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第183話「晴れやかな大笑い」
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昨夜、ふたりで交わした『5年後の約束』の確認をして……
起床したリオネルとミリアンは、元気よく明るく朝食の準備をした。
魔導コンロでお湯を沸かし、香り豊かな紅茶を入れ、魔導ポットへ。
それから料理に取り掛かる。
少し前から、ミリアンは、リオネルから料理を習っていた。
「迷宮を探索し終えたら、自宅において、覚えたばかりの料理を、リオネルへごちそうする」と晴れやかに、ミリアンは笑う。
あくまで前向きなミリアンを見て、リオネルは申し訳ないと思いながら、
自分も「過去に引きずられないよう」頑張ろうと思う。
……リオネルとミリアンの用意する朝食は、モーリスが購入したパンに、
ウインナー、スクランブルエッグ、野菜サラダ、温かい紅茶である。
やがて……モーリスとカミーユも起きて来た。
ひとつのテント内での会話である。
隣接したリオネルとミリアンの『会話』が聞こえないわけはない。
実は、昨夜も今朝も……
モーリスとカミーユは、リオネルとミリアンでやりとりされた会話をほぼ聞いていた。
……しかし、モーリスとカミーユは、あえて何も言わない。
表情にも、全く出さない。
少し時間をずらして起きたのは、リオネルとミリアンの気持ちを、
おもんばかっての事であり……
初恋に破れたミリアンが落ち込まず、
5年後の夢を語り、明るく前向きな顔をしている。
だから気遣い、「そっ」としておこうと考えているのだ。
さてさて!
朝食を摂った後、魔導ポットの温かい紅茶を飲みながら、
4人は、次の地下3階層の探索の相談を行う。
3階層は、カミーユが嫌がった不死者のフロア。
まずは、改めて出現する者達の確認である。
魔導灯に照らされた中で各自が、
『冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版』3階層の記載に見入っている。
地図には、ウィルオウィスプ、亡霊、ゾンビ、スケルトンと……
ワレバット近郊の王立墓地で戦った連中が、ガンガン出ると記されていた。
この中で一行が全くの『新規』で、相まみえるのは、ポルターガイストだけである。
補足しよう。
ポルターガイストとは、姿を見せず大きな物音を立てたり、物体を移動させたりする人外である。
その正体は精霊や亡霊等の諸説あるが、
この世界では『亡霊の一種』か、
姿の見えない、あるいは姿を消した『人外のいたずら』だと言われている。
ポルターガイストが起こす音で驚かされたり、荷物を持っていかれたり、
果ては手あたり次第に、物を投げつけて来る『投擲《とうてき》』
という困った性癖がある。
このポルターガイストが難儀なのは、姿が見えない事だ。
しかし、モーリスは「心配ない」と言い切る。
「ポルターガイストはな、亡霊と同じで魂の残滓だ。つまり魔力を発する生体エネルギーである。だから魔力感知に長けていれば、常人には見えなくても、相手がどこに居るのか、所在をしっかり把握出来るぞ」
モーリスはそう言うと、にっこり笑う。
「幸い、リオ君は、魔力感知を行使した索敵に長けておる。ポルターガイストを捕捉する事で、より感度を磨く事だな」
「はい」
「加えて安心なのは、リオ君の従士ケルこと、召喚した魔獣ケルベロスが先導してくれ、いざとなれば戦ってくれる事だ」
「ええ、ケルは頼りになります」
「うむ、ケルベロスは冥界の門番だけあって、亡者には特に圧倒的な力を発揮するからな」
「はい」
「うむ! 油断は大敵だ。しかし、ほとんどの不死者は既に戦った相手だ。臆する事無く、破邪聖煌拳と、葬送魔法を使えば大抵は排除出来る」
モーリスのアドバイスに対して、リオネルは、
「はい、モーリスさんの言う通り、俺はポルターガイストと戦う事で、索敵感度の更なるレベルアップをはかりたいです。そして油断は絶対にしません。フォルミーカ迷宮に臨む為、今回はこの英雄の迷宮探索を、良い経験値にしたいと思います」
きっぱりと言い切り、
決意も新たにして、晴れやかに笑った。
ここでミリアンが言う。
彼女もリオネル同様、晴れやかな笑顔である。
「みんな、ちょっと良い? 私、カミーユのセリフを借りるよ」
「うお? 俺のセリフを借りる? 姉さん、何を言うっすか?」
驚き尋ねるカミーユへ、ミリアンは、
「うん! 私達4人は、今この時を、一緒に過ごす時を、絶対大事にしようね!!」
「おお、それっすか! 姉さんが凄く前向きっす!」
カミーユは嬉しそうに叫ぶ。
失恋した姉は……前向きに、今この時に全力を尽くすと、言い切ってくれたからだ。
カミーユの言葉を受け、ミリアンは可愛らしくウインクし、
「前向きなのは、あったり前! 私は師匠の娘で、リオさんの妹なのよ!」
「俺もそうっす! 師匠の息子で、リオさんの弟っす! じゃあ、俺も姉さんのセリフを借りるっす! もしも離れ離れになっても。4人の心は一生つながってるっす! 俺達4人は全員、一生、家族っすよぉ!!」
「うわ! 最後にカミーユが私のセリフで『一番美味しいところ』を持って行ったあ♡」
ミリアンが苦笑し、
「「「「ははははははははは!!!」」」」
最後は、全員が『晴れやかな大笑い』をして、
地下3階層の探索へ向け、改めて気合を入れ直したのである。
起床したリオネルとミリアンは、元気よく明るく朝食の準備をした。
魔導コンロでお湯を沸かし、香り豊かな紅茶を入れ、魔導ポットへ。
それから料理に取り掛かる。
少し前から、ミリアンは、リオネルから料理を習っていた。
「迷宮を探索し終えたら、自宅において、覚えたばかりの料理を、リオネルへごちそうする」と晴れやかに、ミリアンは笑う。
あくまで前向きなミリアンを見て、リオネルは申し訳ないと思いながら、
自分も「過去に引きずられないよう」頑張ろうと思う。
……リオネルとミリアンの用意する朝食は、モーリスが購入したパンに、
ウインナー、スクランブルエッグ、野菜サラダ、温かい紅茶である。
やがて……モーリスとカミーユも起きて来た。
ひとつのテント内での会話である。
隣接したリオネルとミリアンの『会話』が聞こえないわけはない。
実は、昨夜も今朝も……
モーリスとカミーユは、リオネルとミリアンでやりとりされた会話をほぼ聞いていた。
……しかし、モーリスとカミーユは、あえて何も言わない。
表情にも、全く出さない。
少し時間をずらして起きたのは、リオネルとミリアンの気持ちを、
おもんばかっての事であり……
初恋に破れたミリアンが落ち込まず、
5年後の夢を語り、明るく前向きな顔をしている。
だから気遣い、「そっ」としておこうと考えているのだ。
さてさて!
朝食を摂った後、魔導ポットの温かい紅茶を飲みながら、
4人は、次の地下3階層の探索の相談を行う。
3階層は、カミーユが嫌がった不死者のフロア。
まずは、改めて出現する者達の確認である。
魔導灯に照らされた中で各自が、
『冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版』3階層の記載に見入っている。
地図には、ウィルオウィスプ、亡霊、ゾンビ、スケルトンと……
ワレバット近郊の王立墓地で戦った連中が、ガンガン出ると記されていた。
この中で一行が全くの『新規』で、相まみえるのは、ポルターガイストだけである。
補足しよう。
ポルターガイストとは、姿を見せず大きな物音を立てたり、物体を移動させたりする人外である。
その正体は精霊や亡霊等の諸説あるが、
この世界では『亡霊の一種』か、
姿の見えない、あるいは姿を消した『人外のいたずら』だと言われている。
ポルターガイストが起こす音で驚かされたり、荷物を持っていかれたり、
果ては手あたり次第に、物を投げつけて来る『投擲《とうてき》』
という困った性癖がある。
このポルターガイストが難儀なのは、姿が見えない事だ。
しかし、モーリスは「心配ない」と言い切る。
「ポルターガイストはな、亡霊と同じで魂の残滓だ。つまり魔力を発する生体エネルギーである。だから魔力感知に長けていれば、常人には見えなくても、相手がどこに居るのか、所在をしっかり把握出来るぞ」
モーリスはそう言うと、にっこり笑う。
「幸い、リオ君は、魔力感知を行使した索敵に長けておる。ポルターガイストを捕捉する事で、より感度を磨く事だな」
「はい」
「加えて安心なのは、リオ君の従士ケルこと、召喚した魔獣ケルベロスが先導してくれ、いざとなれば戦ってくれる事だ」
「ええ、ケルは頼りになります」
「うむ、ケルベロスは冥界の門番だけあって、亡者には特に圧倒的な力を発揮するからな」
「はい」
「うむ! 油断は大敵だ。しかし、ほとんどの不死者は既に戦った相手だ。臆する事無く、破邪聖煌拳と、葬送魔法を使えば大抵は排除出来る」
モーリスのアドバイスに対して、リオネルは、
「はい、モーリスさんの言う通り、俺はポルターガイストと戦う事で、索敵感度の更なるレベルアップをはかりたいです。そして油断は絶対にしません。フォルミーカ迷宮に臨む為、今回はこの英雄の迷宮探索を、良い経験値にしたいと思います」
きっぱりと言い切り、
決意も新たにして、晴れやかに笑った。
ここでミリアンが言う。
彼女もリオネル同様、晴れやかな笑顔である。
「みんな、ちょっと良い? 私、カミーユのセリフを借りるよ」
「うお? 俺のセリフを借りる? 姉さん、何を言うっすか?」
驚き尋ねるカミーユへ、ミリアンは、
「うん! 私達4人は、今この時を、一緒に過ごす時を、絶対大事にしようね!!」
「おお、それっすか! 姉さんが凄く前向きっす!」
カミーユは嬉しそうに叫ぶ。
失恋した姉は……前向きに、今この時に全力を尽くすと、言い切ってくれたからだ。
カミーユの言葉を受け、ミリアンは可愛らしくウインクし、
「前向きなのは、あったり前! 私は師匠の娘で、リオさんの妹なのよ!」
「俺もそうっす! 師匠の息子で、リオさんの弟っす! じゃあ、俺も姉さんのセリフを借りるっす! もしも離れ離れになっても。4人の心は一生つながってるっす! 俺達4人は全員、一生、家族っすよぉ!!」
「うわ! 最後にカミーユが私のセリフで『一番美味しいところ』を持って行ったあ♡」
ミリアンが苦笑し、
「「「「ははははははははは!!!」」」」
最後は、全員が『晴れやかな大笑い』をして、
地下3階層の探索へ向け、改めて気合を入れ直したのである。
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