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第172話「決意を機にしたカミングアウト」

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英雄の迷宮地下2階層……

リオネル達は、小ホールを出発。
魔獣ケルベロスを先行させ、リオネル、カミーユ、ミリアン、モーリスの隊列は変わらない。

『冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版』の記載によれば……
通過してきた地下1階層、及びこの地下2階層には、罠仕掛けのたぐいはない。

しかしリオネルは充分気を付けて歩きながら、『何か』をじっと考えていた。
実は、リオネルは今回の『英雄の迷宮』探索を機に、モーリス達3人へ、
『カミングアウト』しようと考えていたのである。
先ほどの『虫問答』が、リオネルの背を押してくれた。

頃合いだと思った……

心の絆を結んだモーリス達へ『カミングアウト』する事で、
今後赴く、フォルミーカ迷宮において、
否、いろいろな場所において、
リオネルは『コードネームG』及び虫に対しての苦手意識を払しょく、
克服して行く事を決意したのだ。

ケルベロスに先行、威嚇させ進むと、敵は出現しない。

……まもなくまた『小ホール』があった。
事前に索敵でも分かっていたが……誰も居ない。
虫一匹さえ居なかった。

事前にケルベロスが虫どもを全て、追っ払ってくれたのである。

リオネルは更に、ケルベロスに周囲を警戒させ、外部からの邪魔が入らぬようにして、

「みんなに話がある。聞いて欲しい」

と言い、再び小休止したいと告げた。

ひどく真剣なリオネルの表情を見て、誰も茶化さず素直に従った。
車座となる。

「まず全員へ謝罪したい。申し訳なかった」

リオネルが謝罪すると、

「「「……………」」」

一体何を言うのだろうという面持ちで、
全員が無言で、リオネルが発する次の言葉を待っていた。

「ずっと隠していて、申し訳なかった。俺には風以外に、隠している『属性魔法』がある。その属性魔法を、『苦手意識克服』を決めたのを機に、公開しようと思う」

「「「……………」」」

「但し、俺は親しい仲間にのみ告げるつもりだ。だから俺が複数の属性魔法を行使しする事実は、厳秘として欲しい。これは何とか守って欲しい」

「「「……………」」」

「何故なら、皆も知っての通り、先日俺はこのワレバット近郊貴族家の養子入りを勧められ、断った」

「「「……………」」」

「自宅で全員へ話した通り、ローランド様からも話が活きていると言われた」

「「「……………」」」

「もしもローランド様達に俺が、複数属性魔法使用者マルチプルであると知れたら、このソヴァール王国にとどまる事を厳命されるだろう」

「「「……………」」」

「あるいは、お前はこの国で生まれ育った国民だろうと、情に訴えて来るかもしれない」

「「「……………」」」

「そうなったら、俺は広き世界を見る旅を続ける事が困難になるかもしれない。それは避けたいんだ」

「「「……………」」」

「フォルミーカ迷宮へ行けば、俺が複数属性魔法使用者マルチプルである事は発覚して行くだろう。この場の皆へ迷惑をかけないためにも、絶対に黙っていて欲しいんだ」

リオネルが深く深く……頭を下げて頼むと、
まずモーリスが、

「うむ! 以前も言ったが、術者は己の奥義を秘すものだ」

「モーリスさん」

「リオ君、奥義を見せない、教えないのは当たり前の事だし、私達を信じて、秘密を明かしてくれるのは本当に嬉しいよ。……大丈夫、秘密は必ず守る!」

すると、ミリアン、カミーユも、

「リオさん、私とカミーユは貴方の妹と弟だよ。たとえ血がつながっていなくとも、モーリス師匠同様、実の肉親だと思ってる。私達姉弟は、大好きな肉親の足を引っ張るような事はしないよ!」

「リオさん! 姉さんの言う通りっす! やっぱリオさんは俺の目標っす。果てしない高見だけど、頑張って目指すっす。そんなリオさんを一生応援しまっすよ!」

「あ、ありがとう。じゃあ言おう」

リオネルは、大きく息を吐くと、

「俺、風の属性魔法以外に、火、そして地の属性魔法が使えるんだ。攻防共に」

仰々しくせず、しれっと言った。

「「「……………」」」

対して、無言の3人。
ここでリオネルは過去の記憶をたぐる。

今まで魔法学校で学んだ。
そして確か、冒険者ギルド王都支部の図書館にも記載があった。

先述はしてあるが、改めて補足しよう。

数多の古文書は勿論、様々な資料に記されているこの世界の『常識』がある。
魔法使いは勿論、誰もが知っている『常識』だ。

常識とは、魔法使いなら誰でも習得出来る、
かまどに火を点けるとか、水を出すとか、
洗濯物を乾かすとかいう初歩の『生活魔法』を除き……
得られる真の魔法属性は、ひとりの魔法使いに対して、4大属性のうち、
たったひとつだけであるという事。

つまり『風の魔法使い』であるリオネルは、『火』『水』『地』の『本格的な属性魔法』を習得する事は出来ない。

しかし時たま……
ふたつの属性魔法を行使可能な魔法使いが現れる。
例えば、火と風、『両方の属性魔法』が行使可能であると。

このふたつの属性魔法を使いこなす魔法使いを、
複数属性魔法使用者マルチプル』と呼び、
『数万人にひとりの天才』だとうたわれる。

加えて言えば、複数属性魔法使用者マルチプルの中でも、
『3つの属性魔法』を使えるのは、
『超天才と称えられ、数百万人にひとりだ』と言われている。

更に更に!!

『全属性の魔法が行使可能』な『全属性魔法使用者オールラウンダー』は……

『数十億人にひとりだけ』、つまりひとつの時代にたったひとり、現れるか現れないかという類まれな希少さであり、『神の使徒にも匹敵する』という伝説の存在なのだ。

ここまでの事実を知らずとも、
冒険者ならば、得られる真の魔法属性は、ひとりの魔法使いに対して、4大属性のうち、たったひとつだけであるという事は常識中の常識。

無言から、まず反応したのは、モーリスである。

「お、お、驚いた……さ、さすがに驚いたよ、リオ君」

「は、はあ……」

「ま、まさかリオ君が『3つの属性魔法』を行使する『超天才』だったとは……」

「ええっと、俺自身もびっくりです。内なる声に導かれて……ここまで来ましたから……その結果です」

「う、うむ! そ、そうか! だ、出そうとしても……ベストな上手い言葉が出ない! こ、今後とも宜しく頼む……そう言うしかないな」

「はは……」

モーリスがそう言うしかないのなら、リオネルも乾いた笑いしか出ない。
自分でもまだ、信じられないからだ。

そしてミリアンとカミーユは、

「ま、まあ! リオさんが超天才だってのは以前から分かっていたし……」

「そうっす! 鳥みたいに空も飛ぶし、既に人間じゃなくなってるっすから」

カミーユは苦笑すると、

「でも、そんな超天才が、ちっぽけなゴキブリが苦手っていうのが、めちゃ可愛いっす」

「おいおい! カミーユ、リアルに言うな! それにこれから遭遇するコードネームGは、すっごくでかい奴なんだ!」

「うへ! リオさん、ごめんなさいっす」

「よし! 俺の戦いはこれからだ! 英雄の迷宮で、苦手意識を克服してやるからな! 必ずだぞ!」

「わお! リオさん! 俺の戦いはこれからだ! って、そのセリフ、小説の主人公みたい♡ かっこいい~♡」

というミリアンの褒め言葉でオチがつき……
リオネルの『カミングアウト』は無事済んだのである。
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