴーチェには何か意図があるらしい。

リオネルは一瞬、念話――読心魔法を使おうと思ったが、やめておく。
ゴーチェからは熱い好意の感情しか伝わって来ないからだ。

断るのも、角が立ちそうである。
とりあえずここは「OK」の選択肢だ。

「モーリスさん、ゴーチェ様のご厚意をお受けしましょう」

対して、モーリスも同じ思いだったらしく

「おお、分かった」

と、リオネルへ頷き、

「ゴーチェ様、せっかくのお誘いですから、ご厚意をお受け致します。宜しくお願い致します」

と返事をし……
リオネル達は、ゴーチェ達と夕食を共にする事となったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ゴーチェ達にいざなわれ、リオネル達が連れていかれたのは、
とある居酒屋ビストロの個室である。

大きなテーブルに大皿の料理がいくつも運ばれ、冷えた大型デキャンタには、
ワインとエール、そして果汁と紅茶がたっぷりと入っていた。

まずは乾杯を行う。
そして、乾杯後に、ゴーチェはリオネル達へ礼を告げて来る。

やはり、守衛と衛兵から『連絡』『報告』が行ったようだ。

「まずは礼を言おう。荒くれぼっち、ありがとうよ! あのルーキーキラーどもを捕縛して貰い、助かった。あいつらはたっぷり余罪がある、結構な『賞金首』だったんだよ」

「やっぱりそうだったんですね。『ヘーロース』の衛兵さんからそう言われました」

「ああ、後で賞金をたっぷり払うぞ」

「ありがとうございます!」

「うむ! 守衛、衛兵から報告を聞いた。あいつら8人に襲われて、相当ヤバかったらしいな」

ここで、リオネルの隣に座ったミリアン。
ぴとっと、リオエルに身体をくっつけた。

「ゴーチェ様、あいつらに襲われて、私、すんでのところで、おもちゃにされそうになりました」

「おお、ミリアンちゃんをか? 許せんな!」 

「でもでも! リオさんがばっちり、いつものように助けてくれたのっ♡」

「おお、それも聞いてるよ。あいつらに脅されても全く動じず、冷静に『魔導音声録音水晶』でやりとりも録音していたようだな。あれが『動かぬ証拠』となる。さすが『荒くれぼっち』だ」

「うふふ♡ 荒くれぼっちは、私が大好きな兄貴なんだも~ん♡」

「おお、リオネル君は、ミリアンちゃんの兄貴か。強く頼もしい兄貴だな」

「うん! そうなの♡」

甘えるミリアンを見て、ゴーチェは微笑み、
更に、

「まあ、余罪もたっぷりあるし、あいつらはどうせ、全員極刑だ」

吐き捨てるように言うゴーチェ。

ミリアンは、何故ゴーチェがこの迷宮に居るのか、不思議に思っているようだ。

「でも、ゴーチェ様は、どうしてこの迷宮にいらっしゃるの?」

「ああ、ミリアンちゃん。元々のパトロール業務でな、俺はこの英雄の迷宮には、月に一回は来る。さっき、リオネル君が捕縛してくれたルーキーキラーどもみたいに、ふらちなやからを取り締まり、捕縛するのが、俺の仕事のひとつなんだ」

とも告げた。

ここでリオネルが、

「良いんですか? そういう業務内容を、第三者の俺達に告げて?」

と尋ねれば、ゴーチェは笑顔で言葉を戻す。

「ああ、構わん、構わん。街中に衛兵が立ってにらみをきかせ、犯罪を抑止しているだろ? あれと同じで、俺達のパトロール巡回の話が広まれば、この迷宮で起こる犯罪も減るって算段だ」

更にカミーユが、

「でも、ゴーチェ様は、俺達がギルドから、迷宮地図の依頼を受けたって、知ってまっすよね?」

と尋ねれば、

「ああ、知っていたよ、カミーユ君」

とあっさり肯定。
カミーユが更に追及。

「じゃあ、やっぱりリオさんが気になって来たっすか?」

対してゴーチェは、きっぱりと言う。

「ああ、このタイミングでパトロールに来たのは、確かにそれもある。リオネル君がこの迷宮で、いかに怪物どもと戦うのかをな、見てみたいんだよ」

そして、

「さあ、今夜のメシは全て俺のおごりだ! 冷めてしまうから、話をしながら料理を食おう。お代わりもOKだ。明日に差し支えないレベルでガンガン食って、飲んでくれ!」

と朗らかな笑顔で、ゴーチェは宴の開始を告げたのである。
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