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第135話「姉さんを守り抜くって決めたっすう!」

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依頼遂行の当日、午後3時過ぎ……
リオネル達4人の姿は、ワレバットの街郊外にある『王立墓地』にる。

全員が武装しており、革鎧姿。
武器はリオネルが愛用の剣スクラマサクスとこん棒。
モーリスが大型、ミリアンとカミーユが小型のメイス。
リオネルとカミーユの肩には、小型盾。
そして全員、付属のベルトで頭部に携帯魔導灯を装着していた。

リオネル達は、普段、管理人が居住するこじんまりした管理小屋へ入っていた。
この管理小屋には、破邪の魔法が施されており、不死者アンデッドどもは手を出すどころか、侵入すら不可能である。

そう、通常、王立墓地にはこの管理小屋に正規の管理人が常駐している。
ただ今回は、様々な不死者アンデッドどもが多数出現する為、正規の管理人では対応し切れず……
『討伐』『除霊』『浄化』も含め、リオネル達冒険者へ代行の管理依頼が出されたのである。

ここでひとつ『疑問』があるかもしれない。

本来、このような『討伐』『除霊』『浄化』はプロともいえる『創世神教会の司祭達』が行うもの。
何故、「王国が司祭達へ依頼しないのか?」という尤もな疑問だ。

答えは簡単である。
実は司祭達へ依頼すると、教会の規約で『寄付』がべらぼうに高い。
ちなみにリオネル達への報酬は完遂が条件で金貨100枚であるが、その5倍近い。
それにこういった『地味な仕事』を司祭達はあまりやりたがらない。
というわけで、依頼は冒険者ギルドへ回って来るのだ。

今回は依頼を見つけた業務担当職員エステルが仮押さえしてキープ、リオネル達へ回してくれたのである。

まず4人は王立墓地を見回った。
事前にリオネルとモーリスが下見をしておいたから、おっかなびっくりはミリアンとカミーユだけである。

途中から暗くなって来たので、携帯魔導灯の明かりを灯す。

約1時間かけて、確認は終わり、全員が一旦管理小屋へ戻った。
しばしの休憩を取る。
これから長い夜が始まるのだ。

依頼書に記載された情報によれば……
不死者アンデッドが出現するのは午後5時以降……明け方の4時前まで続く。

出現する不死者は、人魂と言われ怖れられ、青白い光を放ち浮遊する火球、ウィルオウィスプ、腐った死体が動き出すゾンビ。
実体の無い魂の残滓である亡霊、そして骸骨の不死者スケルトン。
不死者ではないが、死体を掘り出して喰らう小悪魔グールが現れる事もあるという。

「うふふ、カミーユ。後、2時間くらいで、腐りかかったゾンビが、コンバンハって、『ぼこぼこわらわら』と土の中から出て来るよぉ」

「ね、姉さん! いいかげん、俺をいじるのをやめるっす! ゾンビなんて、想像しただけで気持ち悪いし、悪寒がするっす!」

メンバーの中で最も怖がりのカミーユはず~っと緊張しっぱなしである。

「あはは、つい面白くってさあ」

「くっそ! 姉さんだって、怖がっていた癖にい!」

「うふふ、最初だけね。仕事だもん、割り切ったわ」

「わ、割り切ったって……」

「カミーユ、あんたも同意したでしょ?不死者アンデッドに慣れておく為だもの、仕方ないじゃない♡」

「ううう! 確かに姉さんのロジックは正しいと思うっすけど……仕方なくないっすよぉ!」

そんなこんなで時間が過ぎ、午後5時となった。

まず言葉を発したのは、モーリスである。

「カミーユ、いくつか質問がある」

「な、なんすか、師匠。何を俺に聞こうっていうんすか?」

「護符は身に着けているな?」

「師匠が王都で買ってくれた、銀製のペンタグラムを首から提げているっす!」

「よし!破邪聖煌拳はじゃせいこうけんのガントレットは装着しているな? 今回は『聖印』ではなく、更に強力な『昇天』を込めてあるぞ!」

「と、と、当然、装着しているっす! み、見たら分かるじゃないっすか!」

「うむ!」

「う、うむ! ……じゃないっす! か、革鎧上下に革兜! リ、リオさんから! プ、プレゼントして貰った小型盾もぉ! 葬送魔法『昇天』が込められた魔法杖もぉ、は、肌身離さず持っているっすよぉ!」

「宜しい。準備は万全のようだ……ここで改めて聞こう」

「な、な、何をっすか?」

「カミーユ、お前は本当に冒険者になる覚悟があるのだな?」

「……あ、あ、あるっす」

「間違いないな? 本気だな?」

「ま、間違いないっす、本気っすう! 師匠はいつもくどいっすよ!」

ここで、不死者アンデッドに臆するカミーユにとって、衝撃の発言が為された。

「分かった! 獅子は我が子を千尋の谷に落とすという」

「は? 獅子は我が子を千尋の谷に落とすう!? 何すか、いきなり。そのことわざは知ってるっす。そ、それが俺と何の関係が?」

「関係ある。カミーユ、今からお前を谷底へ落とす。事前に相談し、リオ君も了解済みだ」

「え、ええ~っ!? リオさんもぉ!?」

「ああ、その通り。但し! 私は優しい! だからカミーユ、お前だけを行かせない! 一緒に谷底へ落ちてやる!」 

「ど、どういう事っすかあ! 意味が分かんないっす!」

「こういう事だあ!」

バン!
モーリスが管理舎の扉を開けた。

おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお……

夕焼けが染めた墓地には既に……
身体が腐りきった不気味な死骸、地の底から響く唸り声をあげる無数のゾンビが、
「わらわら」と現れていた。

「ひええええっっ!! で、で、出たああっっ!」

「そうだ! 出たんだ! さあ、カミーユ! 修行の成果を見せて見ろぉ!」

「俺、受講してないっす! ギルドの不死者アンデッドバトル講座は受講してないっすぅ!」

「愚か者ぉ! お前は私モーリスとぉ、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんを!  不死者アンデッドバトルの修行をしておろうがあ!」

「あ、ううっ!」

「しゃんとせいっ、カミーユ! 破邪聖煌拳の極意を思い出して戦え、さすればゾンビなど敵ではないわあ!」

モーリスはそう言うと、カミーユの襟首を「むんず!」と掴んだ。

「な、何するんすかあ!?」

「ははははは! さっき言っただろう! 千尋の谷へ落とす! いや、谷がないから、ゾンビどもの真ん前へ、カミーユ! お前を放り投げる。しっかり受け身を取り、起き上がって奴らと戦うのだあ!」

「うっわあ! 嫌だあ、嫌だあ!!」

「『30』数えたら、駆け付けてやる! お前の冒険者になりたい覚悟、しかと聞いたぞ。だからお前の「嫌だ!」は一切聞こえん!」

「うっわ! しっかり聞こえているじゃないすかあ! 姉さあん! リオさあん! た、助けてえ!」

助けを求めるカミーユだが……

ミリアンは、思う所があるらしい。
ひどく真剣な表情となる。

「カミーユ、あんたが投げられたら、『15』数えて助けに行ってあげる。だからそれまでは頑張りなさい」

そしてリオネルも、

「俺も『15』数えたら助けに行く。それまで頑張って戦え」

「そ、そんなあ!」

頭を抱えてカミーユが嘆いた瞬間。

カミーユが着ていた革鎧の襟首を掴んでいたモーリスは、
ぶん!と凄まじい力で、思い切り放り投げた。

すると!
カミーユは呆気なく宙を飛んだ。

宙高く舞うカミーユであったが、身体を「くるり」と回転させ、軽々と大地へ降り立った。
さすが、モーリスの愛弟子、体術は相当鍛えたに違いない。

おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお……

そこへ迫る大量のゾンビ達。
カミーユはすぐ身構え、リオネルから譲って貰った魔法杖を抜き放つ。
そして叫ぶ。

「ちっきしょ! こんな所で死なないぞ! やってやるっす! 俺は戦うっす!  姉さんを守り抜くって決めたっすう!」

思わず無意識に叫んだに違いない。
カミーユが立てた『人生の誓い』が大声で響き渡っていた。

可愛い弟の叫びを聞いたミリアンが嬉しそうに無言で笑い、モーリス、リオネルも微笑むと……
3人は『30』『15』を数えるまでもなく、即座にカミーユの下へ走り出したのである。
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