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第119話「総本部サブマスターとの会見」

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サブマスター秘書のクローディーヌ・ボードレールによれば……
ギルド総本部本館9階フロアにサブマスター室はある。
この階には、他にもいくつか幹部の部屋がある。
ちなみに最上階の10階フロア全てがマスター専用エリアだという。

魔導昇降機でサブマスターの秘書に案内されたリオネル達一行。
すぐにサブマスター専用の応接室へ通された。

応接室ではサブマスターが既に待っていた。
ここで、クローディーヌは退室した。

「おはようございます! 初めまして、皆さん、ワレバッドの冒険者ギルド総本部へようこそ。私がサブマスターのブレーズ・シャリエです。本日はマスターが不在ですので、私が対応させて頂きます」

サブマスターのブレーズ・シャリエは、長身痩躯の金髪碧眼で結構なイケメン。
年齢は30代の後半、40歳から少し手前くらいだろう。

そしてブレーズは「剣聖とも称される高名な魔法剣士だ」とモーリスから聞いていた。
ブレーズの言葉遣い、物腰は丁寧なのだが、彼も上司のローランド同様、
騎士爵の爵位を持つ王国貴族でもある。
ちなみに、ソヴァール王国の貴族の一部には、男爵以上でないと貴族ではない。
騎士爵は名誉職、準貴族と言い張る者も居る。

話を戻そう。

リオネルは既視感デジャヴュを覚えた。
初見だが、ブレーズとは、以前会ったような気がするのだ。

まずモーリスが挨拶をする。

「おはようございます! お疲れ様です、サブマスター。お忙しいところ、お時間を頂きありがとうございます。以前1回だけお会いしましたが改めまして、私はモーリス・バザン。ランクBで、元・創世神教会の武闘僧モンクです」

続いて、リオネル、ミリアンとカミーユも挨拶する。

「おはようございます! 初めまして! サブマスター! お疲れ様です。俺はリオネル・ロートレック、ランクBです」

「おはようございます! 初めまして! サブマスター! お疲れ様です。ミリアン・バザン、デビュー前で、冒険者見習いです」
「おはようございます! 初めまして! サブマスター! お疲れ様です。カミーユ・バザン、姉と同じく冒険者見習いでっす」

「ふうむ……拝見した王都支部マスターからの推薦状によれば……リオネル君はソロプレーヤーだと記載されています。噂でもそう聞いています。しかし今はモーリス殿達が一緒です。どういう事なのか、経緯の説明をお願いしたい」

サブマスター、ブレーズからの質問は想定内である。
回答は、モーリスが行う事となっていた。

「実は、私モーリスが、ワレバッドへの旅の途中、リオネル君と知り合いましてな」

……モーリスは元司祭だけあり、話術に長けていた。
原野におけるリオネルとの出会い、キャナール村でのゴブリン討伐までを流暢りゅうちょうに語った。

「成る程……いろいろとあったのですね。リオネル君はモーリス殿の客分という事なのですか?」

「はい。ですが、リオネル君は仲間も同然です。今後私達とは、行動をほぼ共にすると思います」

「……分かりました。それでしばらくは、このワレバッドに滞在しようとお考えなのですね?」

「はい、こちらで、いろいろと目途がつくまで生活したいと考えております。私とリオネル君はギルドで随時、依頼遂行を、ミリアンとカミーユはまず冒険者登録させて頂き、デビューさせたいと思います」

「分かりました。私の手配で、ミリアンさんとカミーユさんの登録の手続きを致しましょう」

「恐縮です。本当にありがとうございます。ミリアンとカミーユの修行は基本、私とリオネル君がつけますが、ギルドの講座も受講させたいと思います」

「成る程」

「そしてもうひとつ甘えても宜しいでしょうか?」

「何でしょう?」

「はい! サブマスター、このワレバッドでの拠点として、ギルド総本部の仲介で、手頃な一軒家をお借りしたい。お手数ですが、担当の方にご手配をお願いしたいのです。いくつか候補をご提案頂ければ助かります」

「分かりました。もろもろ了解です」

ここで、リオネルが「ぱっ」と挙手をする。

「あのぉ……サブマスター」

「何でしょうか? リオネル君」

「実はワレバッドへ向かう途中、魔物を『そこそこ』討伐しまして……王都支部で無期限の討伐依頼を受諾していますので、こちらで一旦精算をさせて頂けますか?」

「おお、そうですか、構わないですよ。この9階フロアにも依頼完遂確認用の魔導精算機がありますから」

ここでモーリスも同じく挙手。

「サブマスター、では私も、討伐料の精算をお願いします、リオネル君と同じく、いくつかの魔物の公式討伐依頼を受諾し、倒しておりますからな」

「ははは、分かりました」

報奨金の精算は基本業務カウンターで行うが、事情があったり希望がある場合、
個室で当事者のみで行う。
受け取り金額の第三者への漏洩及び犯罪防止の為だ。

今回は、ブレーズが別室を用意してくれた。
経理の事務担当が対応すると言う。

というわけで、まずモーリスが精算へ。
キャナール村におけるゴブリン討伐の精算を行うのだろう。

しばらくして、モーリスは『ほくほく顔』で戻って来た。
予想以上に、討伐報奨金を受け取れたらしい。

次は……
リオネルの番である。

ちなみにミリアンとカミーユは依頼を受諾していないので、今回は報奨金を受け取れず、大いに残念がっていた。

秘書に案内され……別室へ入ると、何と、経理の事務員ではなく、
サブマスターのブレーズが『ひとりだけ』で居た。

ブレーズは、モーリスが戻って来る少し前に、「しばらく席を外す」と応接室を出て行ったはずである。
そして、モーリスに対応した経理担当と入れ替わっていた。

これは……
何か、特別な理由がある!

リオネルにはピン!と来た。

「リオネル・ロートレック君、精算をする前に、君には話があります」

案の定である。
リオネルはとりあえず話を聞く事にした。

「はい」

「単刀直入に言いましょう。君の本名がリオネル・ロートレックではなく、リオネル・ディドロだと私は知りました。事前に王都支部のマスターから魔法鳩便で、厳秘という条件付きでね。高名な魔法使いディドロ家の3男であると……それは間違いないですね?」

「はい、間違いありません」

「そして君のお父上、宮廷魔法使いのジスラン殿が君を勘当した事も知りましたよ。君の本名と勘当の経緯は、王都支部のマスターからは厳秘だと言われ、この総本部でもマスターと私しか知らない事です」

「成る程、お気遣いありがとうございます」

「うむ、だが君の本当の身元やこれまでに起こった事実を、モーリス殿はご存じないようですが……」

「はい、その件はモーリスさん達には話していません。これまで立ち寄った場所でも明かしていません。時間とタイミングによって、モーリスさんには話す事になるかもしれませんが」

「ふむ、そうですか。ではこちらもその件は、誰にも話さないようにしましょう。君が希望しない限りはね」

「はい、重ね重ね、お気遣い頂きありがとうございます」

ブレーズは丁寧な言い方で、いろいろと気配りをしてくれた。
彼に対する第一印象は好ましいとリオネルは感じた。

もう少し話してみないと分からないが、モーリスで対応しきれない場合、
何かあった時は、相談事をしても良いのかもしれない。

そして、特別にブレーズにより直々に精算が行われたが……

「ほう! リオネル君、やはり凄いですね、君は!」

「え? そ、そうですか?」

「ふふふ、何が『そこそこ』ですか、とんでもない討伐数と内容じゃないですか?」

ブレーズが驚いたのも無理はなかった。

リオネルは、ワレバッドへ来るまでに、オークカーネル以下上位種を含む、
数多のオークとゴブリンどもを討伐しており……
精算した討伐料金の総計は、金貨500枚《日本円で500万円》近くに達していたからである。

「おお!? な、何ですか!? こ、これは!?」

魔導精算機が計測した、『討伐結果』を映す魔導水晶を、
じっくりと見ていたブレーズは更に驚愕したのである。
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